ダンス・ダンス・ダン(略

 天性の直感。後は持ち前の身体能力。飛ぶ必要はないので羽は消している。


(時代ごとの流行歌をごちゃごちゃにしてるだけ。どれも半音低いんですけど、ひょっとして権利関係の対策? そんな雑な作曲でいいんでしょうか、この世界⋯⋯)


 ステップを踏んで、長い手足を伸ばす。事前にどこの球体が光るのか直感で把握する彼女は、ここまで文句なしのパーフェクト。既に四分以上全力で踊り続けて息が上がり始めているが、この曲は果たして何分あるのだろう。


(あのウサちゃん大丈夫でしょうか⋯⋯?)


 全力で踊るのは意外と体力を使う。抱っこサイズのウサギに果たしてどれくらいこなせるか。摩莉華は隣のボックスを盗み見る。

 光照千里眼。光が届く先であればそのが手に取るように分かる。


「え⋯⋯⋯⋯?」


 踊っていなかった。

 それどこらかじっとこちらを見つめている。光る球体には、虚空から飛び出たウサギの手がタッチ。こちらもパーフェクトだった。摩莉華の画面に初めてミスの文字。そこからミスが連続する。


「ウサちゃん、おイタはダメですよ?」


 穏やかに微笑むが、目は笑っていない。

 隣のボックスに届く音量ではないが、どうせこのボックス内に悪魔には聞こえるだろう。なんせ、あんなに耳が長いのだ。



 耳を塞がれているのを見て、メフィストフェレスは小首を傾げる。彼の最大の脅威である囁きの魔力は封じられた。だが、悪魔の生態を最大限活かした手癖の悪さはこのゲームと相性が良い。対戦相手の間違った球体を認識外からタッチしているのだ。


『君はもう気付いているのか。勘が良すぎる』

「それは生来のものですので」


 ウインクを飛ばす彼女には余裕がある。大探照灯照射、光の水晶がボックス内を照らす。球体の点滅が分からないように。リズムゲームだ。視界が封じられても問題ない。


「私は勘が良いので」

『考えたね』


 存在の位相をズラす。認識外に存在を眩ませるメフィストフェレスの体質。しかし、この現実に干渉するためには、情報を知覚しなければならない。

 光が満ちたボックスでは、球体の光が確認できない。単純に見えないのだ。これではどの球体にタッチすればミスさせられるのかが分からない。


『けれど、勝負はもうついているんじゃないかな?』

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


 摩莉華は返事をしない。メフィストフェレスが飛ばす思念の通りだった。このウサギはこのままパーフェクトで締め括るだろう。摩莉華もB評価以上は確実だが、複数クリア者が出れば得点が高い方が勝利者となる。


「⋯⋯本当に手はないとでも?」

『虚勢はやめることだ』


 実は、本当に手がない訳ではない。

 オーバードライブ。退魔士たち本来が持つ非常に強力な能力を解放する最終形態。そのリスクは死の危険さえ秘めているが、今回のゲームではデメリットは限りなく低い。

 低くはあるが、それでも躊躇いがある。悪魔の思考力を奪えるのかという博打もある。

 そして、実は15分もあるメドレーは終盤に突入しようとしていた。曲がゆったりと転調する。



♪デザイア、スパート、デッドロック、ヒロイックちゃんも〜♪


♪ともだち いつも楽しい仲間、森の中〜〜♪


♪○ッフィー、かわーいいうさちゃん♪


♪○ッフィー、おりーこーうさちゃん♪


♪○ッフィー、げんーきなうさちゃん♪


♪○ッフィー、大好ザッシュがガガガガガガがガガガがガガガがガガガがガガガががががガガガががガガガがガガガがガガガがガガガがガガガががががガガガががガガガガガガがガガガがガガガがガガガがガガガががががガガガががガガガがガガガがガガガがガガガがガガガががががガガガががガガガガガガがガガガがガガガがガガガがガガガががががガガガががガガガがガガガがガガガがガガガがガガガががががガガガががガガガガガガがガガガがガガガがガガガがガガガががががガガガががガガガがガガガがガガガがガガガがガガガががががガガガがが――――――――――ッッ!!!!!!







「一体、何が⋯⋯⋯⋯?」


 ゲームの途中から、メフィストフェレスの気配が消えた。リザルト画面の表示はC評価、即ち囁きの悪魔は失格したのだ。


「おっと、おっと、おおおっと!!?」


 テンション高めな司会が声を上げる。


「これはいけません! 歌詞の権利の侵害です! 外見が著作権違反とみなされました! 概念ごと『カスラック』に徴収されてしまったようですね!!」


 ここでエキストラの皆さんの笑い声。

 笑い事ではなかった。


(けど、概念ごと徴収ってそんなことができるのでしょうか⋯⋯?)


 瞬間、天性の直感が答えを導き出した。

 感じとる魔法の残滓。

 過激派権利主張団体『カスラック』の儀式魔法。それは著作権属性のSSランク魔法だった。この世界を構成する四大元素――即ち、火・水・風・著作権――基盤とした魔法でメフィストフェレスが滅されたのだった。


(そういえば)


 と、摩莉華は思い当たる。

 知り合いのハーフから聞いたことがある。彼女に縁がある文化圏で広まったファウスト伝説の悪魔。あのウサギはその著作に縁がある存在だったか。まさに著作権属性の魔法は天敵のような相性の悪さだった。他の属性攻撃であればケロりとしていたに違いない。


「おおおおっと!!? これは驚きのデータ!! 過去の番組も『カスラック』の徴収でほとんど失格になっているみたいですね! どいつもこいつも権利意識低すぎですよ、まったく!」


 ここでエキストラの皆さんの笑い声。

 先に言え。


「さてさて! 翠摩莉華さん、勝利のコメントをどうぞ!」

「はい――――オリジナリティ溢れる人間性で大変良かったです♪」


 そう言って彼女はゆったりと回った。艶やかな黒羽と、チャームポイントの銀の長髪を魅せながら。



得点、76点――評価B。


64番、だんすばとる

メフィストフェレス・フェアヴァイレドッホvs すい摩莉華まりか

→勝利者、すい摩莉華まりか

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