第4話 夜の戦闘!!

 ヘルメスの館に飛び込んで、すぐに扉を閉める。


「いらっしゃいませって、ルナさん? こんなに早く二度目のご来店ですか?」


 アイナさんが、首を傾げている。


「すみません。何故か、人に追い掛けられてしまって、咄嗟に、ここが思いついて……」

「そうでしたか。こちらに、お越しください。しばらくは出て行かない方が良いでしょうね」


 そう言って、さっき案内してくれた席と同じ席に案内してくれた。


「あら、ルナちゃんどうしたの?」


 カウンターの方から、アーニャさんがやって来た。


「どうやら、誰かに追われているようなので匿っているんです」

「え? ルナちゃん、何かやらかした? 他の人の獲物をとったとか、何か変なスキルを見せたとか」

「え、銃術は見せてたかもですけど……その時は誰も来ませんでしたし、後は、解体術くらいですかね」


 私が、そう言うと、アーニャさんとアイナさんは、少し固まった。


「ルナちゃん、どうやって、解体術なんてスキル手に入れたの?」

「え? 解体屋の店主さんに教えてもらいましたけど」

「あそこの店主さんって、威圧っていうスキルを持っているはずなのよ。新人の冒険者は、皆、気圧されると思うんだけど」

「確かに怖かったですけど、いい人でしたよ?」


 私が、そう言うと、アーニャさんとアイナさんは、再び固まった。


「あそこ店主が認めるってすごいわね」

「そうですか? それよりも、冒険者って何ですか?」


 私は、アーニャさんの話で気になった部分を聞いた。冒険者という言葉は、向こうのホームページでも、こっちのチュートリアルでも見た事が無い。


「異界人は、皆、冒険者になっているはずよ」


 私は、メニューから、スキル欄を選び見てみる。


 ────────────────────────


 ルナ[冒険者]:『銃術Lv2』『銃弾精製Lv2』『集中Lv2』『言語学LV2』『潜伏Lv2』『速度上昇Lv1』


  EXスキル:『解体術Lv3』


 ────────────────────────


 スキルレベルが軒並み上がっている。特に、解体術が上がっていた。なんか複雑……

 そして、さっきはスルーしてしまっていた、冒険者の表記に気付いた。名前の横にあるのに気付かなかったって、私って意外と注意力散漫なのかも……


「これって何か、関係があるんですか?」

「職業は、自分のステータスに、影響を与えるわ。冒険者は全てのステータスを小アップさせる効果があるの。本当に小さいから無いよりマシって感じだけど」


 アーニャさんは驚くべき事を言い出した。事前の調べでは、私達自身にレベルは無く、ステータスを伸ばすには、スキル獲得としか記述されていなかった。

 そう、書かれていない=それしかないと思い込んでいた。しかし、今この瞬間に、それが間違いだったと分かった。確かに、最初からゲームの全てが分かっていたら、遊ぶ楽しみが半減するし、気が付いたら良いって感じなのかな。


「他にはどんな職業があるんですか!? 職業ってどうやったらとれるんですか!?」

「ふふ、そんな急かさなくても、きちんと教えてあげるわ。本当に可愛い子ねぇ」


 アーニャさんはそう言って、満面の笑みを浮かべている。何故か少し興奮してもいる。何でだろう。


「職業は、かなりの数があるわ。獲得条件さえ達成すれば、誰でも獲得出来るの。そして、獲得したものは、他のを獲得しても消える事は無いわ。でも、セットできるのは一つだけ。恩恵を得られるのもこの一つのみよ。今のところはね。後は、スキルレベルの合計が、百を超えたら、変更が可能になるわ」


 アーニャさんが詳しく説明してくれた。でも、NPCであるアーニャさんは、なんでこんなにいろんな事を知っているんだろうか。アーニャさんに対する謎が増えていく一方だった。


