第4話 はじめてのオムライス

新卒社会人の子が昼飯の問題について聞かれた事がある。

「実家を出てアパート暮らし始めたばかりなんですけどね、朝はギリギリまで寝ていたくて弁当作りたくないし、かといってコンビニの弁当は高いし…どうすればいいんですかね~」


私は確かこんな風に答えたと思う。

「休憩室に電子レンジある?」

「あります」


「炊飯器持ってる?」

「持ってます」


「だったら前の晩にご飯炊いてタッパに詰めて、後はドラッグストアで買ったインスタント春雨でいいよ~。私も若い頃は仕事覚えるだけでいっぱいいっぱいだったもん」


今でも朝はギリギリまで寝ていたい。


昼飯が冷凍でもインスタントでもエネルギーになるならいいじゃないか。栄養のバランスが気になるならドラッグストアの野菜ジュースを飲めばいい。


体力と心に余裕が無いと料理を楽しむことが出来ないし、手間をかける事が愛、楽してるんじゃないか?とか自炊が強迫観念になるまで苦しんで欲しくはない。と私は思っている。


そんな私が初めて自分からフライパンを手に取ったのは小5の頃必要に駆られてだった。


学校から帰ってくるとテーブルに五百円玉がひとつ乗っている。


それで近所の惣菜屋で何か買って食べなさい。というサイン。


午後三時から夜8時の間にこれで空腹を満たさなければならない。


ご飯は炊飯器に保温されていたので惣菜屋のコロッケを一個買ったりにしたり、冷蔵庫のハムを生のまま、とか魚肉ソーセージを切ってそれをおかずにして食べていた。


とにかく冷蔵庫に食材があっただけでもましだ。


ある春の日、ものすごくお腹が空いていた。冷蔵庫に玉子があった。鶏の小間切れがあった。玉ねぎがあった。

おまけにケチャップの大瓶があった。


祖父のトキゾウから玉子焼きの作り方は習っていた。


よし、作ってみよう。と私の実験心に火が付いた。


まずは玉子を二個割って解きほぐしてフライパンに油を引いて火を付けて流し込んで薄焼き卵を焼いて皿に取った。


炊飯器のご飯を茶碗一杯よそってケチャップとまぜまぜした。


次にみじん切りにした玉ねぎと鳥小間切れを炒めてその中にケチャップご飯を入れた。


たぶんこんなもんか、と皿に取ったチキンライスに薄焼き卵を乗せた。


こうして実験的オムライスはなんとか完成し、ケチャップの味がしていたので問題無く食えた。


アニメ見ながらオムライスを平らげ、夜8時までこの日は何か達成感を得て過ごした事を鮮明に覚えている。











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