紫ノ領国〔極楽号中心部〕第六章ラスト

第39話・紫ノ領国

 極楽号中心動力エリア部『ノ領国』──オプト・ドラコニスは、中央が球体に膨らんだ極楽号の推進動力装置を眺め、額の汗を手の甲で拭って言った。

「初めて来たが、やたらと暑いな」


 アメジスト色をした、砂漠の上に座り込んだ飛天ナユタが、金属棒の武具を布で拭きながら言った。

「極楽号のエネルギー貯蔵システムや、推進跳躍エンジンが集まった重要エリアだからね……極楽号の心臓部だ……さてと、オレの仕事はここまで。この先は、別の極楽号クルーと合流してくれ」

 そう言い残して、ナユタは自分の影に沈み消えた。


 ナユタがいた場所に向かって問う、オプト・ドラコニス。

「ちょっと待て、おまえ何もしていないだろう……あぁ、どこかへ行ってまった。本当に得体が知れないヤツだな」

 オプト・ドラコニスが呆れていると、エネルギー炉に付着して、呑み込んでいるような形で根を伸ばしている。

 菌糸球根を眺めていたゾアが、いきなり倒れた。

「おい、大丈夫か?」

「大丈夫です……少し暑さにやられただけですから」

 ゾアは、根を触っても消滅させるコトができなくなっていた。

 例のゾアを呼ぶ声は、頻繁に聞こえているようだった。謎の声が聞こえるたびに、ゾアは痛む頭を押さえている。


 これからどうすればいいのか、困惑するオプト・ドラコニス。

(ダメだ、オレ一人じゃ何をどうしていいのか、わからない……この先、何をどうすればいいのか?)

 オプト・ドラコニスが、ゾアを見て呟く。

「しかし、ゾアが菌糸のを消滅させられなくなったのは、どんな理由が?」

 オプト・ドラコニスが首をかしげた時、穂奈子に何かが憑依した。

「やっぽーっ! その疑問にワシがお答えしよう」

 やたらと明るく、奇妙な踊りをはじめる穂奈子。

 踊りながら穂奈子に憑依した者が言った。

「やっぽーっ、その少年が菌糸の根を消滅させられなくなったのは、ワシが推測するに自分が存在する場所を伝えるために、根を消滅させていたと思う……もしかして、上層エリアでは広い範囲の根を消滅できたのではないかな?」


「その通りだ、あんたいったい何者だ?」

「ワシにも正直、自分が何者なのかわからん」

「はぁ?」

「さらに、つけ加えるなら……目的の場所に近づいたから存在を示す必要が無くなった、そう考えると説明がつく」

「あんた、どこにいるんだ?」

「ワシに直接会いたければ、ワシが示す座標に来るがいい……やっぽーっ、そこから西に三百メートル先に進んだ、砂漠から突き出た鋭い岩のところだ」


 オプト・ドラコニスたちは、謎の存在が示した場所にやって来た。

 紫色の砂が広がるだけの、砂漠に立ったオプト・ドラコニスが周囲を見回して呟く。

「誰もいないじゃねぇか、おーい、誰かいるかぁ」

 オプト・ドラコニスが、そう叫んだ時──砂が盛り上がり、巨大な眼球が現れた。

「やっぽー、ワシじゃよ」

 塔のように高い、見上げる眼球から神経のようなモノが出ていて、眼球を支えていた。


「いったい、これは?」

 ユラユラ揺れる眼球の塔で、最上部で眼球が縦横斜めにクルクル回る。

「やっぽーっ、いつもより長く回しております、目が回るぅ」

「だったら、回るな……名前はあるのか?」

 クルクル回っている穂奈子が答える。

「中心部エリアの住人たちからは『目玉のパパ』と呼ばれておる……気がついた時から、このエリアにずっとおる」

 目玉のパパが、遠方を見るように背伸びをする。

「おっ、住人が来たろう、やっぽーっ」


 パパが見ている方向から、奇妙な集団が並んで歩いてくるのが見えた。

 それは、青白い炎が人型をした『生きている炎の種族』だった。手には炎のおのを持っている。

 先頭を歩いてきた、炎人がオプト・ドラコニスたちに言った。

「オラたちの土地で何しているだ! とっ捕まえて炎の牢に放り込め!」

 有無を言わさずに、オプト・ドラコニスたちは炎人に捕まり、砂漠にある炎の牢獄に放り込まれた。

 

 オプト・ドラコニスたちが放り込まれた半球ドーム型の青白い炎の檻の、向かい側にも同じ形の炎の檻があって檻の中には先客がいた。

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