ささやかな終劇。僅かながらの後知恵。

 どこまでも走った。


 街を抜け、草原を走り、海を泳いだ。


 あの裸の少女は、私のために命を捨てたのだ。いや、正確には命ではない。


 そして、あの鏡が「それ」だったのだ。


 船着き場まで戻ってきた。


 私は息を切らしながら濡れた病衣を脱ぎ捨てる。こんなもの、もうなくていい。


 後ろを振り返る。


 海はとてもきれいだった。


 そのことを確かめる。私は私だ。


 太陽のないその景色を見捨てて、私は前を向いた。


 薄暗い部屋の中に子供はいなかった。


 私は部屋に入る。そして上を見あげた。


 戻らなくては。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

地下一万メートルの島で 西辻 東 @128nishinosono

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