第8話 決着『やきゅうけん』?

「ジャンヌから通信入りました。システムのサーバー、およびPCを特定。プログラムのデリート完了しました……サーバー、およびPCの初期化完了。作業終了しました。帰りましょうか、来朝さん」

「もうちょっと、おコタで温まっていたいです」

「じゃあお茶入れますね。玄米茶だけど、これでいいかしら」

「はい」


 美冬は保温ポットのお湯を急須にそそぐ。

 来朝はクンクンとお茶の香りを嗅いでいる。


「うーん。玄米茶の香り、素敵です」

「緑茶と玄米のブレンドがいいのよね。私、このお茶大好きなんです」


 美冬が湯呑にお茶を注ぐ。

 二人はしばらくお茶の香りを楽しんだ後、フーフーと息を吹きかけながらお茶を飲む。


 そのとき、電磁障壁の外より数名の兵士が侵入してきた。白い雪迷彩スノーカモフラージュに身を包んでいた。そして、手にしたアサルトライフルを二人の女子につきつける。


「無粋ですわね。美冬さん」

「ほっこりとしたくつろぎの空間が台無しですね。来朝さん」


 しかし二人共、全く動じていない。


「お前たち、何故『やきゅうけん』をしないのだ」


 隊長らしき男が二人に問う。

 しかし、美冬はお茶をすすりながら平然と答える。


「やっていますよ。でも、全て『あいこ』なので服を脱ごうにも脱げないのです」

「そんな馬鹿な事があるか。どんなイカサマを使っているんだ」

「イカサマだなんて人聞きの悪いことを……」

「黙れ、この端末は回収する。俺たちが監視しているから、普通にじゃんけんをして『やきゅうけん』で勝負をするんだ」


 部下らしき男が二人の端末を回収した。そしてなお、隊長らしき男は美冬に銃を突きつける。


「コタツから出て競技を開始するんだ。逆らうなら射殺するぞ」


 五名の兵士が一斉に銃を向ける。

 しかし、美冬と来朝は一向に従う気配がない。


「いい加減にしろ」


 隊長の持つアサルトライフルの銃口が美冬の額を小突く。


「あら。貴方、死にたいのかしら?」

「それはこっちのセリフだ」


 尚も恫喝する隊長に対し、美冬はオルレアンを指さす。既に長剣を抜いていたオルレアンは、その切っ先を隊長の胸に軽く当てた。長剣の先端がわずかに雪迷彩の防寒服を切り裂いた。


「な……何故こんな巨大ロボットが護衛してるんだ」


 オルレアンに剣を突き付けられた体長は固まってしまう。美冬はアサルトライフルの銃身を掴んで、引き寄せ奪う。そして、腰のホルスターから自動拳銃も奪った。


「あら。これ、マニアックですわね。ロシア製のAK-12ですし、拳銃も同じくロシア製PL-15。でもこれ、西側の銃と酷似してますし、使用弾も9㎜×19パラベラム弾ですし、AK-12の方は5.56㎜ですし、あのロシアの兵器が西側の兵器と同じ弾薬使ってるってだけで虫唾が走ったりするんですけど、貴方、どうして7.62㎜のAK-47とかトカレフTT-33を使わないの??」


 アサルトライフルを突き付けられ両手を上げながら後ずさりをする隊長だが、美冬の質問には答えられないようだ。


「し……知らない。この銃がロシア製だなんて知らなかったし、トカレフなんて知らない」

「あらー。トカレフをご存じないと。ロシア製兵器についての知識は皆無なんですね。では、どうされますか? 今すぐ撤退されるのなら見逃してあげますけど」

「撤退などできるか。お前たちに『やきゅうけん』をさせるまで引き下がれん!」


 青ざめた表情ながらも任務を遂行しようとする隊長だったが、美冬がパチンと指を鳴らした瞬間にオルレアンの剣で薙ぎ払われる。そして、コタツを出て立ち上がった来朝が右腕を前に突き出した。

 その右腕には、いつの間にかロボの腕のような籠手が装着されていた。その来朝が残りの兵士へと攻撃を仕掛けようとしたのだが、オルレアンの剣が既に兵士を薙ぎ払っていた。


「美冬さん……仕事が早すぎです」

「AIのジャンヌをほめてください。わたしはこの、AK-12の方に興味があるかな?」


 とか言いながら、タタタン、タタタンとバースト射撃をする。


「良い感じ。これ貰っちゃってもいいかな?」

「良いと思いますけど、美冬さんそんなに銃が好きだったんですか?」

「うん。好きみたい。特にロシア製ってところに惹かれちゃうのよね」

「恐ロシア……」


 その時、美冬と来朝の衣類が瞬間的に燃え、そして消失した。

 二人はすっぽこぽんになりお互いを見つめていた。


「どうして? システムは完全に破壊したはず」

「いやーん。服が全部消えちゃった!」


 78Aの美冬は周囲を警戒し、83Eの来朝は胸元を揺らしながら身もだえしていた。


 電磁障壁の端に転がっていた隊長がにやりと笑う。


「馬鹿め。その衣類はリモコンで発火できるのだ……」


「いやーん。見ちゃダメえ!」

「死ね。この外道!」


 美冬はAK-12で射撃し、来朝は右腕の籠手アタノールから毒液を噴射していた。


 隊長の白い防寒着は赤く染まり、そして隊長は来朝の毒液でシューシューと音を立てながら溶けていった。


 氷床の上には血だまりと、赤く染まった防寒着だけが残っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る