第14.5話 似た者同士

「うふふ。道玄坂どうげんざかくんっておもしろい子ね」


「もう! お母さんってば男子高校生に興味持ちすぎ。お父さんに言いつけるよ?」


「あらあら。美咲みさき道玄坂どうげんざかくんとお母さんがどんな関係になると思っているのかしら」


 お風呂掃除が終わっていろいろあった後、わたしが着替え終えた頃に道玄坂どうげんざかくんは浴室から出てきました。お母さんは食事に誘ったのですが、彼は急いで着替えるなりすぐに帰ってしまったのです。

 

 だから今夜はお母さんと二人きりでの食事になってしまいました。いつもより少し量が多いのは道玄坂どうげんざかくんが帰ってしまったせいです。この責任は近いうちに取ってもらわねばなりません。プール掃除までに少しでも瘦せなければならないのですから。


「それにしても水着でお風呂掃除なんて、美咲みさきは大胆ね」


「だって、練習しておかないと不安だったんだもん」


道玄坂どうげんざかくんを取られちゃうのが?」


「ち、違う。人前で水着になることがだよ」


「うふふ。アピールの仕方がヘタクソなのはお母さんとそっくりね」


「アピールじゃないし。それにお母さんは男子が勝手に寄ってきたでしょ?」


「そんなことないわ。男の子と話すのが苦手で、美咲みさきくらいの年の頃は彼氏なんて全然って感じだった」


 遠い目をして語るお母さんの姿はまるで演技のようです。男子高校生を簡単にたぶらかせるお母さんが学生時代に彼氏がいなかったなんて信じられません。


「初デートでお風呂に誘って押し倒すなんて、お父さんが聞いたら倒れちゃうかも」


「ぜっっったい黙っててよ!」


「うふふ。お父さんには元気でいてほしいからね」


 お母さんはいつもの調子で笑っています。こっちは思い出すだけで体が熱くなるくらい恥ずかしい思いをしたというのに。やっぱり誰もいない時に道玄坂どうげんざかくんと呼ぶべきでした。

 

 あんなに体が触れ合っても襲わなかった道玄坂どうげんざかくんは本当に男子らしくないというか、良く言えば紳士です。土下座をしてまでボランティア活動に協力してくれるだけのことはあります。


 だからこそ、お母さんにまで土下座をした時は本当に驚きました。やっぱりわたしみたいぽっちゃりではなく、お母さんみたいな包容力に男子は惹かれるのでしょうか。


 別に道玄坂どうげんざかくんの好みなんてどうでもいいんですけどね! 女子高生が母親に負けたのが悔しいだけです。


「それにしても、ふふ。ヤラせてくださいなんて言いながら土下座をする子、本当にいるのね」


「笑いごとじゃないよ。お母さん本気にするんだもん」


「だってあんなに必死にお願いされたら、ねえ?」


「もう! お母さん押しに弱すぎ」


「それはお互い様でしょ」


 わたしはお母さんとは違います。あの日、道玄坂どうげんざかくんに土下座された時だって……。いいえ、あれはボランティア活動をやらせてくれという土下座だったのですから、お母さんの言う通りかもしれませんね。

そして、道玄坂どうげんざかくんも押しに弱いというのもお母さんの言う通りな気がします。


「二人とも押しに弱いんだから誘惑に負けたらダメよ?」


「誰もわたしなんか誘わないよ。わかってるくせに」


「あらあら。本当にそうかしら?」


 お母さんは全てを見透かしているような意味深な笑いを浮かべました。

だけど男子はこんなぽっちゃりで地味な女よりも、運動部のスリムな子が好きなんです。わたしはちゃんと現実を受け止めているのです。


美咲みさきはもう少し自分に自信を持っていいと思うんだけどな~」


「それができたら苦労しないよ」


 わたしはハンバーグを口に放り込みもぐもぐと噛みます。いろいろ悩みはあるけれど、口の中に肉汁が広がる瞬間は幸福が上塗りされていきます。

 今日はお風呂掃除を頑張ったのでカロリーも気になりません。それに、体があんなに熱くなったのですからエネルギー消費は半端なかったはずです。しっかり食べて明日に備えなくては!

 

 それに、いつ激しい運動をするかもわからないですし。日々の体力作りは大切なのです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る