第3話 難関ポイントが早すぎる

 全員の挨拶を聞いてから、僕も自己紹介をする。


「はじめまして。今回の件で呼ばれた探偵です。風花さんのお爺さん……斎藤先生と、とある事件で知り合いになりまして。その縁から今日は依頼を受けました。今回の盗難事件を解決できればと思って来ましたので、ご協力いただければ幸いです」


 外向けの笑顔で挨拶。それぞれの視線は様々だ。好意的、否定的、我関せずなど。

 最初に挨拶をしたときには、今回の事件は色々と面倒なことになりそうだと思ったものだ……まあ、実際は別ベクトルで面倒なことになったのだが。


「もしもよろしければ、盗難事件について聞かせていただけますか?」

「その、先輩方。私が勝手なことをしてすいません……でも、被害も有りましたし……同じことがあったら嫌だなって私が無理を言ったんです……だから、探偵さんは悪いわけではないので協力をしていただけたら……」

「……うん、構わないよ。後輩の風花ちゃんにそこまで気を回せたのはこっちの落ち度だからね。ね、いいいよね? 皆」


 にこやかにそう言うのは、凪都くん。

 見た目が見た目だけに、ギャップが凄い。不良が善行をすると良い人に見えるようなものかもしれない。実際、言っていることもやっていることも人格者ではあるが。


「凪都がそこまでいうなら……」

「……」

「ういっす。なんでも答えますよー!」

「私に分かることでしたら……」


 美術サークルのメンバーがその言葉を皮切りに協力をしてしてもいいと返事をする。

 ……やはり彼はこのサークルの中心人物なのか。そんな彼に僕は頭を下げる。


「すいません、ありがとうございます。取り持ってくれて」

「いえいえ、最終的には僕らのためにもなることですから」


 笑みを浮かべてそう言う凪都くん……うん、ちょっと怖いな。なんか裏とかありそうで。

 失礼なことを考えながら、それではとメンバーの方を見て口を開く。


「それじゃあ、事件のことについて簡単に聞かせてください。それぞれ自分で語れる範囲でいいので」

「分かりました。それじゃあ、言い出しっぺの僕から説明しますね」


 そして、盗難事件についての全容が語られていく。



 ……さて、今回の盗難事件についてはこうだ。

 美術サークルで盗難が起きてしまったのだ。そして、そのことについて報告をすると他のサークルや部活でも物品が紛失していると報告があり、大規模な盗難事件ではないかとなった。

 しかし、盗まれたものが高価すぎず外部ではなく内部の犯行ではないかということになりどう対応するか学内でも論争になっているらしい。


「僕たちの部室は見ての通り、かなり雑多に物が置かれてるんですよね。そのせいで金目の物があるとでも思ったのか……それで、僕が盗まれたのは資料撮影用のデジカメですね。安物だけども、なくなると困りますよね。特に、色々と撮影してた資料のデータに関しては取り返しがつかなくて」


 そう言って苦笑する凪都くん。

 彼が盗まれたものに関してはデジカメ。型は古いがまだ動く物だった。


「自分は部室に放置してた可愛いアクセサリーっすね! まあ、そこまで価値あるもんじゃないんすけどねー。部室においてたせいで無くした説を提唱されると否定はしきれねーっすね!」


 冬希さんはアクセサリー。とはいえ、部室においてただけらしい。

 価値はないとは本人談。


「私はちょうど部室に置いていた財布。とはいえ、中には大したものは入ってなかったけど。お金だって抜いてたし」


 財布を盗まれたらしい代表の小沢さん。

 金銭的な損害自体は小さいらしい。また、自分で紛失した可能性もあるということ。


「…………砥石だ。石を削るのに使う。丁寧に箱に閉まっていた」


 重厚感のある声でゆっくりと告げるのは相葉さん。

 盗まれたのは砥石。そこそこ重要で丁寧に扱っていたので、そこそこ重厚な箱に入れていたらしい。だから犯人は勘違いしたのではないかということだ。


「私が盗まれたのは絵を書くための画材です。作る予定のものがあったから、用意してたものなんですけど……未開封だったので狙われたのかも知れません」


 そういうのは……主犯の彩子さん。

 画材というのは新品のイーゼルだとか絵の具、キャンパスなどの一式らしい。


(……さて、ここまでは前回と一緒。そして犯人を割り出すために調査をすることになったんだよな)

