第10話 恋バナとジャックと協力者!
「そういえば、ダニエルやヘンリーが心配していたかな」
「そうじゃな。あやつらにもお店経営を手伝ってもらうかのう」
「いや、そうじゃなくて……」
ソフィアが困ったように頭を抱える。
「恋バナ、のつもりかな」
「そうじゃったわい。恋バナじゃな。わしはもっと年上が好みじゃ」
「報われないの~。でもわたしだけのものに、ぐへへへ」
残念美少女は呟く。
「そういうミア様には、いい人はいらっしゃらないのかな?」
「あー。婚約者ならいるけど、あまり好みじゃないの~。ジャックって言うんだけど、粗雑で乱暴的なの」
物思いにふけるミア。どこか潤んだ目をしているのは、悲しさからかもしれない。
「それは嫌じゃな」
「でしょ! わたしの気持ちを分かってくれるのはルナだけよ」
「あたしも分かるかな」
こうしてパジャマパーティは幕を閉じる。
※※※
「ミア! ミアはどこいった!?」
「ジャックさま。ミア様なら市街地に出ています」
「市街地!? そんな危ないところへ何をしにいっているのだ」
目を丸くするジャックは、怒りを露わにする。
「ご友人と会いたい、と仰っていたようで」
「なに、友だちだと……! 不抜けたことを!」
群れをなさなければ心の平穏を保てないとは、弱者の考えだ。そんな彼女に失望した俺は、ゆっくりとした足取りで陛下の待つ部屋に向かう。
「して、いつ頃、戻るのか?」
「そ、それが明日の朝には……との報告をうけております」
「その友だち、大丈夫なのだろうな?」
「はい。女子だけのパーティらしいので」
「はっ! 凡人がパーティなどと」
皮肉めいた彼の言葉はあまり評判が良くない。とはいえ、彼は第三期皇帝と言われているだけあって、周囲もその一挙手一投足を逃すまいと行動している。
どこか平民を侮辱する声音に渋い顔をするものも少なくない。
「あんまり熱くなるなよ。ジャック」
「アルフレッド兄さんはうらやましいですよね。なにせ次期皇帝ですから」
「おい。そう言う言い方はないんじゃないか?」
「言い方もなにも事実を言ったまでです」
仰々しく肩をすくめて言うジャック。
「そう生意気っていると見放されるぞ」
「見放されるわけないでしょう?」
そこには自信満々といった顔をしているジャック。見放しているのは国民ということに気がついているのだろうか。
「彼らは支配されるのが好きなのだから」
民衆というものに対して偏見を抱いているのは事実。だが、真実を見ていない気もするのだ。
「しかして、皇帝はいずこへ?」
「アレクサンダー=リース皇帝は西のポートシティへ訪問されています」
「そうかそうか。ならオレはリース家の名に恥じぬよう、剣筋を鍛えなければ」
「そういうジャックはもうすでに剣の名士ではありませんか」
「かまうものか。これ以上に強くなるだろう」
ジャックは外に出ると木剣を握り、丸太に打ち込みを始める。
「まったく熱心なお方だ……」
※※※
パジャマパーティを終えると、わしはミアを見送ることにした。
「またパーティしましょうね!」
「もちろんじゃ」
漬物の樽を三つを荷馬車に積んでミアも運ばれていく。
代わりに渡された金額はまたもや大金。
「そろそろあたしも買えるかな」
「ソフィアも、元気でな」
「すぐ隣なんだから大丈夫よ」
強盗の事件など忘れたのか、ソフィアはその場を立ち去っていく。
「さてと、漬物の仕込みと和紙の製作に取りかかるかのう」
「わし……? とはなんだ?」
父が不思議なものを見るような目で問うてくる。
「くくく。紙の一種じゃ」
「紙? そんな豪華なものが作れるのか?」
「手間はかかるが、良質な紙が作れるぞい」
わしは不適に笑ってみせると、街へ向かう。不安に思った母がついてくるが、しかたない。
大通りから外れた小道には大工さんの工房がある。
「おじさん。これもらっていいかえ?」
「おう。いいぞ! じゃんじゃんもらっていけ」
これをもらいUNOやトランプを楽しむかのう。
「こんなものもらってどうするの?」
わしがもらったのは木片。それも砕けた端っこ。家具に使う素材の端くれ。
「もらえるだけもらうのじゃ。これで和紙を作る」
「わし? 自分は作れないのよ?」
「違う。紙のことじゃ」
こちらの世界には和紙という概念がないのか、説明するのに手間がかかる。
「紙を作るの? これで?」
こちらでは羊の皮で作る羊皮紙が主流なのか、それ以外の製造法は知られていない。
持ち帰った端材を釜でぐつぐつ煮て、冷たい川水で洗い、またぐつぐつと煮る。それを繰り返していくと、徐々に繊維が剥がれていく。
その繊維を囲いの中に集め、上から重しをのせていく。
「ふぅ。これでなんとかなるじゃろ」
「これで紙が作れるの。ホントかしら」
母は首を傾げながら、わしの行動を見守る。
「作り方は覚えたかえ?」
「え! ええっと。うん。そうね。何度もジャブジャブするのね」
ジャブジャブ? まあ大体あっておるか。
「そうじゃ。ジャブジャブするのじゃ」
「そうね。ジャブジャブね……」
ホントに分かっておるのだろうか。ちと心配じゃな。
大釜に向き合うと、みりんと醤油を作り始める。
小麦は煎って、豆は煮る。そして塩水を加えて
「というわけじゃ」
「へ、へぇ~。それでこのショウユができているのね」
未だにおぼつかない態度をとる母。これから日本食のお店を経営していけるのだろうか。わしがいなくても回せるようにせな労力が足りない。
「こ、こんにちは。元気にしてた? ルナちゃん」
「おう。おれもきたぜ! ルナ」
二人の男児が我が家を訪ねてきた。おとなしめのヘンリーと勝ち気なダニエルだ。
二人の協力もあり、国営初の食事処が完成しようとしている。といってもまだ机上の空論だが。
ミアが持ち帰った案によって今頃、帝国はてんやわんやじゃろうて。
「本当に食事処を開くのね?」
「あの目は本気じゃろ」
「おれらは何をすればいいだ?」
「さ、さあ……?」
「ヘンリーとダニエルはわしの手伝いをせえ」
わしの言葉にヘンリーとダニエルが首を傾げる。
「なんでおれらが従わなければならないんだ?」
ダニエルが不満を顔に表す。
「そうじゃな。じゃあ、この問題を解いてみい」
わしが簡単な算数の問題をだす。
リンゴを買いに行った五名に、追加でリンゴを買う三名がいました。合計で何名がリンゴを買ったでしょうか? といった簡単な文章問題だ。
ダニエルがむむむと頭を抱える。
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