第5話 対夜烏戦!!

 夜烏は、私を敵と認識したらしく、執拗に狙ってきた。遠くにいて生き残ったプレイヤー達は、一目散に逃げていく。


 私は、今までの戦闘経験を活かして、何とか夜烏の攻撃を避けていく。今のところかすり傷も負っていない。


「偶然が重なっているだけかもだけど、避けられてる。でも、私の攻撃は当てられるかな」


 少し心配になるが、今はやるしか無い。というか、そもそも夜烏は、空を飛んでいるから絶対に逃げ切る事なんて出来ない。そんな事を考えている間も、夜烏が攻撃して来ている。


「もう、しつこい! 絶対倒してやるんだから!!」


 私は、リボルバーの撃鉄を起こして、夜烏を狙おうとする。


「少しでも、視線を外したら、どこにいるか分からなくなっちゃう。これじゃ、狙うのが難しいよ」


 よく見てみると、夜烏は、特別速いわけでは無かった。漆黒の羽によって夜に溶け込んでいるため、少しでも目線をずらしてしまうと、見失ってしまうのだ。


「夜烏の攻撃モーションである急降下をしてくるところを狙うしかないかな……」


 眼だけではなく、音を頼りに夜烏の攻撃のタイミングを探る。夜烏は、急降下攻撃の時に、風切り音を放っていた。私は、その音が聞こえたタイミングで空を見上げリボルバーを構える。夜烏が、急降下してきているのを視認して、照準を合わせ引き金を引く。


「嘘!?」


 夜烏は、私の弾をバレルロールで避けた。尚且つ、私の腕を軽く引き裂いて抜けていった。


「痛っ……このゲーム痛みもあるんだね。まともに攻撃受けたのはキラーラビットの体当たりだけだったから気付かなかった。いや、あの体当たりでも痛みはあったけど、ボールを当てられたくらいの痛みだったから、すぐに気にしなくなったんだっけ……っ!」


 少し考え事をしてしまって油断した。ギリギリで避けられたけど、あれは絶対に強敵だし、油断しちゃダメだ。


「すぅ~……はぁ~~……」


 深呼吸をして、一度落ち着かせる。焦りで照準がズレれば、それだけで致命的なミスになりかねない。


「よし、やってやる……」


 夜烏は、基本的に急降下による攻撃しかしてきていない。さっき、私を斬り裂いたのは、嘴でも脚でもなく翼だった。


「つまり、あの翼は、意外と固いのかも」


 夜烏の急降下の攻撃は単調だが、少しでもタイミングがズレれば当たってしまう。しかも、こっちの攻撃は、曲芸じみた動きで避けられてしまう。


「難しいね……やるべきは、急降下中に攻撃。でも、安全な距離からだと避けられる。なら……!」


 私は、夜烏の動きを注視して、攻撃を避けながらタイミングを計っていく。


(まだ……まだ………まだ…………ここ!!)


