第38話・「バニー・ブラッシュ! 代わるわよ」

 次の日──オプト・ドラコニスたちは、バニー・ブラッシュに案内されて。牛頭の大グモが居座っている遺跡場所に案内してもらった。

 確かにそこには、牛の頭をした、ホルスタイン柄の全長三十メートルの巨大クモがいた。

 刺又さすまたのような、湾曲した鋭い角を生やした牛頭クモのつぶらな瞳は、意外なほど愛らしい。

「角はすげぇが、可愛い目をしているじゃねぇか……さて、どうすりゃいいんだコレ?」


 牛クモの周囲には、活気がないスパイダー・モンキーたちが、遠巻きに膝を抱えて座っている。

 オプト・ドラコニスが言った。

「どうして、牛頭の大グモはあの場所で、じっとしているのかな? クモの考えているコトがわかれば」

 その時、穂奈子の体がガクガクと前後に揺れる。

「穂奈子に、なにか憑いた?」


 気弱な表情に一変した穂奈子クローネ三号が言った。

「いじめないでくださいぃ……産まれそうなんですぅ」

「おまえ、誰だ」

「みなさんの目の前にいるクモです……いじめないでください」

「どうして、その場所に居座っているんだ?」

「産卵する場所を探していて、ここまで来て動けなくなっちゃったんです……いじめないでくださぁい」

「そういう事だったのか」

「もうちょっとで産まれそうなんです……うっ」

 牛頭クモと同じように、うずくまった穂奈子が苦しそうな表情をする。

「きました……卵が産まれます……あたし、産卵します……あぅぅぅっ」


 牛頭クモと穂奈子がシンクロした動きをする。

体をガクッガクッと上下に動かす牛頭クモと穂奈子。

 牛頭クモと穂奈子が同時に鳴く。

「うもぅぅぅ」

 産みの汗を流して、スッキリとした表情をする穂奈子。

「産まれました卵、ご迷惑をおかけしました」


 立ち上がった牛頭クモの体の下には、産みたてのホルスタイン柄の卵が一つあった。

 牛革クモは、腹にある小さなクモ脚で産んだ卵を抱えると、そのままどこかへ行ってしまった。

 牛頭クモがいなくなると、スパイダー・モンキーたちは、自然石遺跡で熟成発酵させた栄養豊富なサル蜜を貪った。

 甘い蜜に群がる、スパイダー・モンキーを眺めるオプト・ドラコニスが言った。

「これで、強靭なクモ糸が手に入る」

 疑似産卵体験をさせられた、穂奈子は放心状態でブツブツと呟いていた。

「あたし……産卵しちゃった……あたし、た、卵産んじゃった」

 

 サル蜜を食べ終わった

スパイダー・モンキーたちは、口元を手で拭う。

 穂奈子の体がガクッと痙攣して、また別のモノが穂奈子に憑依した。

 腕組みをした穂奈子が、自信満々の表情で言った。

「うめぇ、サル蜜を食べさせてくれたコトには礼を言うぜ。だがなオレたちから建設用の強靭なクモ糸が欲しかったら、ボスのオレを倒さねぇと……糸は出さねぇ」

 穂奈子に憑依したのは、スパイダー・モンキーのボスザルだった。

 ボスザルがポクシングのようなファイティングポーズの動きをすると、穂奈子も同じように動く。

「さあっ、どこからでもかかって……」

 ボスザルがしゃべり終わる前に、ボスの影から飛び出してきた『飛天ナユタ』が持つ金属棒が、ボスザルを強打して吹っ飛ばす。

「うきぃぃ」

 同じポーズで吹っ飛ぶ穂奈子。


 怒ったオプト・ドラコニスが、ナユタに向かって怒鳴る。

「ナユタ! てめぅ、影に潜んで様子を見てやがったな! 穂奈子に何を! いや、よく考えたら穂奈子に直接攻撃はしてないな?」

 他のスパイダー・モンキーたちが、代わる代わる穂奈子に憑依する。

「てめぇ、うちのボスに何しやがる!」

「不意打ちなんて卑怯だぞ!」


 上体を起こして座ったボスザル穂奈子が言った。

「おまえたち、よさねぇか! へへっ、効いたぜ。なかなかのパンチだったぜ」

「ボス、あれはパンチじゃなくて武具で……」

「オレがパンチだと言ったらパンチなんだ! 素直に負けを認めるぜ……さあっ、オレがケツから出す一番搾りの糸を受け取りな!」

 股をガバッと開いた穂奈子の体は、羞恥でガクッガクッと震える。

「いやあぁぁぁ!」

 ついに耐えきれなくなった穂奈子は、自分で自分の頬を殴って気絶した。


 一列に並んで股を開いた、スパイダー・モンキーたち出したクモ糸をバニー・ブラッシュはたぐりまとめて言った。

「バニー・ブラッシュ! 糸は入手できた、代わるわよ」

 フード付きケープを脱ぎ捨てたバニー・ブラッシュは、そのままエリアの空中をクモ糸を使って移動すると、ものスゴいスピードで壊れていたクモ糸トンネルの壁や床を編み込み修理して、下層エリアに繋がる通路を開通させる。

「バニー・ブラッシュ!」

 オプト・ドラコニスたちは、クモ糸トンネルを通って次のエリアに向かった。

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