総会の不思議な参加者


時期が年度末になり,国際交流組織の総会を開くことになった。


出席者は,少しみすぼらしい格好をした一人のおじいさんを除けば,いつもの顔ぶれだった。例のおじいさんは,イベントにも交流広場にも参加したことがなく,見覚えがなかった。


しかし,田舎だから,常連さんの中には,彼のことを知っている人が数人いて,すぐに声をかけた。

「赤木さん,最近どうです?」


「僕は,もう癌だと思うわ。」

即答だった


「え?病院行った?」


「いいえ。」


「じゃ,なんでそう思うの?」


「周りは,みんな癌だから。十人に一人が癌らしいよ。」


すると,よく機転が効く奏が言った。

「なら,あなたは,大丈夫じゃない?周りはみんな癌だから。」


おじいさんは,これに反論するのが難しいようで,黙り込んだ。


年度の事業報告や会計報告が済んでから,親睦会を開いた。例のおじいさんも,参加した。


「赤木さん,あなたは,この組織に何を期待しているの?」

赤木さんは,組織の賛助会員になっていたようだ。つまり,お金だけ払って,行事に参加しない会員だ。


「何もない。」

また即答だった。


「え?でも,会員になってくれているよね?」


「うん,とりあえず応援しているから。」


「でも,何も期待していない?」


「うん,何もない。」


このおじいさんに,後一回だけ会ったことがある。都会の眼科へ通うために,電車に乗っている時のことだった。


総会で出会ったことを覚えていたようで,突然名前で呼ばれたのだ。

「お仕事は?」

平日の昼間に電車に乗っているのは,確かに怪しい。


「今日は,通院で,ちょっと都会へ。」

私が説明した。


「通院?どこが悪いの?」


「目がちょっと…。」


「そうか。僕は,頭が悪い。」


「そんなことないでしょう?」


「唐さんは,まだ中国には帰らないの?」


「まだ契約は終わっていないので,まだです。」


「帰るときは,言ってね。送別会をしてあげるから。」


「…ありがとうございます。」

よく知らない人に,送別会をしてもらっても…と思ったのだが,何も言わないことにした。

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