 夜烏が、私に攻撃を当てようとするその瞬間を狙って撃った弾は、夜烏の翼に当たった。しかし、夜烏の攻撃も私に当たってしまう。


「痛っ……でも、これで、もう飛べないよね」


 翼を撃たれた夜烏は、地面に墜落している。しかし、その眼は、全く絶望していなかった。その脚で地面を蹴って、こちらに突っ込んでくる。


「あぶなっ! まだ、諦めてないの!?」


 私は、リボルバーを構えて、夜烏に対して発砲する。夜烏は、地面においても素早い動きを見せる。地面を蹴って、私に向かって嘴を突き刺そうとしてきている。


「地に落ちてもまだ、こんな動きをするなんて……でも、これで終わりだよ!」


 夜烏が着地したタイミングで、引き金を何度も引く。リボルバーから放たれた弾は、夜烏の身体に吸い込まれていき、身体を貫く。それきり、夜烏は動くことは無かった。


「はぁ……危ない戦いだったなぁ。少しの油断も許されないなんて」


『『聞き耳Lv1』を修得。最初の修得者のため、ボーナスが付加されます』

『『回避術Lv1』を修得。最初の修得者のため、ボーナスが付加されます』

『『暗視Lv1』を修得。最初の修得者のため、ボーナスが付加されます』

『『器用さ上昇LV1』を修得』

『ユニークスキル『リロード術Lv1』を修得』

『ユニークモンスター『夜烏』の討伐を確認。MVP討伐者として、ユニーク装備『夜烏』を贈呈します』


「……何かいっぱい手に入った。てか、このカラスってユニークモンスターだったんだ」


 色々と詰め込まれすぎて、情報の整理がつかない。ひとまず、街に戻って、休憩かな。


「ヘルメスの館、まだやってるかな」


 私は、ゆっくりと歩いて街に戻った。街の中は、ざわざわとしていた。


「何だろう? まぁ、いいや、早く行こう」


 街のざわめきは無視して、ヘルメスの館へと向かう。幸い、昼のように追い掛けられること無く、辿り着くことが出来た。


「いらっしゃいませって、ルナさん今日三回目のご来店ですね。お茶飲みますか?」

「はいって言いたいんですけど、お金が無いので……」

「そうなんですか? じゃあ、私とのお茶会して頂けませんか?」

「お茶会?」

「はい。ちょっと休憩するために、お茶を飲んで一息つこうと思っていたんです。お喋り相手になって頂けたら嬉しいです」

「じゃあ、お言葉に甘えさせて頂きます」


 アイナさんとのお茶会が始まった。


「そういえば、アーニャさんは何処に?」

「アーニャ様は、お仕事中です。あんな感じでも、一応職人ですから」

「へぇ~、あっ!」

「どうしました?」

「いや、解体屋さんの所に行こうと思っていたのを忘れてしまって」


 解体屋で解体場を借りようと思っていたんだけど、ヘルメスの館に行きたい気持ちが先走ってしまった。それに、カラスの解体の仕方も訊きたいと思っていたんだった。


「そうなんですか? 今から、行ってきます?」

「いえ、アイナさんとのお茶会の方を優先します。解体屋さんには、明日行きます」

「そうですか。良かったです。ルナさんとお話ししたいと思っていましたので」

「じゃあ、色々話しましょう!」

「はい。早速ですが、ルナさんは、好きな人はいるんですか?」

「ぶふぉ!!」


 思わず飲んでいたお茶を吹き出してしまった。


「ご、ごめんなさい!」


 私は、急いで布巾で拭く。


「ふふ、その様子だと、いないようですね」

「え? 普通逆なんじゃ?」

「ルナさんの焦り方は、好きな人がいるからじゃ無くて、質問そのものに対してみたいでしたから」


 アイナさんはニコニコしながらそう言った。


(恋バナが好きなのかな?)


「気になる男の子はいないんですか?」

「う~ん、いないですね。アイナさんは?」

「私もいないですね。仕事柄、色々な人に会ってはいますけど、魅力的な人はいなかったですね」


 仕事柄……そうか、ウェイトレスはお客さんと接客するしね。


「ルナさんは、どういう人が好きなんですか?」

「ええっと、どういう人だろう?」

「思いつかないですか?」

「はい。深く考えたこと無かったですね」


 好きなタイプ、そう言われて、何も出てこなかった。かっこいい人なのか、面白い人なのか。


(私の好きなタイプって、どんな感じなんだろう?)


 全く心当たりがなくて、いくら考えても出てこなかった。


「アイナさんは?」

「私は、可愛い人ですね」

「可愛い人?」

「はい! 可愛い女の子が好きです!」

「へ?」

「あ」


 アイナさんは口を滑らしてしまったというような顔をした。


「えっと、引きました?」

「何でですか?」


 アイナさんは面食らった顔をする。そんなに驚くことなんだろうか


「好きな人が女性でも男性でも変わらないですよ。その人のことを好きな気持ちを偽る方がいけないと思います。それに、他人がとやかく言う事じゃないですしね。誰かが、文句言ってきたら言ってください。頭に鉛弾をぶち込んでやりますから!」


