第19.5話 リラックスタイム

 ちゃぷん、とお湯に右足を入れると部室での出来事が蘇りました。わたしが誠意を見せろと言った手前、土下座してお願いされては引き下がれません。

 道玄坂どうげんざかくんはおっぱいの誘惑には勝てるのに足が絡むと必死になります。足が大好きなのでしょうか?


 そんなことを考えながら全身がお湯に浸かるとようやく一息付けた感じがします。


「ふぅ~~~」


 自然と息が漏れました。佐渡先輩に魅了されて水泳部に取られてしまうと思っていたので、道玄坂どうげんざかくんが土下座までしてボランティア部への入部を希望してくれた時は飛び跳ねたいくらい嬉しかったです。


 部長がわたしの肩をずっと掴んで離さなかったので物理的に不可能でしたけど。さすがの佐渡先輩も道玄坂どうげんざかくんを水泳部に引き込むことはしなかったのもホッとしたことの一つです。


「一緒に部活できるって、嬉しいな」


 部長は運動部の助っ人、わたしは一人でごみ拾い。誰かの役に立てるのならそれでも構わないという精神でやってきました。だけど、一度誰かと一緒に活動してしまうと寂しくなってしまうのです。


 部長が卒業したあとも、わたし達が卒業したあともボランティア部には活動を続けてほしい。そのためにはまず道玄坂どうげんざかくんの入部は必須でした。


道玄坂どうげんざかくんが新入生に土下座したら誰か入ってくれるかも。ふふ」


 下級生に躊躇ためらうことなく土下座をする道玄坂どうげんざかくんを想像したらあまりにも違和感がなくてつい笑いがこぼれてしまいました。


「それにしても」


 湯船の中で伸ばした足に手を触れると、当然ですが舌と手では全然違うことを再認識しました。手の甲をぺろりと舐めてみても全然くすぐったくありません。道玄坂どうげんざかくんに足を舐められた時はもっとぬるりといやらしい感じだったのに。


「きっと道玄坂どうげんざかくんの舐め方のせいだ。うん。別にわたしは変な気なんて……」


 佐渡先輩は足を舐められてから別人みたいに態度が変わってしまいました。その理由を知りたくてダメ元で道玄坂どうげんざかくんを煽ってみたのですが結局答えは分からず仕舞い。むしろ明日からどんな顔で彼と接すればいいかわからなくなってしまいました。


「また足を舐めさせてくれって土下座されたらどうしよう」


 ちょっとでもわたしが道玄坂どうげんざかくんを怒ったら、彼は許しを請うために土下座をしてくるかもしれません。今日なんて一切迷うことなく頭を下げていて清々しいくらいでした。

 

 ギャップ……なんでしょうか? 勢いであんなことを言ってしまいましたが、道玄坂どうげんざかくんは心の中でわたしをバカにしていたかもしれません。

 ヘタレな男子が頭を下げてもヘタレなだけだって。


「わたしは悪くない。そう。道玄坂どうげんざかくんが佐渡先輩にデレデレしたから誠意を見せてもらっただけ。部長も納得しての入部だし、これで良かったんだ」


 自分に言い聞かせるように感情を言葉にすると浴室の中で響いて、第三者からそう言われたような気がして心強くなりました。

 学年は同じでもわたしの方がボランティア部の先輩なのですから、先輩の言うことはしっかりと聞いてもらいます。


 もう土下座されたくらいじゃお願いは聞いてあげませんからね。

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