第20話 地底湖と雷撃!

「して。ここが例の洞窟かえ?」

 漁船で向こう岸に渡るとそこには何の変哲もない洞窟……とは言えない洞窟があった。四角いタイルのようなものを敷き詰められている。そのタイルひとつひとつに文字や動物の絵が刻まれている。

 床も、壁も、天井でさえも敷き詰められているのから、何かしらの意味合いがあってもおかしくはない。

 そっと触れてみるが何の影響もない。

 どうやらトラップの類いではないようだ。じゃがそれでも何かしらの意味合いがあるのじゃろう。

 不安で揺れ動いた心を落ち着け、奥へ奥へと向かう。

 まあ、大丈夫じょろうて。

 わしにはチートがあるのじゃ。それにヒースも優れた剣士と聞く。

「気をつけろよ。何があるか分からない」

「分かっているっす」

 ヒースとその部下がゴクリと喉を鳴らす。

 入り口はひと一人が通るのがやっとだったが、中は意外と広く大人三人でも余裕で通れる広さがある。

「して、どう調べるのじゃ?」

 三方向に分かれた道があり、すべて古代文字が刻まれたタイルが貼り付けてある。

「ひとつひとつ探ってみるしかないだろう」

 ヒースは脳筋なのじゃろうか。

「あまり賢い選択ではないのう」

「悪いか?」

「いや、それ以外に方法がないのじゃ」

「そうだろうな。おれの言うことを聞いていればいいのさ」

 ヒースは悪い笑みを浮かべ、右の通路へ向かう。わしも一緒についていくが、この先には何が待っているのじゃろうか。

「行き止まりだ」

 歩き始めて二時間。袋小路になった大きな祭壇みたいな場所にたどり着く。

「ふむ。これ以上、先はないのう。ならさっきの曲がり角を間違えたかえ?」

「そうかもな。でもまた戻るのか……」

 二時間かけて歩いてきた道を戻るのだ。やる気がそがれるのはしかたないこと。

 戻ると今度は真ん中の道を通る。

 そこから一時間。またしても行き止まりになっている。

「本当になにもないんだな」

「ありません」

 ヒースとその部下がやりとりしている間、わしは目の前の壁に注視する。そこには不思議な文様が描かれておる。して、触れてみるとタイルがカラカラと音を立てて回転する。反対向きになったところで止めると、文様の形が変わる。そして線と線がつながり、光りを放つ。

 カタカタという音を立てて扉が開く。

「まるでファンタジーじゃな」

「ふぁんた? まあいい。よくやってくださいました。ルナ様」

「いいぞい」

 ヒースの部下ひとりが頭を下げて礼を言う。

 わしらはその先に向かって歩き出す。


 歩くこと数分。目の前には広大な地底湖が広がっている。小舟が浮かんでおり、そこから対岸まで二分ほどでつく。

「ここはなんだ?」

 コバルトブルーの湖畔に、浮かぶのはヒカリゴケ。

 先ほどと同じような文字の刻まれたタイルがいくつも並んでいる。これが扉になっているらしい。

 わしはそのタイルに触れると、どこを回転させればいいのかが分かってしまう。それはまるで天啓のようなひらめきだった。

 その天啓を頼りに、回転させると線と線がつながり、光りを放つ。

「おおっ!」

「さすがルナ様」

「ぬふ」

 笑いが漏れる。これだけうまくいくと嬉しいものじゃ。

 先に進むと、そこには怪しげな者どもがいた。痩せた男がひとりと、恰幅のよい男、禿頭の男の三人だ。

「アラーネクロスアビタゼネブクラスト」

 訳の分からないことを呟いているが、こちらに気がつく様子はない。

「何を言っているんだ?」

「静かにせい。捕縛するぞ」

「あ、ああ!」

 ヒースが大きな声を上げ、それに反応する三人。

「誰だ!?」

「お前たちこそ、何者だ!?」

 ヒースが大声で誰何すいかの声を上げる。

「わしらはマリオット帝国の者じゃ。そちは?」

「わたくしどもは聖カットソーグループ会員、会長補佐ライトニング=ビル」

「名乗るほどのものではない」

 痩せ男は答えてくれたが禿頭の男は答える気はないらしい。あと恰幅のよい男も。

 聖カットソーグループとは、人類すべてがカットソーを着るのを義務づけようとする変人集団だ。ちなみに帝国に抵抗しているものでもある。

「行くぞ!」

 ライトニングと言った男が杖を振るうと、雷が稲光を発し、わしの横をかすめていく。

 雷鳴がとどろき、ヒースの隣をかすめていく。

「くっ!」

 ヒースはそれをかわし、下っ端ふたりを引き連れてライトニングに向かって駆け出す。

 その間にわしは恰幅のよい男に向かって駆け出す。

「雷帝よ。我の望みを叶えたたまえ!」

 詠唱を終えた恰幅男が左手から雷撃を放つ。

 わしは短剣を片手につっこむ。

 雷撃をかわす。かわす。かわす。

 相手の懐に飛び込むと、剣を突き刺し、相手の力をそぐ。

「ぅぐっ!」

「戦争は、こんなもんじゃなかったぞい」

 小さな悲鳴をあげたのち、その場に崩れ落ちる恰幅男。

 ついで禿頭の男に向き直る。

「こんにゃろ! 我らをやらせるかい!」

 雷撃を放つ禿頭の攻撃をかわすが、二発目の雷撃がよけきれない。バチッと爆ぜて、身体を雷撃が通り抜けていく。

「なんじゃ。痛くもかゆくもないわい」

「なっ! バカな!」

 詠唱を始め、三発目を放つ禿頭。

 だがそれさえもかわし、接近する。

「お主も眠れ」

 わしは顎を殴りつける。勢いで禿頭は後ろに倒れ込む。

「そっちはどうじゃ?」

 ヒースたちに目を向けると、そこに痩せ男の姿はない。

「すまない。逃がした」

「やはりルナ様がリーダーであったか……」

 ヒースの部下がわしをリーダーにしたがっているが、わしは断じてリーダーになるまい。なにせヒースが面倒そうだからだ。

「どうするのじゃ?」

「ここの目的は達した。調査が本来の目的だからな」

「そうじゃな。大規模な捜索隊がここを捜索することになるじゃろうな」

 ヒースの言葉に乗っかかるわし。

「そうなれば、奴らの痕跡も分かるってもんだ」

 うんうんと頷くヒースだが、これから叱責されるじゃろうて。逃がしてしまったのじゃから。

 ライトニングといったか。奴はそうとうな手練れと見受けた。

 脳はなくとも剣の才があるヒース含め四人を圧倒して自分だけ逃げ出したのだから。

 逃げ足の早さなら一級品じゃな。

「それよりもヒースはこの村のことを知っておるのか?」

「知らん。だが、どの領地にも属さない中立の村と聞いている」

「ほう。それは興味深いのう」

「どういう意味だ?」

「分からんのならいい」

 誰の村でもないということは今回の事件の責任者はヒース当人に降りかかることになるじゃろう。そして領主を誰にするか、の議論が行われるだろう。

 大変じゃな、と他人事の気持ちでいる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る