第32話 戦闘と帰還!

 青ざめたヒースを後にわしは歩き出す。

 まだ戦闘はもう終わった。残存勢力もすでに掃討されているそうだ。

「魔法を使える……お前は貴族になるべきだ」

 ヒースが悔しそうにうめく。

「平民が貴族になれるかえ?」

「なれるさ。ミア様のお力添えがあれば」

「わたし? しょうがないな。帰ってから手続きを済ませるの」

「そうかのう。わしが貴族になるかのう」

 面倒だからやりたくはなかったけど、しかたない。

 それにしても、時間遡行の魔法まであるとは。異世界とやらはなんでもありなんじゃな。

 簀巻きにされたクロエを馬車で運ぶことにした。口には猿ぐつわをして詠唱できないようにしてある。

「しかし、この女どうするつもりですかね」

「ヒース。わたしに聞かれても困るの」

 ミアが困ったように眉根をよせる。

「まあ、わしなら一生地下牢行きじゃな」

「それだけ危険ってことですか。おれらも危ないんじゃ……」

「安心せい。わしも時間遡行が使えるぞい」

「それは、それでありがたいような、危険視してしまうような」

 ヒースは歯に衣着せない物言いにクスリと笑う。

「少しは遠慮した物言いをしないと出世できないぞい」

「ははは。よく言われます」

 いやよく言われているかい。なら直せよ。と言いたいけど、直せないのが人間というもの。

「しょうがない奴じゃのう」

「うーん。わたしにも時間遡行の魔法が使えるかな?」

「詠唱をしてみればいいじゃないかえ?」

「詠唱を教えてくれるの?」

 わしは紙に万年筆で綴る。

「これをそらんじて魔法を発動するんじゃよ」

「そっか。やってみる」

 詠唱を始めるミア。

時間遡行タイム・リープ!!」

 言い終えるが、特に変化はない。

「どう? どう?」

 確認のために訊ねてくるミア。

「うーん。失敗したみたいじゃな。どうしてじゃろ?」

「分からないけど、これって神のご加護とかが働いているの?」

「それならわしも使えたのは不思議じゃな」

 うーんとひねっていると、わしらはもといた本拠地にたどり着く。

 制圧した拠点に支援を行う兵隊が集まっていく。

「さぁて。これで前線を押し返したぞ」

「ここが前線ではなくなったのう。これで帝国側の勝利も近いぞい」

 わしの住んでいる帝国に貢献するのは正しいことなのじゃろうか。あまり考えもせずにこの世界を変えてきたが、どうなることやら。

 少なくとも、わしは単純に日本食を味わいたいだけ。それでゆっくりと時間を過ごすのじゃ。

 それができるまで、この争いは続くのじゃろうか。

 困ったものじゃのう。戦争が終わらなければ、休息の時は訪れない。

「この戦争、どう終わるのやら……」

 前世での記憶なら大日本帝国の敗北で終わった。それも人道から外れた方法で。

 こちらが押している以上、そんな敗北はないと知るが、魔族側はどうなのだろう。

 こちらが勝っても、敵は滅びることになるのか。どちらかが、滅ばなければこの戦争は終わらない。そんなのは嫌だ。その前に停戦を申し出てほしい。

「そういえば、クロエが停戦の話をしておったな」

「そうですね。おれはうわごとだと思っていますが」

「それが本当なら、これからの時代が明るいものになるのじゃ」

「それはどうですかね」

「どういう意味じゃ?」

「この国は戦争をし、領土を拡大することで必要な物資や農作物を育てる土地を得てきた。だからこれからも闘い続けよう。そうしなければ物資をえることができない」

「なるほど。がちがちの軍事国家というわけじゃな」

「言うな」

「しかして、すべてを奪い取ったあと、何を求めるのじゃ?」

「言うな!」

 怒りを顔に滲ませるヒース。

 確かに彼に言ってもしょうがないこと。彼は皇族の中でも、底辺。加えて軍事力としては弱い。わしのようにミアと仲がいいわけでもないのだ。


※※※


「この国はどうなっている?」

 フレディが訪問しているのに、またも一週間の隔離を受けていた。

「オレは単に停戦協議の話し合いにきただけだ。どこもおかしなことは言っていない」

「そうおっしゃっても私らには危険分子として扱うのは至極当然です」

 ニーナがお茶をいれると、フレディに手渡す。

 お茶をすするフレディ。

「うまいな。さすが給仕担当」

「うふふ。嬉しいことを仰って頂けるので、ひと安心です。フレディ様は力もすごい。このまま暴れることもなければ本気であることが伝わるでしょう」

「なるほどな。こちらを試しているわけだ」

「さようで」

「ふむ。しかして、クロエ陣営の崩落は本当か?」

「本当らしいです」

「すごいな。彼女の能力は時間遡行。勝つまでサイコロを振り続けるというもの。それを崩落させるとは……」

 人間とは末恐ろしいものだ。これだけやってきたが、オレたちが勝てる見込みがないのは至極まっとうな意見になりつつある。

「本当にすごいことです。時間遡行ができるようになったらしいので」

「なに?」

「こちらのルナ様が時間を遡行できるようになったらしいのです」

「あの破滅の帝王ルナが?」

「さようで。これでこちらの戦力は整いました。次こそはリオルドの領地をもらいうけようと、話し合っていたところです」

「くっ! そうなる前に停戦をする。お願いだ。アレクサンダー=リース皇帝陛下に会わせてくれ」

「ふふふ。それはあなたしだいなのです。フレディ=バースカーク様」

「このオレに何をしようと企んでいる?」

 オレは怒りで手が震える。

 これ以上、オレにできることはない。魔族とて一枚岩ではない。確かにオレだけじゃ力不足なのかもしれない。オレが魔族の全てをまとめているわけじゃないが、圧倒的に不利であるのは間違いない。

「しかし、今次作戦まで時間があります。少しはお休みくださいね」

「あ、ああ……」

 それが建前と知っているが、オレにできることはそれくらいしかないのかもしれない。

 それとももっと大勢で押し寄せるか。それこそ、戦争になりそうだ。ヤバい。考えがまとまらない。このままでは本当に良くない策を考えてしまいそうだ。

 寝よう。少し頭を休めてから考えるとしよう。


「そろそろ、ミア様、ルナ様が到着なさるようで。勲章の準備もしなければならないですね」

 ニーナが誰かと話し合っているのが分かるが、内容までは聞き取れない。

「して。クロエはどうするのですか?」

「地下牢に拘束するしかないじゃろうて」

「そうですね。アレクサンダー様」

「夫婦なんだから、その呼び名はよせ」

「ふふ。そうね、あなた」

 ニーナの声がどんどん遠のいていく。

 眠気を誘うもの。そうか。先ほどのお茶にしこまれていたのか。

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