「あ、私は特に何も取られてません……」


 申し訳無さそうにいう彼女に対して、他の部員がフォローを入れる。

 真面目だから、ちゃんと片付けて部室に道具を残していなかった。私物をあまり持ち込んでいないからだという話だ。とはいえ、彼女を狙わなかった理由はあるのかもしれないが。


「それで、探偵ってのはこれでなにか分かるっての?」


 代表さんが棘のある口調でいう。

 自分たちのテリトリーを部外者が探し回るというのは気分がいいものではないだろう。


「まだ情報が必要ですね。ちょっと聞き込みに行ってきますけど……他の被害にあったのは、音楽サークルとスポーツサークルでしたっけ?」

「そうですね。学校側に被害を申し出たのはその2つのサークルです」

「分かりました。それじゃあ、そちらにも聞き込みをしてきますね」


 そう言って立ち上がり、部室をでていく。

 後ろからトタトタと風花ちゃんが付いてくる。


「私もお供します! 私が探偵さんをお呼びしましたので! ……その、先輩方。いいでしょうか?」

「別に。こっちは関係ないし好きにしたら?」

「そうだね。」

「うん、ありがとう」


 ……さて、ここまでは最初の事件のときと同様に進めている。

 部員たちの自己紹介を聞いて、事件の概要を聞く。そして、事件の調査に乗り出して……そこから殺人事件へと変貌していく。


(さて、どうするかな……)


 音楽サークルでは小物が数点なくなっていた。部室に物が多いので無くしていたと思っていたが、美術サークルの件で盗難だったと気づいたといっていた。

 そしてスポーツ系サークルも同じように。部員の私物が何点か無くなっていた。これも言われてから盗難だと気づいたらしい。


『こんな狭い環境でも小さい犯罪だの起きるならやっぱりお前は大学とかに行かなくて正解だったのかもな。ひひ』

(……まあ、否定はできないね。どうせ友達も出来ないだろうし……いや、強がりじゃないよ)

『何も言ってねえけどな』


 素で言われて、茶化されすらしなかったのが辛い。


「探偵さん」

「どうしました?」


 ふと、風花さんが僕に声をかける。

 そういえば、ここで前回は風花さんと話をして……


「……えっ!?」


 時が止まった。世界が灰色になる。


「嘘だろ!?」

『ひははははは! 最高の表情だな! 写真があったら飾りたいぜ!』


 あまりの出来事に、自分の正気すら疑ってしまった。

 なぜなら……巻き戻しが起きた。つまり、殺人が起きてしまったということに他ならない。


「もう殺したのか……!? 最初の死亡時刻は……!」

『さあて、どんな事情があったとしても巻き戻す以上はペナルティを受けてもらうぜぇ!』


 体がなにかにセットされる。それは、映画でしか見たことのない設備だ。

 頭に電極の付いた帽子が付属している椅子の形をした処刑器具……電気椅子だ。


『あいにく濡れ布巾は忘れてるんでな! さあ、ビリっといかせてもらうぜ!』

「マガツ、お前……ぎっ、あがっ!?」


 体に激痛が走り、似くらいが痛みで焼かれる。電流は綺麗に流れず体を引き裂き焦がしていく。

 体が痙攣する。焼け焦げていく。雷に打たれて死ぬのはこんな感じなのだろうか? 理解も出来ないまま苦痛だけがはっきりと明確に僕を正気に繋ぎ止める。

 そして、永遠に思える激痛は僕の体が先に限界を迎えた。そうして、黄泉坂大学の殺人事件のやり直しは、あまりにもあっさりとした最初の失敗を迎えるのだった。

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