第6話 キ・ス・し・よ・う・よ

 今日も文乃あやのは俺の部屋のベッドに寝っ転がって漫画を読んでいる。

 今までも文乃は、うちに入り浸っていたが、俺を振ってからは毎日だ。

 それこそ、風呂、飯、寝る以外の時間はずっと一緒にいる。


 ……別に嫌ではない。


 嫌ではないのだけど、最近の文乃は俺に対して妙にえちえちしている。

 こう毎日毎時一緒にいて刺激を与え続けられていると、俺もどうにかしないと、どうにかなりそうってのが切実な問題だ。


「ねえ真喜雄まきお

 来た……今日もえちえちか?


「真喜雄ってキスしたことある?」

 き……きす?


「ななななな、無いよ! キスなんて!」

「だよね」

 だよね……ってその反応もなんか切ない。


「真喜雄はキス……したい?」

 き、き、き、キスしたい?


 そ……そりゃしたいに決まってるじゃないか!


「真喜雄、こっち来て」

 ベッドに正座をして俺を呼ぶ文乃。

 俺も正座で文乃の正面に座った。


「したい?」

 答えはもちろん……、

「したい!」

 一択だ!


「めっちゃ前のめりだね……」

 若干引かれてしまった。


「私としたいの?」

 当然だ!

「文乃としたい!」

「私以外の子からキスしようって言われたらどうする?」


 え……文乃以外の子からキス……、

 なんだろ、ちょっと背徳感があって案外いいかも?

 いや! なに言ってんだ俺は! 俺が好きなのは文乃だろ? ダメだダメだ! ダメだ!


「はいブー」

「え……」

 ちょっと言い方は可愛かったけどブーってなに?


「返事に時間かけ過ぎ! 本当は私以外の子でもいんでしょ?」

「そんな事ない! 一瞬想像して背徳感がヤバかったけど、やっぱ文乃以外はダメだと思い至った!」

「なによ背徳感って……キモッ」

「キモッっていうなよ! キモッって! 案外それ傷つくんだからな」

「あははは……そうなの知らなかった」


「「……」」


 お互い顔を見合わせて、なんか会話が止まってしまった。


 そして……、

「ねえ真喜雄、キスしようよ」

 次に発せられた文乃の言葉で、俺の脳みそはショートした。


 キ・ス・し・よ・う・よ。


 落ち着け……落ち着け俺。

 俺は文乃に振られた身。

 未来の無い、ただの幼馴染だ。

 そんな俺がキスしていいわけないじゃん!

 ……いやむしろ幼馴染なんて関係ない。

 キスは……恋人……もしくは恋人前提だろ?


「文乃……本気か?」

「本気だよ?」


 ぐはっ……!

 なんて破壊力だ!

 猫撫で声と上目遣いと上気した顔が合わさると、こんなにも破壊力がますのか!


 でも……いいのか? いいのか俺?


「文乃!」

 覚悟を決めた俺は文乃を抱きしめた。

 そして、キスをしようとすると、突き飛ばされ、押し倒された。


 なんで?


「真喜雄……なんか忘れてない?」

 俺を見下ろす文乃……唇にばかり目がいってしまうが……忘れてないって何だろう?


 ……もう一度ちゃんと告白しろってことか。


『付き合ったらさ……いつか別れが来るじゃん。だからさ、真喜雄とは付き合いたくなかったんだよね』


 恐らくこれは、文乃の本音だ。

 でも俺がした告白『ずっと好きだったんだ……付き合って欲しい』これだけでは文乃の不安が払拭できていなかったんだ。


「文乃……俺告白の仕方間違えたんだよな……文乃の欲しい言葉伝えてなくて……ごめん」

「うん?」


 あれ? 文乃が不思議そうな顔してる?


「ねえ真喜雄……なに言ってんの?」

「なにって……告白の仕方が気に入らなかったんじゃないのか?」

「はぁ————————っ?」

 あれ……違うの?


「やっぱ忘れてるじゃん真喜雄!」

 え……え……なんの事?


「私らの仲じゃ1回告白しただけじゃ、本気かわかんないから、とりあえず1回は振ってくれって言ったの真喜雄じゃん」


 あ、


 あ……、


 あ————————っ!


 そ……そうだ……そうだ……、

 そうだったぁぁぁぁぁっ!


 完全に忘れてた……俺のバカ!

 中二の時に言ったよ……めっちゃドヤ顔で!

 確か……なんかのラブコメ見て影響受けたんだよ!


「やっと思い出したみたいね……なんかそんな気がしたよ、だって告白のとき、泣きながらどっか行っちゃうしさ、だから何回も告白させようと思って、こっちは頑張ってるのにエロい目でしか見てないしさ」


 め……めっちゃ恥ずかしいんですけど。


「真喜雄……もういいからさ……ちゃんと言って、でないとキスしてあげないよ?」


 改めて、ベッドの上で正座で向き合い。

 俺は言った。


「文乃……これからもずっと好きだ。付き合ってくれ」

「……うん」


 もう俺達はただの幼馴染じゃない。


 だから猫撫で声でキスを迫られても、何の問題もない。


 これからは、いくらでもグイグイきてくれよ!




 因みに、キスの時に調子にのっておっぱいを触ったら思いっきり殴られた。



 Fin——————————



 【あとがき】

 ご愛読ありがとうございました!

 本作はこれにて完結です!


 まあ、なんともな感じでしたが結果オーライですね!


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いくら猫撫で声でグイグイせまって来ても、ただの幼馴染と「えちえち」なことするってハードル高いからね? 逢坂こひる @minaiosaka

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