第10話 みんな一緒に露天風呂

 美冬は温泉旅館『雪灯り』の玄関前に転送されていた。オルレアンは旅館脇の空き地で起立していた。


「美冬姉さま!」


 美冬の姿を確認したノエルが美冬に駆け寄って抱きついて来た。


「美冬姉さま。どんな競技でしたか。お怪我はありませんか。相手はどんな方でしたか?」


 ノエルは美冬の寂しい胸元に顔を埋める。


「くすぐったいよ」

「もう離さない。次に突然消えちゃったら私もついて行くんだから」

「大丈夫だから心配しないで」

「はい」


 美冬の帰還を心より喜んでいるノエルだった。


「ノエルちゃーん。みふゆちゃん。お風呂に行きましょ」


 玄関でマリーが呼んでいた。


「もう、待たなくても良かったのに」

「いいえ、そうはいきません。さあ、お風呂に行きましょう」

「そうね」


 ノエルに手を引かれ、美冬は大浴場へと向かった。


 大浴場はオーソドックスな日本風の造りだった。タイル張りの大きな浴槽が二つあり、湯温高めの湯と低めの湯が並んでいる。外側は大きなガラス張りになっていて、外の日本庭園がよく見える。その庭園の中に比較的大きめの露天風呂が設置されていた。


「きゃー。露天風呂、露天風呂ですよ。美冬姉さま、さあさあ」

「はいはい。焦らないの、ノエル」

「大丈夫だから……うわああ!」


 とか言いながら足を滑らせるノエルだった。

 転びそうになったノエルの体を支えたのは銀色の毛並みが美しい狐の獣人、マリーだった。


「ノエルちゃん。うーん。可愛いわ。今からお姉さんが体を洗ってあげますからね」

「え? 私は美冬姉さまと露天風呂に」

「逃がさないわよ」


 有無を言わさぬマリーに抱きしめられたノエルは、大浴場の洗い場へと連行され、じゃぶじゃぶと全身を洗われていた。

 美冬はみゆき、ハルカと一緒に露天風呂へ入った。

 みゆきもハルカもなかなかスタイルが良い。美冬は彼女たちの胸元に少々嫉妬してしまうのだが、そんな事は気にしていないとばかりに平静を保っていた。


 いつしか雪は止み、雲の切れ端から太陽が顔を出していた。もうすぐ日没なのだろう。赤くなった太陽は周囲の雲を赤く染め、そのしたの山影に隠れようとしていた。その下には青々とした湖水を湛えた湖が広がっているが、太陽の赤い光を反射して湖面はキラキラと輝いていた。


「綺麗な夕焼けですね」

「そうだな。こんな美しい風景を眺めるのはイイな」

「あんなつまらない戦いの後なので、余計に感動してしまいます」

「つまらないって? 美冬は何をして来たんだ?」

「やきゅうけん」

「ぷぷっ。マジ?」

「マジです」

「それは災難だったな」

「ええ災難でした。ルールの隙をついて上手く脱がなくても良いように頑張ったんですけど。結局は衣類が自壊するような仕掛けがあって」

「脱がされたと」

「はい」

「そりゃ本当に災難だったな。くくく」

「笑い事じゃありませんよ。全く」


 日が傾き空が暗くなる。そして一番星が輝き始めた。

 美しい風景を眺めていると癒されるし心が開放される。この解放感は深遠な意味を持つのだろうか。これが悟りに近づくという事なのだろうか。

 そんな哲学的な思索に耽っていた美冬の所にノエルとマリーがやってきた。


「美冬姉さま。私、ピカピカに洗われちゃいました」

「良かったね。ノエル」

「次は美冬姉さまの番です。さあさあ」

「私は自分で洗うから」

「逃がさないわよ。美冬ちゃん」

「え? 待って待って!」


 美冬の嘆願は無視され、マリーとノエルに連行された。そして「くすぐったい」だの「ヤダ感じちゃう」だの「そこは触らないで」とかなんとかの叫び声が浴場に響く。蚊帳の外となったハルカとみゆきは暮れ行く空をぼんやりと眺めていた。


※これで『やきゅうけん』編はお終いです。続きを書くかどうかは未定ですが、時間的余裕がないので書けないと思います。ごめんなさい。

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チーム・アイオリス(中身はトレジャーハンターとマーズチルドレン他の寄せ集め)……自主企画『ダイスロール・ウォー』参加用作品 暗黒星雲 @darknebula

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