 アイナさんは、少しの間ぼーっとしていた。変な事言ったかな。


「ルナさ~ん!」


 アイナさんは、席から立ち上がって私に抱きついた。


「そんなこと言ってもらえて嬉しいです! ルナさんの事大好きになりました!!」

「あの、アイナさん、苦しいです……」

「あっ、ごめんなさい」


 アイナさんは、締め付けを少し緩めた。つまり、抱きついたままということだ。


「アイナさん、私のことはルナで良いですよ」

「そうですか? じゃあ、ルナちゃんって呼びますね。私もアイナで良いですよ」

「じゃあ、私も真似してアイナちゃんって呼びますね」

「敬語もいりませんよ」

「うん、わかった」


 私とアイナちゃんが、他愛のない話を続けていると、お店の奥からアーニャさんが出てきた。


「アイナ~お茶~って、ルナちゃん!? 余程、ここが気に入ったのね」

「アーニャさん、お邪魔しています」

「いらっしゃい……いつの間に、二人とも仲良くなったのかしら?」

「ついさっきですよ。ルナちゃんと恋バナをしまして」

「相変わらず好きね、恋バナ」


 やっぱり、アイナちゃんは、恋バナが好きなようだ。


「そうだ、アーニャさん。このモンスターの素材って使えますか?」


 私は、アイテム欄から夜烏の死体を取り出す。もちろんテーブルには載せない。


「これって、夜烏!? ルナちゃん大丈夫だったの!?」

「はい。見ての通りですよ。かすり傷だけで済んでます」

「すごいわね。新人冒険者にユニークモンスターを狩るのは、かなり困難な筈なんだけど」

「そうですね。すごく厳しい戦いでした。少しでも油断したら、腕とか斬り落とされてたかもしれません」


 夜烏との戦いでは、あの翼で傷を付けられた。ギリギリで避けることが出来たから、かすり傷で済んでいたけど、少しでもズレていたら大怪我だった。


「そうよね。私も狩るに狩れないモンスターだもの」

「狩るに狩れない?」

「夜烏は、この色だから夜に紛れていて見つけにくいのよ」

「でも、音で気付きますよね」

「音? なるほど、静かな状態だったら、風切り音が聞こえたのか。複数人で行ったのが間違いだったのね」


 アーニャさんは、一人で考え込み始めてしまう。そろそろ、夜烏を持っている腕が限界になってきた。それに気が付いたアーニャさんが、少しだけ笑う。


「解体して素材にしたら、持ってきて。何か作ってあげるわ」


 アーニャさんは、ものすごく張り切っている。


「分かりました。あっ、そうだ。ユニーク装備ももらったんだった」

「そうなの? まぁ、ユニークモンスターだものね。何を手に入れたのかしら?」


 私は、アイテム欄から、夜烏討伐で得た装備を具現化する。出てきたのは、軍服のような装飾などがされた黒いワンピースだった。


「名前は『夜烏』……そのままですね」

「着替えてみたら? ここには、男はいないことだし」

「わ、分かりました」


 このゲームの不便なところが一つ分かった。こういった防具を変える際には、実際に服を着替える様に脱がないといけないのだ。今着ていた服を脱いで、袖を通すと、意外としっくりきた。スカートだけど、かなり動きやすい。


「わぁ、ルナちゃん、かっこかわいい!」


 アイナちゃんが、抱きついてくる。


「うん、似合っているわね。うん、うん、なんだか創作意欲が出てきたわ! ルナちゃん、早めに素材持ってきてくれる?」

「はい、明日解体する予定なので、その後すぐに持っていきますね」

「分かったわ。それまでに、設計しないと……よし! アイナ、お茶!」

「はい」


 その後は、お茶を飲みながら、世間話を続けた。


「あっ、もうこんな時間。私、もう帰らなきゃ」

「確かに、結構夜が更けてしまったわね」

「ルナちゃん、また来てくださいね」

「はい、明日は、友人がこっちに来るので、連れて来ても良いですか?」

「もちろん、良いわよ」


 私は、ヘルメスの館を出てから、ログアウトした。


「ふぅ、長話しちゃった。今日は、大きな戦闘をしたから、結構疲れたなぁ。ゲーム内のことだったけど、現実でも少し疲れを感じるとは思わなかったや。さっさと、戸締まり確認して早く寝ちゃお。明日は、解体とかしたいから、早起きしなくちゃだし。遅れちゃったら日向にも悪いしね」


 私は、玄関や窓の戸締まりを確認してから、ベッドに入って眠りについた。

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