第35話 新メニューと魔族の長!

 らいす村で米とイナゴの配達を頼むことになった。

 米だけ先にまとめて十キロ、購入することになった。そのお米を運ぶと一緒にわしとミアも運ばれていく。リース領へ。

「にひひひ。これで毎日お米が堪能できるわい」

「もう、なんだかルナが全部使っちゃいそうなの」

「大丈夫ぞい。そのためにお米は二十キロ用意してあるのじゃ」

「いつの間に、そんな量を!」

「ミアよ。この世界は弱肉強食、食われるのが常よ」

「ちょっとなに言っているのか、分からないの……」

 半目でこちらを睨むミア。

 適当なことを言っていれば誤魔化せると思っていたのだが、しかたない。

「まあ、食べきれるから問題ないのう」

「まずくはなかったの。でも売れるかの?」

「わしには十分魅力的じゃよ」

 ふふふ。と笑うわし。


 らいす村から帰ってきたわしの故郷。リース領地の一画。立ち並んだ街並みに一軒の小説家がいる。そこに帰るのじゃ。

 帰ってきて、さっそくお米を十キロ、運び入れる。

「こんな大量の穀物、どうしたの?」

 母が困惑したような顔をこちらに向けている。

「これからエンジェルビーズの試作を行うかのう。みんなも呼んでパーティーじゃ」

 漬物、カツ丼、天丼、豚丼、親子丼。様々などんものを用意する。それだけでなく、ご飯と合う筑前煮を用意した。おにぎりも。

「これでどうじゃ!」

 ヘンリー、ダニエル、ソフィア、シャーロット、ミア、そして母と父が食べ始める。

「う、うまい!」

「すごい!」

「これは合うのよ」

「いいわね。これ」

「なら、メニューに加えなくてはならないの」

「さすがルナだ。まさかここまでおいしいものを作れるとは」

「私の娘はどうしてこう、家事がうまいのかしら……」

 一様に感嘆のため息を吐く。

「これは売れるぞ」

「そうね」

 父がそうもらし、母が同意する。

「さっそくメニューに書き足すのじゃ」

「レシピを作り、実際の料理も見てもらわないといけないのう」

「そうね。飴色のたまねぎ、って今まで分からなかったもの」

「そうじゃろう。そうじゃろう」

 わしが隣で作っているのを見届け、メモをとるシャーロット、と母。ふたりはいわゆるママともであり、ヘンリーとわしを引き合わせた根源でもある。ついでにダニエルの母も絡んでいるが、彼女も金物屋だ。

 今度、金物屋にも用事があるのじゃ。それにあのおろし金も進化しているじゃろうて。

 エンジェルビーズでの仕事を終えると、今度はミアのもとに向かう。

「ミア、紙作りはうまくいっているかえ?」

「うまくいっているの。これで紙による契約書が書けるようになっているの。他にもいろんなところに役だっているの」

「それはいい傾向なのじゃ」

「それにしても今は領民に手伝ってもらっている状況なの」

「ちゃんと給料は支払っておるのか?」

「もちろん。それでも人手が足りないから、スラム街の子どもを雇おうと思ってえいるの」

「それもいい傾向じゃな。これで雇用がうまれる。金の回りがよくなれば、助かる人も増えるというものじゃ」

 うんうんと頷くわし。

「経済を学んでいらっしゃるの。さすがルナ。やるの」

 ミアが褒め称えてくれるから、つい調子にのってしまうのう。


※※※


「なんだ? あれは」

 紙工場の隣を歩くふたりの女の子。まだ11才くらいだろうか。あまりにも幼い。

「フレディ様。少しは休んでください。じゃないと疑われますよ」

「うむむ。しかたないな。しかし、どこかで見覚えのあるふたりだ」

「さようで」

 オレは自分に割り当てられた部屋に引きこもる。

 しかしながら、あんな幼い子ですら働いているのだ。オレもただで帰るわけにはいかぬ。

「オレは一旦帰る。そして魔族側の言い分をひとつにまとめてくる。そして無理のない政治を行う」

「最初からそうして頂けたらよかったのに」

「そうは言うが、魔族側で長についているのは七人いる。そのうちのふたりが倒されてしまった。こちらには戦力と呼べるものはとぼしい」

 オレはそう言いながら、馬車に乗り込む。

「もう一度、来る頃には魔族の言い分をまとめておくからな! その時は絶対だぞ!」

「いってらっしゃいませ」

 ニーナが呼びかけると、馬がいななき、走り去っていく。


「何事じゃ?」

 わしが横合いから荷馬車を見守る。

「魔族側の大使ですわ」

「そうなのかえ?」

「わたしも知らないの。どういうことなの?」

 紙工場から遅れてやってきたミアが、顔をしかめる。

「魔族の長と名乗る怪しい魔族でしたが、こちらで対応しておきました」

「長じゃなかったかえ?」

「そうです。魔族の長と名乗っている割に部下の一部しか動きませんでした」

「して、どんな理由で向かってきたのじゃ?」

「それが停戦協議を行いたいと常々申しておりました」

「停戦……。なぜ断ったのじゃ?」

「ですから、彼は魔族の長ではなかったので」

「そうかのう。でも彼らだけでも認めるべきじゃったな」

 あちらにも同じように考える者がいて嬉しいぞ。今の戦力差なら魔族が折れるしかない。そのあとは被害が少ないうちに互いの補修と補償を行わなければならない。

 これ以上、領土拡大戦をやっていると、無駄な血が流れてしまう。

「わたしが話を聞いてみるの」

「いけません。ミア様」

「なぜ?」

「あなた様が前に出れば交渉などできないでしょう。まだ皇帝にはなっていないのだから、少しは抑えてください」

「わたしは一人でも決断できるの。彼は優しいひとじゃないの?」

「そうじゃな。ミアの言っていることが正しく聞こえるのう」

「い、いえ。でもアレクサンダー様は、頑固として譲らないつもりです」

 アレクサンダーは以前に父と母を魔族に殺されている。その恨みもあり、魔族との戦争を始めた。だからそう簡単に戦争をやめるとは思えぬ。

 だから憎しみは嫌なのじゃ。憎んでもいいことなんてない。

 結果として多くの人間を巻き込んで戦争をしているのじゃ。

 周りが見えなくなる。

 子であるミアの意見すらもくじいてしまう。

 せっかく咲き誇った花も、塩水をかぶれば枯れてしまう。

 一度、停戦協定を結び、こちらの文化にふれ、幸せの輪を増やしていければ、きっと世界は平和になるというのに。

 そうまで人間を戦わせるのはどういった了見か。神の教えとやらも聞く耳をもたなければ意味もない。

 無力なのじゃ。わしも、神も。

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