第4話 困った時は基本に戻ろう
「げほっ! がはっ! ぜぇ、げほっ……!」
戻ってくる。最初の地点に。
突然咳き込み始めた僕を周囲にまばらにいた大学生たちが不審げな目で見ている。しかし、気にする余裕はない。混乱しながらも脳裏での違和感に疑問が渦巻く。
(サークルを出てからの行動が早すぎる! 情報収集をしている間に誰かを殺した……? いや、それはありえない。だって、最初の被害者の死亡時刻は
つまり、僕の行動が展開を変えてしまった可能性が高い。だが、それでもキッカケが不明だ。
(どれがトリガーになったんだ? 発言でミスをしたのか? それとも行動で?)
分からない。わからないことだらけだが……体が落ち着いてきた。そして、冷静になり自分にできることを思い返す。
僕には大した才能はない。情報がなければ答えを導き出せない程度の頭脳なのだ。なら、行動あるのみしかない。
『さあて、どうする? あんまりにもお前が不甲斐なくて何回も死んじまうようなら……』
(……何? ペナルティの緩和でもしてくれるの?)
『いや? 俺様のネタが切れて前に使ったネタでお前を殺さねえと駄目だなって思っただけなんだよ。なあ、また今度世界の処刑とか拷問についての本でも買っといてくれ』
(絶対に嫌だ!)
何回死ぬと思っているんだ。この邪神。しかし、否定しきれない程に難易度の高さを感じている。
この先の展開について考えがまとまりきらないままに、風花さんがやってくる。そして前回と同じやり取り。
『ひひ、今回は変えねえのな?』
(まあね……サークルメンバーの自己紹介までは前と一緒でやるよ)
その言葉通りに記憶と変わらない言動を心がける。
細部も出来る限り記憶にあるように再現する。しかし、内心ではどこかなにか致命的なことを間違えているような気がしてならない。
(なんなんだろう……間違ってないはずなんだけども……何か間違ってるような気分だ)
『ひひ、もしかしたら間違えてるのかもしれねえぜ? こういうときこそ冒険してみろよ』
(……それ、失敗して僕が悲鳴を上げるのを見たいだけでしょ。やらないからね)
『おいおい、サービスが悪いんじゃねえか~?』
にやにやとそんな風に言うマガツ。だが、こちらはペナルティで殺されるのだから面白さ重視でやれるわけがない。
……いや、それよりも他人の命がかかってるのだ。もっと真剣にしなくては。どうにもこの邪神に影響されすぎている。他人の命を僕まで弄ぶように軽視したら終わりだ。
「それで、探偵ってのはこれでなにか分かるっての?」
と、ここで部長さんがこちらに喧嘩腰に聞いてくる。
……さて、前回は情報収集が必要だと言ってこの場から離れた。ふと、僕の中で今回に関しては考えがあり、言葉を紡ぐ。
「まだ情報が必要ですね。ちょっと聞き込みに行ってきますけど……他の被害にあった部室は?」
「そうですね。他の被害を聞いたら音楽サークルと、スポーツ部のサークルです」
「分かりました。それじゃあ、そちらにも聞き込みをしてきますね」
この言葉に、マガツが意外だと言う表情を浮かべる。
『おう、どうした? 前と一緒ってのは無駄死希望ってことか?』
(違うよ……正直に言えば、予想でしかないけどそれを確かめたいんだ。たとえ死ぬ未来が待ってたとしてもね)
『ひひ、カッコいいこと言うじゃねえか』
からかうように言われるが、こちらとしては今後に関わる死活問題だ。そして前回と同じように風花さんに声をかけられて行動に移す。
……さて、そして前回の巻き戻しの場所にたどり着いた。
「探偵さん」
「どうしました?」
さて、ここで前回は巻き戻したが起きた。
そして覚悟を決めて待ち……
「その、お呼びしたのにごめんなさい。先輩方の態度で、その……嫌な気持ちになったなら謝ります」
「……いえ、大丈夫ですよ」
『おお? なんだ? 今回はやり直しがねえのか?』
風花さんの謝罪と話を聞きながらも、僕は予想が当たったことに内心でとんでもなく動揺していた。
想定としては最悪の部類だ。
(……僕のせいで彼女の行動が変化したのか……!)
『ん? なんかミスったのか?』
(ミスと言えばミスだけども……やり直しの最初で、僕は間時彩子を見てほんの少し動揺してしまったんだよ)
それはほんの些細な……僕自身でも、気付かれないように隠し通せたと思える程度の動揺。
だが、その些細な動揺を見て彼女は行動を変えたのだ。
(違和感としては、最初の事件の発生時刻がどうしても合わない所だったんだよ。たとえ仕込みをしてたとしても、誤魔化せる限度はある。だから、僕の行動が原因かと思ったんだ。でも、明確な失敗はなかった。だから、今回は前と同じ流れにすることにしたんだ)
……その事実は原因が判明したことで最悪になってしまった。
出来るなら予想は外れていてほしかった。
(ああクソ! いつか来ると思ってたよ! 僕の些細な変化で行動を変えるような犯人は!)
『ひひ! なるほどなぁ! 些細なキッカケがあればころっと行動を変化させる……ある意味でお前の天敵みたいな存在だなぁ! やり直す程、安定しないってのは!』
(僕はあくまでも、やり直しの中で行動を固定化させることで事件を解決するタイプなんだよ……それに、今後は同じようにするのは無理だ)
僕が意識をするほど、彼女は行動を変えていく。
それはつまり、やり直しの回数がどんどんと増えていくことになる。そうなれば、先に僕の限界が来る方が先だろう。
(方法としては……新しく事件の解決方法を開拓することか……?)
『まあ、どうあがいてもいいぜ? 俺としては楽しめるんだからな』
そう言って高笑いをするマガツ。
……ムカつくが、しかしそれよりも目の前の事件の困難さはとんでもないことになっている。
(前途多難だ)
そんな風に考えて……目の前の風花さんが困った表情になっている。
「ああ、ごめん。ちょっと事件について考え事をしていたんだけど……どうしたのかな?」
「そうなんですか? その、やっぱり怒ってるのかなって思いまして……」
小さくなる風花さん……まあ、相当に代表さんは喧嘩腰だったから気にしているのだろう。
「いや、あの程度なら大丈夫ですよ。もっと酷い目やひどい対応をされたことは数え切れないほどあるんで……ただ、いつもあんな感じなんですか? 代表さんは」
「はい……ちょっと気難しい人なので。サークルメンバーの人でも、怒ったり言い争ったりすることはあります。でも、一番真面目でサークルについて考えてくれてる人でもあるんですよ」
「なるほど。僕のせいで特別怒ってるわけじゃなくて安心したよ」
優しいから上に立つという話でもないし、気難しいから代表などになれないというわけでもないからなぁ……と考えつつも、今後の行動に関してを脳裏で修正していく。
事件が起きるまでの時間は大丈夫だ。なら、ここでやるべきは今後のために情報を手に入れることだろう。
「それじゃあ……スポーツサークルから聞き込みをしようか」
「はい、分かりました!」
そして、歩みを進める。
……何かを得る前に事件が起きないことを祈りながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます