第39話 撤退。ミアの存在価値!

「あれがクラーケン!」

「おれは知らぬぞ。逃げるなら今のうちだ」

 遠くに望むのはでかいイカ。全長18mはある。

 その触手には無数の吸盤があり、うねっている。

「ここから届くかのう」

 わしは水魔法を使い、ウォーターカッターを放つ。

 それをさけると、触手の一部を切り落とす。

 だがすぐにボコボコと肉塊を生み出し、再生される。

「ルナ嬢ちゃん、無理だ。よそう帰ろうじゃないか」

「そう言っている間に漁をしてくれんかのう」

「お、おう!」

 わしの気迫に押されたのか、漁師は後方で漁を始める。

 船首から放った火球はクラーケンの肌をチリチリと焼く。

「焼きイカはきっとうまぞい。それぃ!」

 再び火球を放つと、その表面をまたも焼く。

「効いておる。効いておる。次は目を狙うぞい」

 火球を放つ。再生能力を持っているとはいえ、火傷は治せないようじゃ。それなら狙うしかない。

 火球を放つ。火球を放つ。火球を放つ。

 永遠続くかと思えた行為が途中でとまる。

 クラーケンの様子がおかしい。もぞもぞと身体を動かしている。そしてドリルのように水面を回転しだすと水底へと潜っていく。

「しまったわい。逃げられたのじゃ」

「に、逃げたのか。それともこの漁船を沈めようとしているんじゃないか?」

「それなら必死で漕げい。じゃないと、襲われるんじゃ」

「そ、それもそうだな! よし」

 オールを手にして漕ぎ始めるわしたち。



「なんとか、逃げ切れたな」

 漁師が息を切らしながら、漁港に寄せる。

「ひぃ。怖い思いをした。無事かい、嬢ちゃん?」

 とってきた魚をあげると、漁師は曇った顔をする。

「無事じゃよ。それよりも生活はなんとかなりそうかえ?」

「ああ。それはそうだが……」

「クラーケン退治はまた今度じゃな」

「お、おう。またやるのかい?」

「そうじゃ。いつぞやにはやらねばならぬ」

 クラーケンがいる限り、この漁港は利用できない。となれば、この街の発展が難しくなる。

 そのため、クラーケンの退治は必須になってくる。

「小型漁船でも小回りがきかんのう」

 小型ジェットスキーでもあるとよいのじゃが。それなら作らせるかのう。


 わしは金物屋の工房へ向かう。

 ダニエルの父・ガーリーがカンカンと相変わらず金属を金槌で叩いている。

「おう。よく来たな。依頼か?」

「おろし金はいい調子で。次はこれを作ってもらいたいのじゃ」

 すっかり量産できるようになった紙に、イラストを書いて見せる。

「ほん。こんなのは作れんぞ」

「じゃろうな。木製ではどうじゃ?」

「ほう。それなら浮力を得られるかもしれんが、推進力がないぞ? どうする?」

「動力部だけは金属で作る……じゃとか?」

「それじゃ、答え半分だな」

「半分かえ?」

「そうだ。魔法と金属の合わせ技で推進力をえる」

「できるのかえ?」

「それならできるだろうて」

「そうかのう。それは吉報じゃな」

「しばしまてい。こちらは一週間はかかる」

「そうなのじゃな。わしは大工さんに会いにいくかのう」

「そうしてくれ。細かい調整はあっちですればよい」


 わしは近くの木工屋さんに飛び込む。

「あん? 嬢ちゃん、何してはる?」

「わしはルナ=キルナーじゃ。これを作ってほしいのじゃ」

 わしはイラストを見せると、大工は目を細める。

「ほう。面白いな。これで水面に浮かぶってわけだ!」

「そうじゃ。金貨四枚で足りるかのう」

「ふん。これなら一枚でいいわい」

 奥へ入り、材料をもってくる大工。

「これで作ってやるわい」

「いつ頃完成するかえ?」

「ふん。これなら四日、いや三日だろうな」

「じゃあ、頼むのじゃ」

「最後にいいかい?」

「なんじゃ?」

「なぜうちの工房を選んだ?」

「うーん。カン、かのう?」

「そうかい。もういいよ」

 わしが工房を出ていくと、ミアと出会う。

「あー! やっと見つけたの!」

「ええい。見つかってしまったかのう! ……って何かあったのかえ?」

「いや、ルナ。すでにクラーケンと戦ったというじゃない?」

 もうそんな噂が知られているのかい。

「そうじゃが?」

「なんで皇族よりも先に戦っているの~!」

 ミアの顔がグニャグニャになる。

「……そういえば、わしらは皇族になるのじゃないかえ?」

「それは正式にはまだなの! 知られてはいけないことなの!」

「そうじゃったか。すまぬ」

「もう、なんでもかんでも一人で解決しようとしないでほしいの」

「そうかのう。でもこれはこれでありじゃろ?」

「いやもう突き放してもひとりでやるし、近づいてもひとりでやるし。時々、わたしの存在価値がないのかと諦めてきたの」

 あれ? おかしな話になっておる。

「いやいや! わしにとってミアはとても大切な人なのじゃ」

「ホントなの?」

「本当も本当! わしの暮らしにミアは必要じゃ!」

「そういう割には相談すらしないじゃないの」

「それは、本当にすまなかったのう。これからは気をつけるのじゃ」

「そう。分かったのならいいだのけど」

 ホッとひと息、胸をなでおろす。


「それで、どうやってクラーケンを倒すの?」

「わしが水上バイクにのって直接叩く」

「……もうちょっと頭を使えないの?」

「これ以上の作戦があるのかえ?」

「いや、それは、まあ……うん」

 作戦はないようじゃ。

「それで何を頼んだの?」

「ジェットスキーじゃ。水面を浮力で浮いて飛んでいくのじゃ」

「どうやって浮くの?」

「海水よりも軽い木製で」

「どうやって飛ばすの?」

「魔法の反動と、回転力で」

「むむむ。意外としっかりとしていて文句が言えないの」

「なんじゃ。文句が言いたかったのかえ?」

「そりゃそうなるでしょう! わたしがどんな気持ちでクラーケンの討伐を考えていたのか分かっているの?」

「そ、そりゃすまん」

「もう謝るなら先に言ってちょうだいなの」

 頭を抱えて目を伏せるミア。

「わたしなんていなくてもいいの……。わたしの存在価値はないの……」

「なにがあったか知らんが、そんなに落ち込むではない。お主らはまだ若いじゃろ」

「同い年じゃないの! なんでそんなに貫禄があるの~」

 きぃい――悔しい! と叫ぶミア。

「とにもかくにも、クラーケン退治を命じるの。わたしの代わりにクラーケンを討伐するの!」

「分かったのじゃ」

「皇族よりも活躍する庶民ってなんなの……」

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