第7話 新ルート開拓をしてみよう

「……げほっ、ぜぇ……がはっ……」


 ペナルティから目覚める。だが、もう既に僕の精神は満身創痍となっていた。

 短い時間に殺され続けるというのは、本当に辛い。しばらく行動ができなくなるレベルの後遺症がある。周囲の迷惑にならないように、体を引きずって近くのベンチへと移動してなんとか休憩をする。


「はぁ……げほっ……ごほっ……ああ、クソ……辛いな……」

『ひひ、もうヘロヘロだな。このままじゃ事件解決も無理なんじゃねえか?』

(……マガツの、せいだろ……)


 わざわざ僕が殺された時に長く苦しむタイプの処刑をしてるんじゃないかと思うくらいに辛い。

 ……出来るなら、風花さんが来る前に体調は戻したい所だが……


「えっと、もしかして探偵さんですか?」

「……ええっと……はい……そうですが」

「あの、大丈夫でしょうか……? 今回お願いをした斎藤風花なんですが……」


 ……うん、間に合わなかった。

 寝転んで辛そうにしている僕を風花さんは心配そうに見ていた。



「あの、本当に無理はしないでくださいね? その、体調が悪いのであれば……」

「いえ、大丈夫です。ちょっと調子を崩していただけなので。不安になるかもしれませんが、僕も探偵として仕事を受けてきましたので。ちゃんと仕事はしますよ」


 風花さんを心配させながらもようやく部室にやってくる。

 なんとか気合で元気は戻ってきた。動き始めれば精神的なスイッチが入って動けるようになる。ただ、それまでが問題なのだ。というか、スイッチが入らない時が終わりだ。

 しかし、風花さんにはすっかり大丈夫かなという心配そうな表情をさせてしまっている。


『ひひ、役得だな。わざわざ若い女に心配されるってのは気分いいんじゃねえか?』

(何も得はしてないよ……むしろ申し訳ない気持ちでいっぱいだ)


 さて、自己紹介もされたのだが……ちょっとだけ展開に変化が生まれてしまった。


「それで、探偵ってのはこれでなにか分かるっての?」


 さて、何度も聞いたさんの言葉なのだが……


「小沢先輩! 流石にそれは言い過ぎですよ!」


 と、そこで風花さんが僕の代わりに反論を始めた……恐らく、体調不良を押してやってきた僕にあんまりにもきつい言葉を言われて黙っていられなかったのだろう。

 驚いている僕の横で、風花さんがこっちを見る。


「探偵さん、まだ色々と必要ですよね? 聞き込みとか!」

「あ、う、うん」

「行きましょう! 音楽サークルと運動サークルでも確か、盗難にあったらしいんです!」


 そう言って気合を入れる風花さん……いや、というかここで押し切られるように頷いてしまった。

 流されてしまうというのは良くないのだが……こう、勢いが凄すぎて抵抗するタイミングすらも逃してしまった。


(……ただ、これで結果的に間時さんの事件発生のルートが変わる可能性はあるわけだし……)


 決して最悪の展開ではない。ならば、僕には僕が出来る限りの手を打つとしよう。


「すいません! お願いがありまして、スポーツサークルの方は確認しますので音楽サークルで何が盗まれたかを聞いていていただけませんか!」


 最後にそれだけ言い残して、そのまま引きずられるように僕はサークル室の外に出た。

 そして、サークル室からある程度離れた場所まで行ってから風花ちゃんが息をつく。


「……はぁ、やっちゃったぁ……す、すいません……その、勝手なことをしてしまって……」

「いや、大丈夫だよ。僕のために怒ってくれたのは分かるから」

「そう言っていただけると助かります……ありがた迷惑だったらどうしようって思って……」


 善意からの行動だからこそ、怒ることはない。むしろ、そう言う気持ちは嬉しいくらいだ。

 自分がやっている行為は、正しいわけがない。邪神と契約して既に起きてしまった出来事を変える……こんなのはズルであり、不誠実だ。

 だけども、自分で選んだ道だ。いまさら辞めるつもりはない。


(……さて、前回と違う方向で話を聞きたいな)


 盗まれたものについての情報は集まっている。

 だから、今度集めたい情報はもっと別のものにしたいところだ……いや、特に考えてはないのだが。


「それじゃあ、スポーツサークルまで案内をお願いしてもいいかな?」

「お任せください! こっちです!」


 なんだかんだいって、風花さんも自分が行動した責任を取ろうと思っているのか先程よりも張り切った表情で先導をする風花さんだった。



 さて、サークルにたどり着いて話を聞くことができたのだが……


(なるほど、これが理由か)


 なぜ風花さんが遅れてしまったのか。その理由が判明した。


「それで、斎藤さん。サークルの方に入会をするっていうのは……」

「い、いえ。ですから私はもう美術サークルに入っていて……」

「掛け持ちでもいいから! 高校時代に貴方の姿を見て才能があるって感じたの! 是非一緒に――」


 今回は最初の時と違い、あまり無駄話をせずに早めにスポーツサークルにたどり着いた。

 その場合、遭遇する人が変わるようだ。熱烈に勧誘をしているのはこのスポーツサークルの先輩らしい。風花さんに助け船を出すべきかを聞いたら、なんとかしますと言われた。

 

「……さて、どうしようか」

「えーっと、あんたは斎藤の……?」

「まあ、彼女の関係者みたいなものです。盗難事件について調べてて、こちらに来たんですが……」

「ああ、なるほどね。私はこのスポーツサークルの代表をしてる西道結城……斎藤の先輩だよ。まあ、ウチの後輩がごめんね」


 そう言って彼女は、申し訳無さそうに問答している二人を見る。


「あの子は、斎藤がスポーツサークルに来ると思ってたからね。どうしても、一緒にやりたいって言っててさ……こうなるのが見えてるから、こっちでも鉢合わないように気を使ってたんだけどねぇ……顔を合わせるとああなっちゃうんだよね。しかも、あの勧誘が始まると長いんだよねぇ」

「そうなんですね……とりあえず、聞きたいことがあるんで聞いてもいいでしょうか?」

「ん? まああんまり詳しいことは話せないけど……何を聞きたいの?」


 ……そうだな。事件の盗まれたものはもう知っている。

 ならばここでしか聞けないような情報を……ああ、そうだ。


「風花さんの所属する芸術サークルについて……色々と聞かせて頂けませんか?」

「はぁ? なんで私に?」

「大きな声では言えませんけど、当事者の情報ってどれだけ信用できると思います? 周囲からの意見が必要なんです……風花さんが捕まっているからこそ、聞けるでしょうし」

「……まあ、そこまで詳しくはないけどさ」


 その言葉に胡散臭そうにしながらも……仕方なさそうに話をしてくれる。

 さて、これで事件について……一歩前進したかもしれない。

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