「アーニャさんって何で、そんな事まで知っているんですか?」


 気になったので訊いてみた。うだうだ自分だけで考えても答えなんて出ないしね。


「ひ・み・つ・よ」


 教えてくれなかった。ご丁寧にウィンクまでしている。


「まぁ、それよりも、今はこの状況をどうにかする方が先決でしょ?」


 そうだった。今の私はよく分からないプレイヤーに追い掛けられていたんだった。


「でも、いつまで経っても乗り込んできませんね。私が路地に入るのは見ているはずなのに」

「何でかしらね。迷子にでもなってるのかしら?」

「確かに、複雑な道のりだったし、あり得るかもしれないですね」


 路地裏は、かなりの数の分岐があった。一つでも間違えれば、ここに辿り着くのは難しいだろう。


「はぁ、結局、何が原因だったんだろう……」

「あっ、そう言えば、そのことで話してたんだったわね。ルナちゃんが目を付けられた原因はズバリ、解体術が原因よ。解体術は、普通解体屋しか持っていないスキルだからね」

「でも、普通に教えてくれましたよ?」


 あの店主さんの眼をきちんと見返していたら、教えてくれたので、そんなに難しい事じゃないと思う。


「さっきも言ったけど、あそこの店主さんは、威圧ってスキルを持ってるの。普通の人は睨まれるだけで、身体が竦み上がってしまうわ。そして、その効果が最も発揮されるのが眼を合わせたときなの。だから、店主さんは、解体術を教えてくれと言われたら、まず相手の眼を見るようにしているらしいわ」


 確かに、教えてもらおうとしたときに、こっちの眼を見てきていた。でも、顔が怖いと思っただけで、あまり、気にならなかったな。


「でも、顔が怖いだけでしたよ」

「う~ん、時々なんだけど、威圧を一切受け付けない人がいるのよね。元々物怖じしない人に多いわ」

「私は、結構怖がりだと思いますけど……」

「自分の感覚は、たまに当てにならないものよ」


 アーニャさんが言うには、私は物怖じしない人になるらしい。私、お化けが苦手なんだけどな。


「大丈夫そうですし、もうそろそろ、お暇しますね。いつまでも、ここにいるわけにもいかないので」


 さすがに、そろそろお昼ご飯を食べないと。このまま続けていると、終わった頃にはお腹が鳴りまくってしまう。


「そう? 気をつけてね。また、追い掛けられたら、ここに来て良いからね」

「じゃあ、その時はまたお世話になります」


 そう言って、ヘルメスの館を後にする。すぐに路地裏を抜けずに、この場でログアウトする。メニューを開いて、ログアウトボタンを押すと、周りが光に包まれた後、黒く染まる。少しすると、ユートリアの音ではなく、現実の音が聞こえてくる。外で子供達がはしゃいでいるようだ。


「よいっしょっと」


 身体を起こしつつ、ハードウェアを頭から外す。


「ふぅ。楽しかった。早く食べて、もう一度入り直す前に、夕飯の買い出ししなきゃ」


 少し遅いお昼ご飯は、簡単にそうめんにした。その後、洗濯物の状態を確認すると乾いていたので、そのまま取り込んでしまう。そして、外行きの服に着替えて、近くのスーパーに買い物に行く。白菜が安かったので、一人鍋を作る事にした。


 家に帰って手を洗った後、洗濯物を畳み、それぞれ仕舞うべき場所に仕舞う。そうすると、もう夕方になってしまったので、お風呂の用意をしてから、夕飯の支度をする。今日の夕ご飯は、白菜と豚肉のミルフィーユ鍋だ。ポン酢で具材を食べた後に、ご飯を入れ卵でとじ、雑炊にして食べる。その後、お風呂に入って、ゆっくりしつつ、テレビを見ながら、ユートピア・ワールドの情報収集を始める。


「わぁ、色々出てきてるなぁ。でも、アーニャさんが言ってた職業だとかの情報は無いね。ヘルメスの館の情報も無いから、まだ見付かってないんだ。あそこは癒やされるから見付からない方が良いけど……他の情報は、南の平原で、ウサギを解体する女の子を発見……これ、私だ……」


 きちんと読んでみると、


『ユートリア南門の近くにキラーラビットを解体している女の子を見かけた。遠くから見ていただけだったが、こちらに気付くと、逃げ出してしまった。周りにいた何人かが追い掛けていった。その後の噂によると、見失ったらしい。捕まえて無理矢理話を聞こうとしていたらしい。他に見ていた人に、注意されてすごすご帰って行ったが、まだ、問い詰める気でいるらしい』


 と書かれていた。


「明らかなマナー違反だと思うけど、ユートピア・ワールドは自由なゲームだから、その辺も緩いのかな。まぁ、今度絡まれたら、全力で逃げよ」


 めぼしい情報はなかったので、自室に戻って、ユートピア・ワールドにログインする。目を開けると、そこは暗い路地裏だった。


「ログアウトした場所に、戻ってくるんだなぁ。取りあえず、外に出てモンスターを狩りに行こっと」


 路地裏から出ると、街は、街灯で照らされて幻想的な雰囲気を醸し出していた。


「夜の街はすごく綺麗だね」


 明かりに照らされた街を歩いて、南門に向かう。

 何故、毎回南門に向かうかというと、そこが初心者向けのフィールドだからだ。外に出る前に、できるだけ弾を精製してポケットに入れておく。


「さて、夜はどんなモンスターが出るのかな」


 私は、意気揚々と南の草原に繰り出す。しばらく歩いて見つけたのは、狼の姿だった。


「昼はウサギで、夜は狼なんだ」


 狼は、動きを止めて伏せている。寝ているのかもしれない。今なら、仕留められるはず。私は、大きく息を吸ってから止め、狙いを定める。照準を頭に合わせ狙い撃つ。銃声が響き渡り、一匹の狼が死んだ。私は、警戒しながら、狼の死体に近づいていく。何事もなく回収出来た。うん、回収は出来た。


 グルルルルル……


 気が付くと囲まれていた。十匹はいる狼の集団に……


 見るからに怒っている。そりゃあ、目の前で仲間を殺されたら怒るよね。リボルバーの中に入っているのは、五発。ポケットの中には、さっき精製した何発か入っているが、この乱戦で足りるかどうか。でも、やるしかない!


 私は、まず、近くにいた狼を撃つ。頭は外したが、身体に当たったため、血を流してよろける。


「この銃、面倒くさい!!」


 このリボルバーは、撃つ度に自分で撃鉄を起こさないといけない。撃鉄を起こす、狙いを定める、撃つ、撃鉄を起こすの繰り返しだ。


 一匹の狼を撃った事で、他の狼が、飛びかかってくる。キラーラビットとは、比べものにならないくらいに速い。ギリギリで避けたけど、一瞬でも判断が遅くなれば、噛みつかれてしまうだろう。


「避けつつ、攻撃出来れば……」


 避けつつ、横っ腹を攻撃出来れば、もう少し楽になると思うけど、避けるだけで必死だから、絶対に無理!


 狼が、少し休んだ瞬間に撃つ事で、少しずつ数を減らせている。


(絶対に取り乱しちゃダメ。冷静に集中して……)


 ここで、冷静さを崩してしまうと、途端に状況が崩れてしまう。だから、集中し続ける。避けて避けて、狼が止まった瞬間に撃ってを繰り返して、弾がなくなれば、すぐにリロードする。


 弾は、ほとんどを外してしまったが、何発か当てる事が出来た。それで、後三匹まで減らせた。そして、この戦闘の副産物で、銃を見ないでリロードが出来るようになった。


 残弾は、まだあるので、冷静に集中して撃ち続ける。約三十分の戦闘の結果、狼を全滅させる事が出来た。


「本当に疲れた……戦闘のネックは、リロードかな。一気に出来れば良いんだけど……確か、リボルバーのリロードが速くなるものがあったはずだよね。どっかで、見た気がする。ゲーム情報より、銃の情報を見るんだった……」


 少し後悔しつつも、狼の死体を回収していく。今回の戦闘では、頭を狙って正確に撃つ事が出来なかったので、少し傷が多くなっている。


「少し避けるのが楽になったのは、速度上昇のおかげかな。後は、夜間の戦闘は、目が利かなくて難しいって感じかも」


 夜の戦闘では、月明かりしか頼りにならない。その月明かりが意外と明るいため、狼と戦う事が出来たが、新月や森の中では、こうもいかないだろう。


「夜間の戦闘用に何か明かりみたいなのが必要かな。魔法とかで明かりを作るとか出来れば良いんだけど、私はスキルを持っていないし。後は、暗視みたいなスキルがあればなぁ」


 そんな事を考えながら、平原を進んで行く。その間にも消費した弾の補充をする。


「弾を精製しすぎると、身体の力がどんどん抜けていくなぁ。MPが少ないのか、消費MPが多いのか」


 今後の戦闘の方法について考えつつ、歩いていると、遠くの方で悲鳴が上がった。


「きゃああああああああ!!」

「やべぇ! 逃げろ!!」


 そんな声が、そこかしこから聞こえてくる。


「何か……いるの?」


 周りをキョロキョロと見回すが、影も形も見えない。そもそも、夜のため、月明かりという照明があっても視界が悪い。周りを警戒していると、かすかに、ヒューッという音が聞こえた。聞こえた先、空を見上げると、黒い鳥が急降下してきた。


「あぶなっ!」


 何とか横飛びで避ける事が出来た。そして、その鳥の姿をしっかりと見る事が出来た。その鳥は、黒い、本当に黒い、カラスだった。モンスターの名前は、夜烏よがらす


 私が、戦う最初の強敵だ。

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