第42話拉致騒動 決着 ✴︎
額が熱を持ち、焦げた前髪が散り落ちていく。
「なんかおかしい。
〈おじいさま〉は嫌味言うし、性格悪いけど、殺人を良しとする人じゃない。
あんた達。本当はどこから……」
「I'll throw a yellow ball.(黄色いボールを投げるよ)」
唐突に、流暢な英語が室内に響く。
黄色っ⁉︎
窓ガラスの割れる音、黄色いゴムボールに見える物が転がり込んで来た。
その意味するところに、あたしは両耳を塞いで顔を伏せると座り込むっ!
ドガアアァァァァァンッッ!
凄まじ爆音と閃光に
フラッシュバン!
バスジャック や、立てこもりなどが起きた際に稀に使われる特殊手榴弾。
殺傷能力はなく、音と光で一時的な難聴と失明を引き起こさせ動きを奪う。
困ったことにこのフラッシュバン、イエローボールはジュニアのお手製。
必要以上に威力が強い。
「がっあ……」
目の前の痩せ男が身をかがめ、閃光に焼かれた目を覆う。
外側に面する磨りガラスの窓が割れる大きな音を聞きながら、思考より先に身体が動いた。
右手に握られた拳銃目掛けて蹴りを放ち、返す足で脳天に踵を落とすっ!
「ナイスパンチラ。
あ、違った、かかと落とし」
「ジュニアっ! カイリっ!」
あたしの脇をすり抜けて行くジュニアとタッチ交代。
床に手を着く痩せ男をたたみかけ、インシュロックをはめる。
イチはっ?
振り返ると、あたしと同じようにイエローボールを回避したらしいイチの側で、カイリが四つん這いになった大男の腹をすくい上げるように蹴り上げたっ。
ドゴオォンッ!
吹き飛ぶ巨体が壁にぶち当たる。
ヤバい!
ガチ切れてるっ!
瞳孔が開き、仮面の様な無表情。
「ジュニアァァっ! カイリ回収ぅ!」
叫んでカイリの元に走る。
「カイリっ! 落ち着いて」
声を掛けるけどまるで聞こえていない。
壁に叩きつけられた大男を狙い足を振り上げるっ!
「カイリィ!」
後ろからカイリにしがみついた。
あたしの重さなんて歯牙にも掛けないけど、一瞬遅れる動作に大男が床を転がっていく。
ガンッ!
カイリの蹴りにボード貼りの壁が衝撃でへこんだ。
わお。馬鹿力。
カイリと壁の間に、イチが飛び込んで来る。
カイリの顔面にイチの拳が直撃して、そのままイチの身体がカイリの方へ崩れていった。
「イチっ!」
抱き止めるイチの顔面は流血にまみれ、蒼白になっている。
出血し過ぎた?
「うぅぅ。気持ち悪りぃ。
バカイリ。手間かけさせてんじゃねぇよ」
イチの声にカイリが表情を取り戻していく。
ほっ。こっちは大丈夫そうかな。
ジュニアを振り返ると構えていたテイザー
「リカコが必要になるだろうから持って行けって。
使わずに済んで良かったよ」
ジュニアの口からも安堵の声が漏れた。
「さすがリカコさん。
て言うか、あたしの憧れのかかと落としになんてコメントした⁉︎」
ジュニアの両のほっぺたをむにゅっと掴む。
「にゃいふふぁんひら」
素直だな!
「カエ。なんか前髪が不思議な形になってるよ。
オデコも火傷した?」
ほっぺたをさすりながらジュニアがあたしのオデコを見つめる。
「うん。ちょっとね」
銃身当てられたなんて言ったら、またひと騒動勃発しそう。
今更ながら額がピリピリと痛み出した。
納得行かない顔はしつつ、大きな騒ぎになる前に撤収必至。ジュニアが落ちた拳銃を回収する。
カイリが大男の腕を捻り上げ、インシュロックで束縛するのを確認して、あたしは袖口からインカムを取り出すと耳にかけた。
「リカコさぁん」
『カエちゃん。無事だった?』
なんだかすごく久しぶりに聞くようなリカコさんの声に、涙が出そうになっちゃう。
「うん。あたしは大丈夫。
ただちょっとイチが……。救急車必要かも」
壁に寄りかかるイチに寄り添って、ハンカチでオデコの傷を押さえてあげる。
チラリとあたしに向ける目が、だいぶ辛そう。
『了解。手配しておくわ。
みんなも聞いて。
今、ちょっと外にお客様が来ててね。フラッシュバンの音に驚いて帰って行ったんだけど、ちょっと展開がありそうよ』
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