第22話 ハンターか娼婦
「……それで、君は……えっと、名前なんだっけ?」
「ユウナ、で登録してたけど、本名はユアだよ。あんまりかわらないけど」
小柄で黒髪、黒っぽい服を着て、ややつり目で綺麗なブラウンの瞳。
まるで黒い子猫だ。
容姿は整っており、人によっては一緒に居るだけで満たされた気分になるだろう。
俺はそうではなく、会話もできて打ち解ける方がいいのだが……。
「ユア、か……そうだ、俺の名前を言ってなかったな。本名はハヤトだ」
「ハヤトさん……どっかで聞いたことあるような気がする……会ったの、初めてよね?」
「ああ、そのはずだ」
「そうよね……気のせいかな? ……それで、何を言おうとしてたの?」
相変わらずため口で話しかけてくる、俺より二十歳は若い女の子。
「あ、そうだな……まあ、ぶっちゃけパパ活やってる目的って、やっぱりお金か?」
「……目的……うん、もちろんそれもあるけど、こうやって話するだけだとあんまりお手当もらえないの分かってるから……」
「……なら、やっぱり大人の関係?」
「ううん、さっきも言ったようにそれはないよ。あえて言うなら、冒険者として、何かお得な情報があれば教えて欲しいの」
「情報?」
「そう。たとえば、まだあんまり慣れてない新米冒険者でも稼げる、弱いけど良い魔核を持っている魔物がたくさん出現する場所とか……」
「……なんで俺が冒険者だと知ってるんだ?」
「だって、条件検索してもらうときに、『職業:ハンター』って指定したから」
このパパ活ギルドでは、職員に条件を告げることで理想のリストを出してもらえるし、その人にアポイントを取ってもらうこともできる。俺も年齢なんかは条件を指定している。若い娘が好みだとか、そういう話ではなく、『パパ』となれる条件を満たすにはこうなってしまうのだ。
「そうか……でも、なんでそんな情報を欲しがって……って、もしかして、君もハンターなのか?」
「うん……けど、まだ始めたばかりで、収入も少ないし、思うように進めなくて……一応、魔法の才能は認められてて、特に火炎系の攻撃魔法が得意なの」
「そうか……駆け出しの冒険者ってわけか。だが、ハンターってのは危険が多い。やめておいた方がいいんじゃないか?」
「……でも、それをやめちゃうと、私、娼婦になるしかなくて……」
「娼婦? ……ハンターか娼婦……それって……」
「そう。お察しの通り、私は『孤児』……施設で育てられて、出るときにはそれまでの養育費って名目で、凄い額の借金として押しつけられた。普通に何十年もかけて返していく道もあるけど、それで人生終わらせるなんて、私には無理。数年で返そうと思ったら、ハンターか娼婦しか道はないから。でも、できることならハンターで。『パパ活』での大人の関係は、最後の手段に取っておくから」
「……一応、そういうのも考えてはいるんだな……」
「……まあ、娼婦と違って、相手を選べるから……今まで言ったことはなかったけど。変ね、おじさんになら言えちゃった」
少し赤くなりながら、下を向いて話す……なんか本音を言う彼女に対して、ちょっとだけ情が湧いてきた。
気づいたら、結構気さくに話し込んでいるし。
「……俺はハンター歴が長いから、力にはなれると思うが、稼げるハンターになれるかどうかは本人次第だ」
「……っていうことは、おじさんは星持ちのハンター?」
「ああ、そうだよ」
「ちなみに、いくつ星?」
「三ツ星だ」
その言葉を聞いた途端に、ユアは目を見開いて驚いた。
遺跡攻略都市イフカには、今現在、三千人以上のハンターが登録されている。
そのうち、一人前と認められる「星一つ」を獲得しているのは、三百人ほどに過ぎない。
さらに上位の「二ツ星」には八十人足らずしか認められておらず、『三ツ星』となると二十人そこそこだ。
ちなみに、「四ツ星」は五人、「五ツ星」は一人しか存在しない。
「……魔道剣士ハヤトって、あなただったの……」
目を見開いて驚くユア。ハンターについてあまり詳しくなかったミリアの時とは対照的だ。
彼女は、しばらく考えた末に、一つの提案をしてきた。
「……私と同じ日に孤児院から出て、一緒にハンターになった女の子がいるんだけど……おじさんに紹介していい?」
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