第5話 私のフッ素加工のフライパン
鉄のフライパンが重くて腱鞘炎っぽくなったのでガスコンロの脇に置けるような直径18センチ、深さ10センチのフライパンに買い換えた。
これは今年一番の買い物でラーメンも雑炊も味噌汁も炒め物も餃子も、全てこのフライパン一つで調理してきた。
ご時世で家にいる時間が長かったため、たまたま書店で見つけた米粉スイーツを買って蒸しパンを作ったら今まで食べてきた蒸しパンは何だったんだ?って位美味しかったので年末の今までに50回以上は作ってさすがに蒸しパンには飽きてオーブンレンジを買うための貯金をしている。
と、言う訳で今年は無理をしない方向にシフトチェンジをした。
昨日ベランダの植物を整理するためバラの中苗を一つ処分した。部屋に飾っていた切り花を見ても何とも思わなくなっていたからだ。
ハサミで切った苗と土と期限切れの有機肥料を市指定のごみ袋に入れて出し、余った液体肥料をトイレに流して収納場所だった冷蔵庫周りがすっきりしたのを見て、
そうだった、そうだった。
私、本当は冷蔵庫周りに何も置きたくなかったんだ。
本当は鉢植えのバラを育てる面倒な事が好きな人間じゃなかったんだ…こうなりたい理想の自分を演じてきただけだ。
と今まで五年間やってきた事が徒労に思えて急に笑いだしながら、泣いた。
同時にこの九年間、思い付いた事を小説やエッセイ形式で書いては投稿する作業がどんどん…自分で自分の自尊心をズタズタにする行為を繰り返して来たように思えて、本当にやめたくなったのだ。
私一人がここから消えたって読み物は無尽蔵にあるんだ。誰からも求められてねえよ…
書いていることを誰にも言わず誰にも読まれず一人で遂行して一人で投稿する。
本当は怖いと思っていた事を何十回も繰り返して人生何も変わんなかった虚しさと、大変な世の中を今まで良く生き延びてこられたな。
という案外タフだった自分への驚きと、本当は嫌いだったバラ育ても止めて、いけ好かんと思った人との上辺だけの付き合いも止めて、
これが自分の正体なのだ。
自分の本質は花より団子。
虚より実を取るタイプなのだ、と。
と菓子のレピシ本を開いてコーンブレッドを焼く日を楽しみにしている。
花より団子、重い鉄より焦げ付きにくいフッ素加工。
自分に正直に生きて罪になることなんてない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます