第30話 変人扱いと作戦待機中!

「見ておれ! わしはもっと強くなるのじゃ!」

「何を叫んでいるのですか? ルナ嬢」

「いや、なんとなく、じゃ。気分も晴れるわい」

 ヒースは呆れ半分のため息を吐く。

「根性論ですか。それでは部下はついてこれませんよ」

「なんじゃ。急に真面目になりおって」

「これでも真面目じゃないと思っていたんですか?」

 思っていた。とはいえない雰囲気じゃな。

「思っていたんですね?」

「い、いや……そんなことないぞい」

「完全に言いよどんでいるじゃないですか……」

「そ、そんなことないぞい」

 わしはぎぎぎとブリキのおもちゃのように首を背ける。

「しかし、まあ。おれのことは忘れていたんだ。ミア様も」

「そうね。わたしはルナちゃんしか見ていなかったから」

 ミアはヒースの顔を見るとそう呟く。

「そもそも第一皇帝のミア様がこのような戦場におられること事態、おかしな話なのです」

「お。ようやく気がついたか。わしもそう思っていたのじゃ」

 うんうんと頷くが、ふたりが白い目でこちらを見ている。

「な、なんじゃ。おかしなことを言ったかえ?」

「一番、おかしなことを言うルナ嬢にまともな意見が言えるとは!」

「存在自体がおかしいもの。でもそんなところも好きなの~」

 ふたりしてひどい。しかもなぜか告白されているという状況。もはやおかしいを通り越しているのではないだろうか。

「そんなことを言うが、わしだけでなく、ミアも、ヒースもおかしいと思うぞい」

「不毛な争いをしているなぁ」

 伍長が頭を抱えて答える。

「伍長が一番まともかも……?」

「そうじゃな。わしらのおかしさに負けておるわい」

「うーん。そうか? おれはそんな風に思わないが……」

 ヒースが一番おかしいのかもしれぬ、とは口が裂けても言えぬな。

「して。今回の作戦ですが」

 伍長が咳払いをして、話の本筋に入る。

 そう今は作戦の話し合い中に起きたトラブルみたいなもの。

 本当は避けられない戦争に対しての作戦中なのじゃ。

「して。相手はこの本拠地に帰ったとみるのが妥当かえ?」

「そうです。この場にとどまらずに一気に帰っています」

「腰抜けだな」

 そうではない。扇状に広がったキャンプ地では防衛は難しい。だが、一カ所に集まれば、より強固な防衛になりえるのだ。

「そうかな。相手は腰抜けではなく、智のある撤退とみた。ここで防衛するよりも、こちらの一カ所に集中した方が守りが硬くなる」

「わしもそう思うのじゃ。このままではこちらから仕掛けるのは不利じゃな」

 とはいえ、こちらの体勢が整うを待つと、敵に回復の時間を与えてしまうことになる。早めにとどめを刺さなければ、いつまでも戦場暮らしになってしまうのではないだろうか。

「ふむ。ではルナ様はどのようにお考えで?」

 伍長が急にわしに訊ねてくる。

「……わしが思うに今のうちに叩かないと、こちらの防衛網が突破されてしまうじゃろう」

 相手は時間遡行もできる凄腕じゃ。このまま待機していても、攻め込まれるのも時間の問題。対抗策はわしひとり。

「また、この三カ所に拠点を設けられたら、どうするのじゃ」

 わしが扇形に広がった点を指さす。

「そうですな。私もそう思っておりました」

 伍長がうんうんと頷く。

「しかし、今は人手不足で作戦を立案するも、実行できないではないですか」

「相手の陣地を利用し、二手に別れるのはどうじゃ?」

「挟撃ですか。でも、この山を登るのは……」

 両脇にそびえ立つ山。その谷に位置するのが今回の敵の本拠地になる。自然の防壁がそこにはある。

「しかし、そこを超えればあとは楽々じゃ」

「そうかもしれませんが……」

「それに本陣はここ、正面から突破するのじゃ」

「正面!? そんな無茶な!」

「じゃがやってのけよう?」

「伍長。おれらは強い……が戦力不足だ。どうする?」

「は、はい。いえ……!」

 混乱している伍長をよそにわしは沢庵にルーン文字を刻んでいく。

「これで身体強化をすれば山のひとつやふたつどうということはないぞい」

「また、無茶をおっしゃいますか」

 呆れた顔で呟く伍長。

 それしか手立てがないと分かっている者の目をしおった。

「分かりました。やってやろうじゃないですか。しっかりと任務をこなしてくださいね」

 伍長は諦めたかのように天を仰ぐ。

 作戦はこうじゃ。東と西にある山肌から歩兵と弓兵で攻撃。その混乱に乗じ、わし、ヒース、ミアの三人で正面から突破する。

 最初はミアは人数に含まない予定だったが、本人たっての希望――それも次期皇帝陛下の命を下してはわしらも黙るしかなかったのじゃ。

 今、その命令書を書いているし、その写しも書いている。これで何が起きても、伍長の責任問題には発展しない。

 わしとヒースがミアの監督責任問題には発展するやもしれぬが……。

 今なら、隣で冷や汗を掻くヒースの気持ちが手に取るように分かるわい。

「しかし、本当に戦力になるのか、ミア様は?」

「あー。魔法を教えてくれたのはミアじゃったな」

「そうか。貴族特権の魔法が使えるのか――って、ルナ嬢も使えるのですか?」

「うぬ。わしも使えるぞい」

「バカ野郎! そういったことは先に言ってはくれないか」

 頭を抱えて呟くヒース。

「野郎じゃないんじゃが……?」

「言葉のあやです。それにしても貴族の魔法を習得するとか……。それってどうなのだ?」

「知らんわい。どんな話になっているのかは知らんが、わしに魔法を教えてくれたのはミアじゃ。これからもずっと友だちでいるのに不服はない」

 だから、と続けるわし。

「わしが貴族になっても良かろう?」

「大胆な発言をするのですね。おれにはまねできない」

「真似をする必要などないじゃろ。他人は他人、自分は自分。自分の信じるものと対話すれば良い。時に落ち込み、時に悩み、それが人生を豊かに、より良くしてくれるきっかけじゃ。見逃すでない」

「そう言われましても、これでもうちが準男爵家の家系です。家柄の違いがでてます」

「それも含め、お主という者を構成する部品じゃ。糧にせい」

「ずいぶんとお強い発言ですな。おれとは大違いだ」

「ほほほ。それがわしの強さの秘訣じゃ。教えたのじゃから、お主も頑張れよ」

 バシッと背中を叩くと、ゴホゴホとむせかえるヒース。

「なんとなく分かってきましたよ。あなたの言うこと。でも叩いた力は別格です」

「ちと強かったかのう……」

 わしの背中を叩く力は強すぎるのかもしれぬ。今後は気をつけねば。

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