第23話 性別問題とチーズおろし!

「しかし、詠唱が面倒じゃな。どうにかならないのかのう」

 確か、詠唱は潤滑油のようなもの。魔法の滑りがよくなり、魔法の顕現を促すもの。

 つまり、省いてもできる可能性がある。ただし身体を酷使するのは目に見えている。

「困ったのう。しかし省略くらいはできるかのう」

「ウォーターカッター」

 水の刃を飛ばすと、樹木を切りつける。

 土塊でできた人形に樹木を運ばせる。

「ほう。これはいいのう」

 風魔法の風刃ふうがで樹木の皮を剥ぐ。剥いだ皮を集め、火魔法で着火する。

「ちょっと寒いからちょうどいいのう」

「もう秋なの。そろそろ食糧を貯めておく必要があるの。まきも」

「そうかのう。この調子だと一年分の薪くらい余裕じゃけん」

「そうなの。一人でこれだけこなせるなんて、こっちの気分がそがれるの」

 樹木を薪にして土塊でできた人形――ゴーレムに運ばせる。

「それにしても高い魔法力なの」

「そうかえ?」

「普通はここまで動かせるのに二年はかかるの……」

 呆れ半分、驚き半分のため息を吐くミア。

「ふむ。これもチートかのう。なんじゃか飽きるのう」

 なんでも自分でできてしまえるのは興が乗らない。

 かといって他人にこの力を分け与えるこもできまい。

「魔法を使うと、今まで使っていなかった脳神経がつながるような感覚があるのう」

「……いや、意味分からないの」


※※※


 国立図書館をあとにし、自宅へ戻ると忙しそうにしている父と母を見つける。

 父は急いで物語を綴り、母は醤油・みりん・味噌・漬物・沢庵などを調整している。とてもじゃないが、大変な作業になっておる。わしも母の手伝いをするが、終わる気配がない。

 それも隣の家であるヘンリーの経営している国営レストランの影響もあるのだろう。

 たくさんの注文があるに違いない。

 毎日のように通うリピータも多いと聞く。

「見ろ! 今日も人でいっぱいだ!」

 ダニエルが教えてくれるが、確かにすごい行列だ。

 ヘンリーの家から伸びた列は中央広場にまで達している。その距離六メートルほど。

 みんなゾンビみたいな顔をして「ツケモノ~、ツケモノ~」と呟いている。

「オバケみたいじゃな」

「お客さんに失礼でしょ!」

 ソフィアが隣から割って入る。

 わしはヘンリーのエンジェルビーズに入る。

「このこの~! 今までどのくらい待たせたのかな」

 わしに飛びついてくるソフィア。抱きついてほのかに甘い香りがする。

「ちょっと。やめい!」

「……あれ?」

 わしのあそこに違和感を覚えたソフィアが確かめにかかる。

「や、やめい!」

「やっぱり。実は男の子だったんだ! なら……あたしの、彼氏にでも。いやミア様がいるかな」

「わしはれっきとした女の子じゃ!」

 ソフィアがブツブツと呟いており全然、話を聞いてはくれないようだ。

「ほほう。ならアレもできるかな。どうしましょう……!」

 なにやら喜んでいる様子のソフィア。

「なんだ。お前、男だったのか!」

 ダニエルが豪快に笑う。

「それは驚きだね。僕も知らなかったよ」

「いやいや。わしはただ天の水で一時的に性転換しておるのじゃ」

「なるほど。僕も知っていたけど、本当にあるんだね」

「なんだ? けっきょくルナは男なのか? 女なのか?」

「女の子だよ。今だけ男の子になっているのさ」

 ヘンリーがダニエルに説明をする。お陰でわしも説明の手間が省けるというもの。

「難しいことは分からんが、ようは女だってことか!」

「まあ、そんなところだね」

「なんだ。ホッとしたぞ。父ちゃんからは『ルナを理解しろ』なんて言われているからな」

 ダニエルは、がはははと豪快に笑う。

「なんじゃ。わしに興味があるかえ?」

「そうだな! おれのおやじはそう言っている」

 本人がどう思っているのかを聞きたいのに。まあ、いいわい。

「つっけもの! つっけもの!」

 ここでもご神体扱いじゃな。

 わしは急いで厨房に入る。わし考案のレシピで料理を作り始める。

「そろそろ新メニューも開発したいのう」

 そう言いながら、ハンバーグを焼く。

「今度はおろしとチーズインも挑戦してみるかのう」

「なんだ? それ。試してみよう! そうしよう!」

 ダニエルが高いテンションのまま、手をあげる。

「なんだ? 新作のレシピか! 私らも食べたいものだ!」

 聞きつけた客がそろってこちらを向く。

「そんなたいしたことじゃないかのう。ただの味付けの問題じゃろうて」

「それでも食べたい!」「そうだ。そうだ」

 客のひとりが手をあげると、ひとりまたひとりと手をあげる。

「むむむ。そこまでいうなら……」

 わしはヘンリーに向き直り買い物を頼む。

「大根とチーズを買ってきてくれんか?」

「分かった。大根とチーズだね!」

 ヘンリーは急いで露店へと向かう。

「大根とチーズ?」「チーズはあいそうだけど……」「大根を混ぜ込むのか?」

 ざわざわとした雰囲気の中、わしはハンバーグを焼く手を止める。

 今焼いているものだけはふるまい、一旦手を止める。

「もう一度、注文をとる。新しいメニューは〝おろしハンバーグ〟と〝チーズインハンバーグ〟じゃ。あとは〝普通のハンバーグ〟なのじゃ」

「おろし! おろし! おろし!」

「チーズ! チーズ! チーズ!」

 二つの勢力がにらみ合い、今にも殴りそうな雰囲気になる。

「この料理には絶対チーズが合うって!」

「おろしという未知の存在こそ、このハンバーグの魅力を引き立てるのだ!」

 チーズ派とおろし派という二つの勢力が生まれた瞬間だった。

「最後に〝おろしハンバーグチーズイン〟とかもありなのじゃ」

「「「なぁあぁっぁあっぁぁあにぃいぃぃぃぃぃいいいっいぃい」」」

 驚きの声が客からあがる。

 そして

「「「それも食べたい!!」」」

 と傲慢な人が多いこと、多いこと。

 両方を選ぶとはのう。

「買ってきました! 大根とチーズです!」

「おぉぉおおぉおおおおぉぉおぉおぉおぉおぉおおおおおおぉおおぉぉお!!」

 みんな拍手でチーズと大根を迎え入れる。

「む。このままじゃおろせんわい。今さら気がついてしまったわい」

「お、おろしができないなんて……」

 客のひとりが地面に突っ伏し、涙を流す。それにつられ五名が涙を流す。

「待て待て。ダニエルのうちに急いで向かうぞい」

「がはははは! おれのうちにくるだと! ……え?」

「いくぞい」

「お、おう!」

 一瞬気後れするダニエル。

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