第31話 挟撃と、時間遡行!

 わしらは挟撃に成功した。じゃが、何度かの時間遡行を繰り返したのち、わしらは正面きって登場するクロエ。

 まだ一キロは先だというのに、手前に出ている。

「よくも、我のかわいい部下をやってくれたな!」

 怒りを露わにし、襲いかかってくるクロエ。その身体に絡みつく大蛇は美しい。

 大蛇のスモークが闇夜と溶け合い、姿を消す。

「危険じゃ、ミアは下がれ。ヒースは前にでろ」

「分かったの」「お、おう!」

 指示通りにしていれば死なないと直感が悟ったのだろう。

 ミアとヒースはわしの言うことを素直に信じてくれた。

 直後、今までふたりがいたところに爆発が起きる。

「なっ! 爆発する魔法なんてあるのかえ?」

「やっと隙を見せたね」

 目の前にはクロエが現れる。

 わしの腹部に、その蹴りが突き刺さるが、痛みはない。相手も手応えがないのに、驚きを隠せない。

 腹部に刺さったままの足を両腕でつかみ、そのままジャイアントスイングをする。

 ぶんぶん振り回されたクロエは怒りのあまり、声を上げる。

「なんだ。貴様は! それでも人間か!?」

「人間じゃよ。神様に愛されておるがのう!」

 わしはクロエに向かってウォーターカッターを放つ。クロエの足がもっていかれた。


「なんだ。貴様は! それでも人間か!?」

 と叫ぶのはいいが、身体に絡みついた大蛇が重心をずらして、近くの木につかみかかる。放ったウォーターカッターは空を切り裂く。

 またしても時間遡行を使われたが、今度はかなり短い時間で使った。

 時間遡行にも弱点があるのかもしれぬ。

 少なくとも、わしが生まれる前まで行って殺す、とか。クロエの手の届かない範囲を、とかはないようじゃ。

 きっと数分から数時間が限界とみた。

 そうでなければ、わしがこの地に降りた前まで遡るじゃろうて。

 時間遡行もいいことばかりじゃないのじゃろう。

 わしがウォーターカッターを何度も放つが、それをかわしきるクロエ。ただ者ではないと分かっていたが、ここまでやる奴だとは気がつかなかった。

 クロエの魔法は独特で、黒い霧を放つ大蛇。それに合わせるように、放つ爆発魔法。

「死ねばもろとも! このままじゃ、わしと一緒に死ぬかえ?」

「バカも休み休み言え。我らはお前ごときに負けるわけがない!」

 クロエが怒りを露わにし、攻撃してくる。それをかわし、ウォーターカッターで斬りかかる。

 すんでんのところでかわすが余波でクロエの肌が切り裂かれる。

「バカな……」

 詠唱を始めると、どくんっと心臓が跳ねる。


「バカも休み休み言え。我らはお前ごときに負けるわけがない!」

 クロエが怒りを露わにし、攻撃してくる。それをかわし、ウォーターカッターで斬りかかる。

 身体をひねりウォーターカッターをかわすが、かわしきれない腕の皮膚を裂く。

「く……っ! かわしきれない、だと……!」

 沢庵をパリッとかじると、さらに身体の強化がはかどる。

「もっと攻撃を鋭く、早く。限界の先へ!」

 わしとクロエはぶつかり合い、身体をひねり、自重をのせた攻撃を放つ。だが、それさえもかわすクロエ。

 お互いに肩で息をする。消耗しているのじゃ。

 このままじゃ、身体がいくつあっても足りぬ。

 水の魔法を使って辺りを水浸しにしていく。

「完全防御なら!」

「何をする気!?」

 クロエの目が鋭く尖る。

 火の魔法を放ち、辺りに浮いた水滴が膨張する。水蒸気爆発だ。

「な……っ!」

 クロエが目を見開き、やがて爆風にのまれる。二三度、地面を転がり、顔を歪めている。

「なるほど。詠唱が必要なのは同じみたいじゃな。魔法とは魔族の使う技。それを盗んで利用しているのが人間。さすが人間様々じゃ」

 詠唱を始めるクロエの口に水を詰め込む。本当は土をやろうと思ったが、それではあまりにも非人道的じゃろうて。

「もうやめなされ。お主の負けじゃ。詠唱はさせない」

「く、」

「く……?」

「くっそ――――――っ!!」

 クロエはその身をよじり、体内にあった空気を全て吐き出すような勢いで叫ぶ。

「なんなのだ。お前の力は!? なんでわしの攻撃をすべてかわせる。あてても砕ける。どんな体表をしているのさ」

 涙ながらにこちらの分析をしゃべり散らす。

「だいたい、こんな小娘が戦えるのがおかしいじゃないか! それに貴族でもないのに魔法を使える? どうしてそんなことになっているのさ」

 ブツブツと文句を言い始めるクロエ。

 その身体には鎖で身体を締め付けてある。

 少しでも詠唱しようものなら、わしが水魔法で対処している。

 先ほどから、こんな拷問のようなやり方をしているせいか、絵面が悪い。

 時間が経ったのか、時間遡行できないのは恐らく一日もない。

「代わってもらえるかな。ミア」

「ミア? あのミア=リース?」

「ええ。そうだけど?」

 ミアが前に出ると、クロエがほっと安堵のような、疲労感が抜けたようなうまく言えない表情をする。羨望と期待、調和といった気持ちが混じり合っているのかもしれない。

「ミア様。フレディ=バースカークという男が皇帝に謁見を求める。彼が掲げる停戦協議に参加してほしい。お願いします」

 縛れているのに器用に頭を下げるクロエ。

「ふーん。なるほどね。わたしたちが戦っていたのは意味があったんだ」

 結局、ミアとヒースはなにもしなかった。ただ暗い森の中を歩いているだけになっていたそうだ。

 だから少しでも気が紛れるのなら、それでいい。

 とはいえ、目は死んでいるが。

「しかし、詠唱か。お主の詠唱を一度で覚えたぞい。さっそく使ってみるのじゃ」

「ま、待ってください。まさか時間遡行の魔法までも習得したというのですか?」

 ヒースが慌てた様子で呟く。

「何か不服か?」

「いえ。そうではなくてですね……。こちらにも準男爵という立場があります」

「長いのう。もっと簡単に話せぬか?」

「準男爵家よりも強いのが平民から成り上がったら、おれらの立場が危うくなるのですよ」

「なんじゃ。そんなことか。それじゃ、やってみるかのう」

 詠唱を始め、数分。魔力を肌で感じ取り、世界に広げていく。

時間遡行タイム・リープ!」

 そう叫ぶと世界が早戻りしているように形が消えていく。

 わしの立ち位置も微妙にそれる。

 落ちていく水が、みんなの表情や立ち位置が徐々に変わっていく。

 バラバラになったピースが埋まっていくように時間がさかのぼる。


「長いのう。もっと簡単に話せぬか?」

「準男爵家よりも強いのが平民から成り上がったら、おれらの立場が危うくなるのですよ」

「この話、先にも聞いたのう」

「え。できちゃったんですか?」

 ヒースの顔が青ざめる。

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