第40話 クラーケン討伐!

「できたかえ?」

「おう! できたぞ」

「こっちもだ」

 大工のダイクンと、金物屋のガーリーがそろって頷く。

 これが最後の仕上げだ。木製の穴の部分に機械を詰め込むのだ。

 機械といっても簡単なもので、上下に動かすとくるくると回る扇風機の羽みたいなのが伸びているだけのものじゃ。

 これで推進力を生み出す。

 イメージとしては足こぎボートじゃ。それもひと一人の大きさじゃ。

 これでクラーケンを退治してくれよう。

 なにせ時間遡行の能力と絶対防御の力を持っている。これで勝てぬなら誰が勝てるのじゃ。

「よし。完成だ」「うまく収まったものだ」

「お前、やるな」「お主もな」

 ダイクンとガーリーの友情が成立した瞬間である。

「これは商品化も目指そう」

「おれも思っていたところだ。これなら水遊びも増えるな」

「他にも色々と役立ちそうだ。これなんてどうだ?」

 わしが適当に書いたイラストを見て、興奮するダイクンとガーリー。

「ああ。可能性が広がるな!」「おうともさ!」

 ガッツポーズをとるふたり。

 わしはその間に挟まれて暑苦しい。


 そんなやりとりを見つめ、わしは現場に向かう。……じゃが

「重い……!」

「そんな重いのを嬢ちゃんひとりで持っていけるわけないだろ」

 ダイクンがそう言い、木製の台車を持ち出してくる。

「こ、これは……!」

「専用の台車だ。使ってくれ」

「ありがたいのう。では使わせてくれい」

 わしは台車に魔道ジェットスキーを固定させると、押して歩き出す。

「おふたりとも、ありがたや」

「なに。こちらも仕事でな」「そうだな。金貨ありがとう」

「よい。気にするな」

 わしは後ろ手に手を振って港へ向かう。


「やっと来たの」

「なんじゃ? なんでミアがおる?」

「最近、皇族の威厳が保てないから、こうして父の代わりに役目を果たす必要がでてきてしまったの」

「だからこんなに弓兵ばかりを集めたかえ?」

 目の前には百名近い弓兵が集まっている。みな一様に港から地平線を眺めている。その先にいるクラーケンに目を向けているのだ。

 みなの敵は一致している。じゃが、わしの作戦では弓兵など逆効果じゃ。

「……あの?」

「なんじゃ。ミア」

「そのイルカみたいな形の木像は何かの?」

「これは手こぎジェットスキーなのじゃ」

「じぇっとすきー?」

「そうなのじゃ。これで海の上を走れるのじゃ」

「そんなバカな話があるわけないの」

「できるんじゃよ。それが」

 わしはひとりで進水式を始める。

 水面に浮いたジェットスキーに乗り込み、足で漕ぎ始める。

「遅いのう……」

 さすがに力不足。

 風魔法を使い、スクリューを回転させる、とものすごい勢いでジェットスキーは動き出す。

「ひゃっは――――っ!」

 いい風じゃのう。

 全身で潮風を浴び、駆け抜けるわし。

 水上バイクのなんといい速さか。

 沿岸にたどり着くと、クラーケンを探す。今はまだ水中に身を潜めているのだろうか。

 おびき寄せるには餌が必要か。

 持ってきた漬物を海中にばらまく。

「これで、食いついてくれると嬉しいんじゃが……」

 ばっしゃーっと水面に現れたのは小魚ばかり。だけど、これも餌になっている。

 その小魚を餌に浮かび上がってきた、大きな魚影。というよりもイカの輪郭。

 音を上げて水面から姿を現すクラーケン。

「やっと見つけたわい」

 わしは腕試しにウォーターカッターを放つ。

 再生力が高いのか、焼き焦げた跡は消えてなくなっている。

 カッターで傷ついた腕はすぐに回復する。

 これでもダメかのう。

 今度は風魔法のウインドカッターで切りつける。

 甲高い悲鳴をあげて、受けたダメージを回復するクラーケン。

 悲鳴を上げるということはダメージは受けておるのじゃな。

 火魔法で火球を放つ。

 焼け焦げる皮膚。ちりちりと焼かれたのがかんに障ったのか、触手を振り回すクラーケン。

 わしはその攻撃を回避。ジェットスキーを乗り捨てると、クラーケンの胴体にとりつく。

「この距離じゃ、逃げられまい」

 ゼロ距離から放つ何発もの火球。当たる度に焼きイカのいい香りが漂う。連続して攻撃していくと、焼き焦げた場所に穴が空く。

「ほう! うまくいったのじゃ!」

 わしが頷いていると、クラーケンは嫌がるように身体をうねらせる。

 それでも踏みとどまるのはわしの執念か。

 連続して火球を放つと、クラーケンが悶え苦しむ。

「これで終わりじゃ。クラーケン!」

 穴の空いた先、心臓めがけてウォーターカッターを放つ。

 再生能力があるとはいえ、心臓は回復できまい。

 切り飛ばす。その後、再び火球魔法で心臓付近を焼き尽くす。

「心臓は三つある。まだ!」

 内部に侵入し、内臓を切り捨てる。

 クラーケンの口から飛び出すと、クラーケンはその場に崩れ落ちる。

「これで終わりかのう」


 わしはクラーケンに打ち込んだ縄を手に、ジェットスキーに乗り込む。

 そしてジェットスキーを走らせながら、クラーケンを漁港に運ぶ。

「もう、やってしまったの? ルナ」

 ミアが眉根を寄せている。

「やってしまったのう。弓兵の準備は無駄だったようじゃ」

「……やっぱりルナはやりすぎたの」

「ほほほ。でもクラーケンの残りをどうすればいいのかえ?」

 引きずっていたクラーケンの身体を港にあげる。

「「「おおーっ!」」」

 と大きな声が上がる。

「これで港が使えるようになるわい」

「そうね。でもこれでリース家が揺らいだの……」

 悲しそうに目を伏せるミア。

「まあ、いいの。これでクラーケン退治成功! みなのもの解散!」

「しかして。このイカはうまいのかのう?」

「え。食べるの?」

「うむ。とりあえずは」

 ウォーターカッターで捌いてみると、アンモニアのきつい匂いが漂う。

「う」「これは……」

「食べられたものじゃない、のう……」

 わしはその匂いを確かめると、バラバラに刻んで海に帰すことにした。

「これで明日から漁業が再開できるわい」

「そうなの。これで何もかもが終わりなの」

 喜んでいいのか、それともひとりで戦わせてしまったを後悔すればいいのか、分からないでいるミア。

「大丈夫じゃ。ミアはちゃんと役だっておる。わしに帰る家を与えてくれたのじゃ。これでいいのじゃ」

「そ、そう。そうなの?」

 戸惑いで震える声をあげるミア。

「ああ。リース家から何を言われようとも気にするでない」

「うん。ありがと」

 こうしてクラーケン退治は終わった。


 まだまだ課題も多いが、わしは今も異世界で日本食を楽しんでおる。そのためならクラーケンだろうが、魔王だろうが、退治してくれるというもの。老後の楽しみ、異世界ライフを満喫するのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おばあちゃんの知恵袋は異世界でも活躍する!? ~精神年齢は100歳以上。非合法婆ちゃん~ 夕日ゆうや @PT03wing

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