第40話・ゾアとゾアを呼んでいた者

 オプト・ドラコニスたちが入れられている炎の檻の、向かい側の檻に入れられている。

 ボロ布を頭からかぶって座る人物が呟いた。

「ご安全に……面目ない、護衛する立場なのに捕まってしまった」

 座っている人物がボロ布から頭を出す、銀牙のお節介娘『織羅・レオノーラ』が現れる。

「レオノーラさま!」

 レオノーラが、軽くガンアーマーの片手を挙げてオプト・ドラコニスたちに挨拶する。

「ボクもまさか、中心部エリアがこんな状態に、なっているなんて知らなかったよ……」

 オプト・ドラコニスがレオノーラに訊ねる。

「レオノーラさまは、どうして、この炎の檻から出なかったんですか?」


 オプト・ドラコニスが青白い炎の柵に触れる、ぜんぜん熱くはない不思議な炎だった。

「脱出しようとはしたんだけれどね……試しに外に出てみればわかる」

 オプト・ドラコニスが竜頭を青白い炎の外に突き出すと、途端に火力が増して紅蓮の炎の檻へと変わる。

 慌てて首を引っ込めるオプト・ドラコニス。

「アチィィィィ! なんだ、この檻は!?」

「逃げ出そうとする意志を読み取って、業火に変わる生きている炎の牢……仮に檻の外に転がり出て逃げても、追いつかれて檻の中に閉じ込められる」


 レオノーラが、ガンホルスターから引き抜いた、黄金の光弾銃を布で拭きながらしゃべる。

「確かこの中心部エリアには、視神経がいて動力部の管理を行っているはずだけれど……その視神経と、意思の疏通ができればもう少し、このエリアの情報入手ができるのに」

 オプト・ドラコニスがレオノーラに訊ねる。

「その視神経って、どんな形をしているんですか?」

「なんでも、眼球が乗っているオブジェみたいで、建造物みたいに高くて……」

「それ、知っています! 『目玉のパパ』と名乗っていました」

「目玉のパパ? そのパパさんと話しができればいいんだけれど……穂奈子お願い」

 一瞬、ビクッと肩を震わせる穂奈子。

「あ、はい……レオノーラさま。この身にピンポイント憑依させます」

 印を結んだ穂奈子の体に、目玉のパパが憑依する。

 陽気に踊り出す穂奈子。


「やっぽーっ、目玉のパパさんなのだ。ワシは視神経だったのか……少しづつ思い出してきた。はじめまして、パパさんなのだ」

「ご安全に、このエリアのコトを少し教えて欲しいな」

 話しはじめる視神経。視神経パパの話しだと、この中心部エリアの炎人たちは、世代交代が早すぎて。

 自分たちが極楽号の衛星国家、サンドリヨンの住人であり。ここが宇宙船の中であるコトを忘れてしまったらしい。

「炎人たちは、エンジニアとしての技能は、理由がわからないままに受け継がれ……動力部のメンテナンスを仕事として、それなりにこなしているから問題はないが……あっ!?」

「どうしました?」

「炎人たちが、『世界の恵み』と称している菌糸を叩き切ってきて、ワシを囲むように切った根を積み重ねはじめた……連中、ワシを燃やすつもりだ」

「なんだって!?」


 立ち上がるレオノーラ。

「そんなコトをしたら、極楽号が死んでしまう……菌糸の根から延焼でもして、極楽号内部に炎が広がれば、さらに大変なコトに……止めないと」

 レオノーラは、光弾銃レオン・バントラインの銃口を頭上に向けて、オプト・ドラコニスに言った。

「光弾を発射したら、急いで伏せて。そして、一か八か、炎の檻が消えたら走って逃げて……いっくよぅ」

 レオン・バントラインから発射された爆裂光弾が、爆風で炎の檻を消滅させる。

「今よ! 走って!」

 レオノーラと、穂奈子をプリンセスだっこしたオプト・ドラコニスと、ゾアが走り逃げると、誰もいない炎の檻が復活した。

 ボロ布を脱ぎ捨てた、レオノーラが言った。

「急がないと」


 レオノーラたちが、目玉のパパの塔に到着すると、塔にはかなりの高さに切り取られた根が積まれていた。

 穂奈子の体に、目玉のパパとは別の意識が憑依する。

 弱々しく愛らしい少女の表情に変わった、穂奈子が口元に片手を添えて、震えながら言った。

「ゾア……ゾア、どこ? 怖い、早く来て、切り取られている」

「オレは、ここにいるよ」

 ゾアは、アリの行列のように菌糸の根から目玉のパパ塔まで往復して切り取った菌糸の根を運んでいる、炎人たちに怒鳴り向かっていこうとする。

「やめろぅ! 彼女を傷つけるな!」

 必死にゾアを羽交い締めにして止める、オプト・ドラコニス。

 炎人たちが、炎の檻から逃げ出してきたレオノーラたちを見て、炎の斧を振り上げる。

「どうやって、あの炎の檻から出てきた? おらたちの祈りの邪魔はさせないだ!」


 炎人の一人が投げた炎の斧が穂奈子の足元近くに、突き刺さったのを見たオプト・ドラコニスが激怒する。

「穂奈子に、なにしゃがる!」

 オプト・ドラコニスの口から発射される冷凍光線……炎が消えた炎人たちは、溶岩石が空中に間隔をあけて連なった人型をしていた。

 炎人たちの岩石体から、紫色の炎が噴き出して再び炎人の姿にもどる。

「おらたちの、邪魔をするな!」

「荒神さまを召喚できねぇだ!」

「邪魔すると、おまえたちの方を、先に燃やしてやるだ!」


 レオノーラが、炎人たちに訊ねる。

「荒神って?」

「その昔、おらたちを導いてくれた神さまだ。ずっと前に来ただけで姿を見せてくれないだ……おらたちは、荒神さまのお言葉を聞きたいだけだ……これが、先祖代々伝わる荒神さまの姿だ」

 炎人の炎が、崇拝する荒神の姿を空中に描く。

 その荒神には、レオノーラは見覚えがあった。

「その荒神って、もしかして」

 レオノーラがガンアーマーの通信機から、ディアに指示する。

「ディアこっちに、夜左衛門さんの三次元立体映像を送って……それと、夜左衛門さんって。どこかの部署の総責任者と、執事の職務を兼用しているか調べて」

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