春の到来


教育委員会で,語学指導以外の仕事がしたいと毎日のように呟いていたら,いつからか,部署異動の話に発展した。


異動先は,姉妹都市関係を担当し,私が同行させていただいた中国の姉妹都市への訪問団派遣の企画を担当した部署,総務部だった。


異動は,下の立場の職員は,みんな承認している状態で,あと誰か一人偉い立場の人の後押しがあれば,確実になると言うところまで,話は進んでいた。


白藤さんが,副町長は説得しやすいから副町長を狙おうと勧めてくれた。そして,異動を希望していた部署の職員みんなさんと副町長の飲み会まで計画してくれた。


ところが肝心の副町長は,遅刻だった。とりあえず,来ていたメンバーで話し合いを始めた。上司の助手だけがよくわかってくれていて,他の市町村の事例も調べてくれているが,彼女は権限がないから何も出来なくて,上の立場の人たちは聞く耳を持たないと事情を説明した。


すると,白藤さんがすぐに言った。

「あの子ってそんなにしっかりしている子だった!?十聞いて一しかできないような子だと思っていた!」


白藤さんは,相変わらず品がない。


そしたら,他の職員が言った。

「十聞いて十できる子だよ。すごいよ。」


少しすると,副町長がやっと来られた。白藤さんが私が話しやすいように,集まった目的を話すと,副町長がすぐに言った。

「それなら,また昼間に飲んでいない時に,ゆっくり話に来てもらったら?今日は,飲み会だから。」


副町長は,飲む時に重い話がしたくないタイプのようだ。また日を改めて話すことになった。


時期を改めて話に行ったら,話がすでに通っている様子で,私から話すことはほとんどなかった。部署異動は,これで決まった。


白藤さんと同じ部署になるのが少し不安だったが,運良く彼女も別の部署へ異動になった。


直属の上司となった人は,とてもしっかりしていて,品のある中年女性だった。町長と副町長の秘書をしているだけあって,頭の中で大量の情報や日程を整理した上で,いろんな状況に合わせて臨機応変に対応し,的確に判断を行うことの出来る人だった。しかし,雰囲気は全然硬くなくて,話しやすくて,優しい笑顔の人でも,あった。仕事内容は,ともかく,私は,この人の部下になれただけで,幸せだった。


仕事も,学校訪問を継続しながら,他の仕事もできるようになった。当部署の事務作業も少し手伝うことになり,町の広報誌に国際交流コラムという連載を掲載させてもらうことも,決まった。まだ暇な時間はあったが,前に比べて,部署異動してからの方が,仕事内容は,充実し,やり甲斐を感じた。


歌子に報告すると,喜んでくれた。

「あなたには,ようやく春がきた。これまでは,ずっと冬で,じっと力を蓄えているだけだったけど,これからは,なんぼでも花を咲かせられる。」


私は,歌子のこの言い方が素敵で,今でも一文一句忘れられずにいる。全部は理解していなくても,歌子が私の気持ちをある程度わかってくれていて,喜びを分かち合えて,ジーンときて,涙が出そうになった。


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