第25話 フレディの葛藤、緊急招集!

「これはどういうことなのだ!」

「フレディ様。どうしたというのですか?」

 部下のアルディが追いかけてくる。

 オレは真っ直ぐにクロエに向かっていく。

「あら。生きていたのね。フレディ。でももう遅いわよ。あなたは戦死したことになっているわ」

「それだけの業を背負う覚悟があるのか?」

「あるわよ。全ては我の手の内、どんな力もねじ伏せてみせるわ」

「それができぬから外交努力をしているというのに」

「それが弱気というもの。我ら魔族に不可能はない。人間界など吹き飛ばしてくれるわ。しょせん最弱種」

「だからといってこのままだと滅ぼされてしまうぞ」

 人間は脆弱だが、相手の力を分析し、自分のものにしてしまう。この前まで魔法すら使えなかった人間が、オレらの能力を分析し、使えるように改良してしまった。

 そのうち、こちらの魔法を全て解析されてしまう。それに加えて天使の使う聖法せいほうも分析し始めている。オレたちにとっては恐ろしいことばかりだ。

 それに神々の力を持つ神通力というものも解析していると聞く。

「ふふふ。大丈夫。我はまさに無敵。どんな敵に襲われようとも、勝てる。だから勝算はある」

「お前が強くたって、お前の部下が強いわけじゃないだろ。これからどんな被害がでるのか、分かったもんじゃないだろ」

「あなたみたいな軟弱者にはならないわよ。我ら、部下を含めた力を見くびっては困る」

「部下を信じるのはけっこうだが、事実を見ろ。お前の部下はさほど強くもないぞ」

 オレは知っている。クロエの部下があまり強くないことを。それこそオレの部下と比べれば、火の粉のようなもの。あまりにも弱小すぎる、と。

「ふふふ。我の部下を知らぬか。このうつけ者」

「うつ……」

 オレはマントをひるがえし、真っ直ぐと宮殿に向かう。

 言葉は通じぬか。ならば、オレ自ら部下とやらにあってこようではないか。そして力の差を見せつけることでクロエの志気を下げようではないか。

 クロエの部下を見ていると、毎日のように飲んだくれている。みな三大欲求を満たすのが毎日の暮らしである。

「まったくゴミ屋敷だな。オレには興味ないか」

 オレに興味を示してくれるのは、外で見張りをやっていた女ふたりと、玉座にふんぞりかえるナタリー。

「どうするつもりですか? フレディ様」

「アルディ。この危機的状況をどう突破できればいいのだろうか」

「それは、分かりません。でもこのままではマズいと私とて知っています」

「そうだよなー。どうすればクロエは心変わりしてくれるか……」

 人間に押され続け、今や大陸の三分の二は人間族に支配されている。残りの三分の一が魔界と呼ばれているが、そこに暮らすのは何も魔族だけじゃない。鬼や天狗といった種族も暮らしている。

「このままでは魔族は生きていけぬ!」


※※※


「緊急収集?」

 わしは自分の耳を疑う。

 昨日の夢を思い描いていたら、いきなりフクロウがやってきて、封書を渡してきたのだ。

 そこに書かれた一文は『緊急収集』とのこと。それも皇帝の長に呼ばれたとなれば、逃げるわけにもいくまいて。

 わしはその命をうけ、リース領主のアレクサンダー皇帝に謁見するのであった。

「今回は非常に良くないことが起きている。魔族の長であるクロエ軍が押し寄せているのだ。街の名はイッシュ。そこにクロエ軍が密集しつつある」

「して、わしはどうすればいいのじゃ?」

「二重字勲章のこともある。いい戦果を期待しておる。街まではヒースたちに任せてある。すぐに出立せい」

「はっ! 分かりました」

 わしは皇帝の雰囲気に押され、つい自分を殺してしまった。それほどのオーラを感じる。今の奴には勝てぬ。

 皇帝の言う通り、わしがいかなければ前線は日に日に押されてしまうのじゃろう。

 ヒースと一緒にわしは皇帝宮殿の前から出ている馬車に乗り込む。

 そしてイッシュに向かう。

「やあ、久しぶりだな。ルナ嬢」

「ふむ。お主と出会うのは久しぶりかのう」

「おれ、あのあとエンジェルビーズに行ったのさ。そしたらどうだい。あれだけうまい飯をつくれるじゃないか。それなのに、前線に送り込まれるなんて……」

 悲しげに目を伏せるが、わしに同情はいらぬ。

「お主、弱いのう」

「なっ! お、おれが弱いだと!」

「そうじゃ。そのくらいで同情しているようじゃ、前線で負けてしまうぞい」

「どういう理屈なんだか……」

「言ってくれるな。心の持ちようということじゃ。わしらは悲しくならないように戦うはずじゃ。だから情けは無用。前線では常に勝つことを考えるのじゃ」

 わしは持論を講じていると、ヒースが頭の上に疑問符を浮かべている。

「すまん。そんなにわかりにくかったかえ?」

「い、いや。まあ」

 幌馬車に揺られること数時間。

「ひまじゃな」

「暇ですね」

「そこのリンゴをとってもらえるかのう」

「ああ。いいぞ」

 ヒースの隣にあったリンゴの山を指さして言う。

「ぎゃ! なんだこいつ……」

 リンゴの下に潜んでいたのは

「ミア! なんできちゃったのかのう」

 わしは驚きのあまり口をパクパクさせる。

「ミア=リース。ただいま参上しました」

「リース……ってあのリース家の?」

 ヒースが驚きのあまり顔を歪める。

「そうじゃ。あのリース家じゃ。しかして、今から帰るわけにもいくまい」

「え……」

「そうなの。わたしだって戦えるの!」

 ミアが唇を尖らせてブツブツと文句を言う。

「どうやらひとり城にいるのがストレスになっていたらしいのう」

「すとれす……?」

鬱憤うっぷんがたまっていた、ということじゃ」

 うんうんと理解しているのはわしだけじゃようじゃ。


 向かうこと、数日。

 幌馬車に揺られていると、どうしても疲れがたまってしまう。

「ううん。疲れたのう」

 座っているだけじゃ、身体が硬くなってしまう。

 伸びをし、身体をほぐす。

「ふふ。わたしの力でいやしてあげるの」

「そうしてもらえると助かるのう」

「そうでしょう。そうでしょう!」

 わしがうんうんと頷く。

「……って? あれ? 普段ならするりと抜けるの」

「そうじゃろうて。今は暇じゃからな」

「わたしとのやりとりは暇つぶしだったの!?」

 はははっと笑うヒースとその部下たち。

 ヒースはあえてわしたちの中に入れないでいる。やはりリース家の血筋というのが大きいのじゃろう。

 彼女も魔法を使えるから、戦場で死ぬこともないじゃろうて。

「みな。心配のしすぎなのじゃ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る