第15話 最終選考

 俺が秘密を全て話し、そして今のミリアに対する想いや葛藤を告げると、今度は彼女が自分の生い立ちや夢を語り始める番だった。


 シングルマザーである母親が大変な思いで自分を育ててくれたこと。

 自分も十歳を過ぎるころには、給仕などのアルバイトをして少しでも家系の手助けをしていたが、母親は自分の夢を叶えるための努力を惜しまないようにと言ってくれていたこと。


 下働きで入った劇場のアルバイトで、関係者として役者達の練習や演技を見ることができて、憧れたこと。

 掃除が終わった後、見よう見まねで練習していたところを先生に見つかり、怒られるどころかスカウトされたこと。

 しかし、自分が役者として舞台に立つ姿を見せることができないまま、母親が急死してしまったこと……。


 貧しい環境に育ちながらも、母子で協力して生き抜き、努力を重ねていたという彼女の話に素直に感動した。

「パパ活」を始めたのも、決していい加減な気持ちからではない。

 少しでも生活の足しになれば、そして上手くいけば「スポンサー」となってくれる人を見つけることができれば、と考えた末の行動だった。


 夢のためなら、そういう関係も辞さない……その覚悟を持っていたときに出会ったのが俺だった。

 しかし、俺も彼女をしばらく泊めてあげるぐらいはできるが、その人生を背負うだけの援助が永続的にできる「スポンサー」にはなれない。


 それでもいいと、彼女は言う。

 神様に認められ、自分の才能の開花を促してくれるのだから、と……。

 普通、ただ俺が言っただけのそんな話を信じてくれる人はいない。

 ミリアが、よく言えばまだ純粋で、悪く言えば子供っぽいだけだ。


 そんな彼女と、いつの間にか、完全に打ち解けて一晩中話し込んでいた。

 同じベッドの中で、ミリアも俺も裸だったが、そんなことは気にせず、それこそ本当の親子のように何でも話すことができた。

 少なくとも、この夜は俺は彼女に手を出さない……そう決めていたし、ミリアにもそう断言していたので、彼女の方も完全に信頼して共に気楽な時間を過ごすことができたのだ。


 ――いつしか、話し疲れたミリアは、俺のすぐ側で、すやすやと可愛らしい寝息を立てて寝てしまった。

 そんな美少女の寝顔を見ながら、俺もまるで本当の父親の様な気持ちになり、幸せな気分で寝てしまっていた。

 

 ――それから、三週間が過ぎた。


 ミリアとは、時には親子のように、時には恋人のように、さらには、まるで長年付き添った夫婦のように、楽しく過ごしていた。

 オリジナルスキルである「父性愛」に関しては、さらに強まっているような印象だった。

 そのおかげで、ハンター稼業も順調で、いつもより多く稼げることができた。


 また、ミリアも名門と呼ばれる劇団の一つのオーディションで、最終選考まで残っていた。

 これまではコンテストやオーディションでそんなところまで行けたことがなかったので、やっぱり俺の能力のおかげ、と感謝された。


 ただ、名門とはいえ、少しだけその劇団については気になる噂があった。

 そこに所属していたトップ女優が電撃結婚の末に引退してしまい、それがあまりにカリスマ性の高い人物だっただけに、大きく劇団収益が悪化している、という事だったのだ。


 だからこそ、急遽即戦力になる、華と演技力のある女優を特に募集していたという事情があるのだが……。


 百倍近いという高倍率のオーディション、最終選考に残っただけでも、ミリアの才能の素晴らしさを感じていた。

 そしてその日、ミリアは目を潤ませて、俺に抱きついてきた。


 その手には、オーディションの最終選考合格通知が握られていた。

 彼女の才能が見事に開花し、認められた瞬間だった。


 しかしそれは、俺たちにとって、文字通り生死を賭けた戦いのきっかけになるのだった。 

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