第9話 『やきゅうけん』の後始末

 すっぽこぽんになった二人。

 『やきゅうけん』の勝敗は、どうやら両者が敗者と判定されたようだ。


 電磁障壁の中へとローラがやってきた。彼女は美冬のカバンから赤いパイロットスーツを取り出し、美冬の着替えを手伝った。このスーツは素肌に直接身に着けるタイプだったので丸裸になったのは丁度良かったかもしれない。

 来朝は来朝で、自分のカバンから元々着ていた衣類を出して身に着ける。ノースリーブのシャツにホットパンツといったラフな格好だったのだが、それゆえスリムなのに意外と豊かな胸元が目立つ。美冬はその胸元をちらりと見つめてからため息をつく。そして、ローラに質問した。


「そこに転がっている兵士は何なのでしょうか?」

「これは監視員です。競技が正常に行われているかどうかを監視しています。今回はこの不思議な障壁? の為に中が見えなかったようで、かなり近づいてお二人の様子を注視しておりました」


 ローラの言葉に来朝が悔しそうに歯ぎしりをする。


「完全に覗きするつもりだったみたいね。こいつら、銃の他にカメラとか持ってるし」

「そうね。ムカツク」


 美冬はタタタンとアサルトライフルで射撃を開始した。来朝は両腕のアタノールから毒液を放つ。倒れていた兵士は銃弾に穿たれ、そして来朝の毒液で溶解してしまった。


「おや? おかしいですね」


 ローラが首を傾げる。


「どうしたのですか? ローラさん」


 美冬に質問にローラは首を振っている。


「いえ、競技終了した際に全ての参加者は、生死にかかわらず待機場所へと転送されるはず……どうしてこのままなのでしょうか?」

「確かにそうですね」

「変です」


 その時、オルレアンが音声にて警告を発した。


『戦闘ヘリ八機、水陸両用のホバークラフト四隻が接近中。ショッピングモール周辺にも歩兵部隊が展開中です』


「あらら。怒らせちゃったかな?」

「女子の裸を拝もうなんて魂胆が気に入りません。ここは戦ってぎゃふんと言わせてやります」

「そうね。じゃあヘリとホバークラフトは私が相手をします。歩兵部隊はは来朝さんに任せてよろしいかしら」

「はい、任せてください」


 見つめ合い頷き合う二人。

 美冬はオルレアンの重力制御によりふわりと浮き上がる。そのまま胸の操縦席へ入っていく。


「ショッピングモールまでは私が送ります。さあ、手のひらに載って下さい」


 オルレアンの両手のひらに来朝とローラが座る。オルレアンはゆっくとと浮き上がり、そして一気にショッピングモールまで飛翔した。そして入り口で二人を地上に降ろした。


「では、ヘリをやっつけますか」


 オルレアンは巨大な盾を構え、静かに上昇していく。重力制御で飛翔するこの機体は、余計なジェット噴射などしない為、砂埃を巻き上げたりすることはない。


 八機の戦闘ヘリが迫ってくる。

 それは二重反転するローターが特徴的なロシア製の攻撃ヘリ、Ka-50ホーカムAだった。胴体脇の翼に、ロケット弾と対戦車ミサイルを搭載していた。


 美冬の視界に赤く『ロックオン警報』が浮かび上がる。距離は数千メートル。レーダーの捉えられて当然の距離だ。


「ジャンヌ、行きます」

「了解しました」


 オルレアンの動力系が四次元化する。ゆっくりと上昇していたオルレアンは突然超加速を始める。機体は数千メートルをほぼ瞬間的に移動し、ホーカムAの正面を塞ぐ位置で静止した。

 オルレアンは再び長剣を抜き舞うように振るう。その刹那、四機のヘリが機体を切り裂かれて爆散した。

 他の機体は散開しつつオルレアンを包囲する。


「海上のエアクッション型揚陸艇は既に上陸。ロシア製のムレナ型です。現在、戦車が上陸しています。これはロシア製T-14です。計四両。戦車に続きエアクッション型揚陸艇も地上へと侵攻。対空ミサイルを発射。ホーカムAも対空ミサイルを発射しました」

「全部叩き落すよ」

「了解」


 オルレアンは人の精神を人型機動兵器と直結させて操縦する。操縦者は自らがロボットそのものになったかのような感覚を味わう。そして視界はロボットの視界になり、また、動力が四次元化されているため、全周囲が見えるようになる。


 空中で四方から飛来する対空ミサイル。地上から上昇してくるミサイル。その全てを美冬は把握していた。オルレアンは再び剣を振ってミサイルを切り裂き、また、左手に携えた巨大な盾でミサイルを叩き落とした。

 そして瞬く間に四機のホーカムAを切り裂いて撃墜した。


 今度は地上。

 オルレアンは瞬時に地上へと着地し、T-14に長剣を突き立てる。移動速度の速さに、戦車も揚陸艇も面食らっていた。砲の照準ができず、砲身は明後日の方へ向いたままだった。


 美冬は残りの戦車三両と揚陸艇を切り刻んだ。そしてショッピングモールの方を確認する。

 そこでは、白い雪迷彩の戦闘服に身を包んだ兵士と、来朝が死闘を繰り広げていた。たった一人の来朝に十数名の兵士が立ち向かっている。しかし彼らは一人、また一人と来朝の毒に倒れていく。


「冷静に考えてみると、来朝さんの毒攻撃って物凄くエグイよね。ジャンヌ」

「そうですね。美冬様」

「あの人、人間なのかな?」

「資料によると……彼女たちは『退魔士』見習いなのだそうです」

「あんなに強くてまだ見習いなの? でも、人間じゃないよね」

「人間ですよ」

「そうなんだ。でも、人間離れしてるよね」

「それには同意します。『六花特殊作戦群』という組織に所属する『退魔士』見習いさんですね。メンバーそれぞれが特殊能力を持っているようです」

「なるほど。正式な所属組織があるんだ。何だか寄せ集めっぽい私たちとは雲泥の差だよね」

「それは何とも言えませんよ。今回の『ダイスロール・ウォー』に参加したチームの中では私たちアイオリスチームの装備は飛びぬけて優秀ですから」

「そうそう。私は『やきゅうけん』だったし、ハルカさんは『つなひき』だっけ? ロボも戦車も必要ないって感じだよね。どちらかというと、人と人が一対一で争うゲームって感じ。ところでさ、来朝さんの加勢しなくていいかな」

「来朝様が圧倒的優位ですね。ほら、最後の一人が今倒されました」

「ほんとだ。もう人間化学兵器だね」

「全くです」


 オルレアンに気づいた来朝が両手を大きく振っていた。美冬も長剣を天に向けて突き出し、敬意を表す。


 オルレアンと来朝は眩い光に包まれ、そしてその場から消えてしまった。

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