第23話 ラブコメ主人公
自分から頭を上げる勇気が出なくて土下座状態のまま時間を過ごす。パソコン部はもちろん、
だからと言って自ら頭を下げた以上は簡単に上げるわけにもいかず、誰かが第一声を発するのを待ち続けた。
「は、裸は無理だけど、可愛いポーズなら……」
「そ、それは
やはりこの状況を打破してくれたのは聖女である
「
「裸よりは全然マシだよ。それにわたしがパソコン部の手助けができるとしたらこれくらいだし」
「ふ……ふふふ。さすがは
「そんな大袈裟な。僕はただ、このチャンスを逃したらもったいないって」
「
腕で胸元をガードしながら背中を丸める
「そりゃ……まあ」
野太く陰湿な声がパソコン室に響く。お前らだって
その気持ちをこうして言葉にした僕だけがその権利を得られるんだ。もし
「でもそれは
「「「おおおおおおお!!!!」」
正式にパソコン部からの依頼を引き受けてくれた
「それでわたしはどんなポーズを」
「まままままずは人差し指を唇に当てて」
「いやいやいや上目遣いで見つめてもらうのがさk……んんんんん想像したら緊張で胃があああ……」
「こう腕で胸を……おっふ!」
欲望を丸出しにしたパソコン部員が次々にポーズをリクエストする。ただ緊張と興奮で最後まで言えていない。
「えーっと、わたしはどうすればいいのかな?」
「自分なりの可愛いポーズをしてみるとか」
「例えば……こう?」
両手を後ろで組み、左足を少し曲げて見上げるように首を傾げた。某アニメ制作会社が得意とする角度である。
彼女から溢れる母性のような優しさとおさげにした髪がポーズと非常に合っている。もしもリクエストではなく入学式の日にこんな
それくらいの魅力と破壊力を
「「「おおう!!」」」
このポーズは当然僕以外のオタクの心にも刺さる。陰湿な雄叫びが妙な圧力を持って僕の耳を襲った。
「これでよかった……かな」
「うん! 最高!」
土下座をしたまま首を傾げた
「
「川瀬くんの方を見ればいいの?」
「あうっ!!」
こうなることはわかっていただろうに、川瀬は自ら死地へと足を踏み込んだ。
「ごめんね。我々は女子に免疫がなさすぎてみんなこんな風になってしまうんだ。裸なんて見せてたらパソコン室は爆発していたよ」
「見せないですよ!」
「ふふふ。その反抗的な顔もかわ……おっと、失礼」
「やはり間近で見るJKは瑞々しい。これが男の
「ねえ
「違うよ
世の中には知らない方がいいこともある。
「他にはどんなポーズを取ればいいかな」
「うーん。VRの参考にするから画面の向こうにいる人間を意識したようなポーズとかかな」
「画面の向こうって言われても……難しいよ」
「ふっふっふ。人ならここに大勢いるではありませんか。我々の存在を意識すればいいのです」
名案と言わんばかりに
「拙者も微力ながら協力しますぞ。ぬふふふふ。勢い余ってそのおぱ……お……おおおお!!!」
指を意味深にモミモミさせながら飛び跳ねる姿が気持ち悪い。先輩じゃなかったら殴っていた。
「ひひひひ膝枕なんかも、できれば」
「頭なでなで! 頭! 男の体には二つの頭がある」
「唾を吐いてほしい! こんなキモいリクエストされたら唾を吐きたくなるでしょ」
もはやポーズのリクエストではなく理想のシチュエーション発表大会になっている。絶妙に下ネタを織り交ぜるのがなんともキモオタらしい。会話のキャッチボールはできないけど一方的にボール球を投げるくらいならできる。
「みなさんのリクエストに応えるのは難しいですけど……わたしが出す条件を飲んでくれたらお手伝いさせていただきます」
「「「
現代日本ではほぼ使われないようなリアクションが乱れることなく綺麗にシンクロした。個々のクセが強い上に同調までされると圧力がすごい。
「それで、条件っていうのは? 僕らだってなんでもできるわけじゃないよ」
「ふふ。裸を見せろなんて言わないよ。
怒って部室から出ていかなったので許してくれた上でパソコン部に協力してくれているのかと思ったら、実は結構根に持っていたらしい。
「わたしの条件はね、
「はい?」
「だから、
「まままままままマジですか!?」
「マジだよ。だって
「あ、ああ。そういう意味ね。うん。たしかにそれは理にかなってる」
パソコン部員の前で
校内に溢れるカップル共もこれくらいのことは平気でやってるし、もっと先のことを経験してるだろう。VRの素材提供くらいかわいいものだ。
「そんな都合よく
「んふふふふ。人生のピーク到来ですな。ま、わいらはこれから完成するVRで永遠のピークが訪れますがな」
「
パソコン部員にマウントを取ろうと思ったら二次元で経験を積むしかない。いよいよ陽キャとは生きる世界が違うことを実感した。
「それでは早速、頭をなでなでから」
「は、はい!」
僕はただ真っ直ぐに気を付けをして
丸い顔がぐいっと近付くと風呂掃除の時に感じた匂いに包まれた。
柔らかくて温かい手が頭に触れると、おっぱいに押し潰された時とは違うぬくもりが全身に広がっていく。
「どう……かな?」
「なんか、恥ずかしいかも」
本当は気持ちよくて仕方ないのに照れ隠しで本音を言えない。いくら嫉妬されないとは言えパソコン部の前でデレデレするのは恥ずかしい。だって僕と
ボランティア部の部員同士が助っ人のためにやっているだけ。個人的な感情をここに持ち込んではいけないんだ。
「その手付きがリアルななでなで……おっふ!」
「ふふふふふふ。遠目にイチャつくリア充カップルを見たことはあったが、こうして間近で見るとやはり違うね。質感や細かい仕草がとても参考になる」
「それはよかったです。じゃあ、もう助っ人は終わりでいいですかね?」
「まだだ! このチャンスを絶対に逃さない! そう教えてくれたのは
「さあさあもっと見せてくれ! リアルJKのイチャイチャ仕草を!」
目にヤル気の炎をメラメラと燃やしながら
二次元の男の
ちょっとだけ安心した。
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