第24話自転車の荷台
何だかんだと言ったところで、ジュニアとリカコさんのサイバー組が何をしているのかはよくわからない。
やり取りは基本個別LINEだし、特に声がかかることもないし。
まぁ、任せるって言った以上は待つしかないし、ジュニアとリカコさんなら大丈夫だろうけど。
イチに怒られたのもあるけど、あれから休み時間の度にLINEが気になってしょうがない。
「香絵、最近LINEの返信早くなったよね」
「そうだね。前は既読にならない、返信遅いは当たり前。
生きてんの? って思ってたもん」
スマホを片手に持ったまま、机に突っ伏していた顔を上げると深雪と夏美が言いたい放題。
「LINE気になるの? 最近考え事してること多いみたいだし……。
悩みあるなら話し聞くよ」
机の正面からひょこっと顔を出した愛梨は心配そうにしてくれる。
まぁ、悩みと言うか心配事。
残念ながら、みんなに相談出来る内容じゃない。
「んー。ありがとう、大丈夫。
もうちょい落ち着いたらね」
適当に言葉を濁す。
「頑張ってねっ。香絵」
「?
お、おう」
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ピコピコッ。
ホームルームが終わり、帰り支度の中でLINEの着信にスマホを見る。
6月17日金曜日
リカコ:誰か本庁の捜一にパイプある?
榎本課長の事知りたいんだけど。
15:05
カエ:あるよ! たむたむが捜一にいる。
榎本課長って気の弱そうなおっさんでしょ?
15:05
リカコ:じゃあ、寮で。
15:05
ジュニア:わぁ。カエがまともにLINE見てる。
15:06
悪かったわね。
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「カエ」
寮への道すがら、背後から声が掛かる。
「あれ。イチ1人?」
振り返ると自転車に乗るイチの姿。
場所は朝深雪と待ち合わせてる橋の近く。寮も近い。
「ジュニアは抜糸するからドクターの所寄ってから来るって」
「わぁ。黒スーツとやり合ってからもう1週間かぁ。
なんかここんところ、立て続けにいろいろ起こり過ぎ」
軽くため息が出る。
「カエこのまま寮に行くだろ?
後ろ。乗ってくか?」
イチが自転車の荷台を軽く叩いた。
いつもはジュニアが座っている席が空いている。
「うん。乗ってく!」
スポバを前カゴに押し込んで荷台に横座りする。
「わわっ。何気にバランスとりにくいね」
「乗り慣れないからだろ。危ないから掴まっとけよ」
掴まっとけって言われても、どこに掴まんのよ。
夏服の、薄いワイシャツの背中を右手でそっと握る。
「行くぞ」
イチの足が地面を蹴って、自転車は大きく揺れて走り出した。
うわっ。
反射的に空いていた左手が、身体をかばおうとイチの腰に掴まる。
ワイシャツ越しに鍛えた背筋の硬さを感じた。
乗るんじゃなかった。
なんとも言えない気恥ずかしさにちょっと後悔。
「ジュ、ジュニアは簡単そうに乗ってるのに」
「慣れだろ。
まぁ、後ろ向きにあぐらかいてられるのはジュニアくらいだろうけど。
あのバランス感覚は最強」
寮までの道のりは今までにないくらい短くてあっという間。
自転車の前カゴから出したカバンを渡される。
「チャリ片してくるから持ってて」
イチが離れた隙に大きく深呼吸。
きっと乗り慣れない自転車の荷台になんか乗ったから、呼吸が乱れたんだ。
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