第9話 日本食とパジャマパーティ!

「ミア、よく来てくれたのじゃ」

 お陰で王室御用達の漬物店が開ける。

「今晩、泊まっていくかえ?」

「え! いいの! お泊まりなんて初めて!」

 きゃーっと甲高い声音を発するミア。

「そんなのダメ! あたしも一緒に混ぜない!」

 その後ろでギリギリと歯がみをするソフィアの姿があった。

「なんで強盗が入ったところで泊めるのかな?」

 ソフィアは負けず嫌いだが、頭が悪いわけじゃない。

「いいんじゃ。わしはみなとも話したい。これがパジャマパーティという奴じゃな」

「「パーティ!?」」

 ミアとソフィアの顔色が変わる。

「子どもだけのパーティじゃ」

「そ、それならしかたなく参加するわ」

「わたしも同意ね。今すぐパジャマを用意しなさい」

 執事らしきものが深々と頭を下げ、走り出す。

 きっと今からパジャマを買いにいくのだろう。

 なんと贅沢な税金の使い道だこと。

 それにしても103歳にもなってパジャマパーティか。これもアピールじゃな。

 わしらの優位性を見せつければ、もう二度と強盗などこないだろう。

 醤油とみりん、料理酒(安いお酒)を使い、ジャガイモ、ニンジン、インゲン、豚肉を使用し、肉じゃがを作る。

 他にもゆでたジャガイモを潰し、マッシュポテトを作る。酢と卵、油でマヨネーズを作り、混ぜ込む。

 ポテトサラダと肉じゃが。それに漬物と沢庵をだす。こうなると、米がほしくなるのう。

 そういえば、ルークスとか言った男は「米を食べたい」と呟いていたのう。こうなったら、わしも人肌脱ぐか。

 まあ、それはおいおい。

 味噌も造らなくちゃいけないし、和紙も忘れてはいけない。

 夕食の準備ができると、食卓に並べる。さすがにミアがいる場で塩対応するわけにもいかない。

 みんな挨拶をし、食事を始める。

「これおいしい!」

 ミアが肉じゃがを気に入ってくれたのがたまらなく嬉しい。

 やはり誰かに食べてもらうのは嬉しい。愛情込めて作ったかいがあるというもの。

「これはなんだ? 塩気と甘みが絶妙なハーモニーを生み出している」

「これは醤油とみりんのお陰じゃ」

 ふむふむ、とうなづく。

 日本食に舌鼓したつづみを打つ。

「これは、素敵な味なの!」

「おいしい。あたしも好きかな」

 みんなの意見が一致し、あっという間に食事を終える。

「これはわたしの城でも食べたいの」

「それなら金額次第で売りますよ」

 きらーんっと目を輝かせる父。もう権力やら、金やらに弱いんじゃから。

 ふたりが価格交渉をしているなか、ソフィアが嬉しそうに目を細めて肉じゃがを頬張る。

「おいしいかえ?」

「すごくおいしいよ。でもちょっと濃いかな」

「ほうほう。なるほど」

 確か、孫にも同じようなことを言われたのう。

「これなら飲食店を開けるほどのおいしさじゃない」

 母はそう呟き、震える手でスプーンを握る。

「やはり日本食は最強じゃな。さすがは無形文化遺産じゃ」

「にほん? ぶんか? 何の話をしているのかな?」

「前世の記憶ね。役立つわ~」

 ソフィアが疑問に思うと、母が前世と認識したか。

「飲食店でも開くかのう。まずは大きな土地を買い取って――」

「それならわたしが当たってみようか?」

「ミア様」

 とがめるように言う父。

「いいじゃないの。民草の雇用開拓、市場開拓は皇帝の義務なの!」

「そうなのかな? あたしの家は失敗ばかりしているけど」

「そうよ。私たちで共同経営すればいいんだわ!」

 パンッと両手を叩く母。

「そうすれば労働力も確保できるわ♪」

「あたしの母と父も喜ぶと思うかな! やりましょう」

 母とソフィアが腕を組み合い、ふんすっと鼻息を荒くする。

「その設営はわたしの方に任せるの~!」

 みんなやる気満々だけど、みりんと醤油が足りるかのう。


 食事を終えて、いよいよパジャマパーティが始まろうとしている。

 しわくちゃな肌も、今はぷるんとした張りのある肌になっている。自分で着替えるとその不自然さに違和感を覚える。

「して、パジャマパーティとはどうするのかな?」

 ソフィアが困ったように眉根をよせる。

「それ! わたしも分からないの」

「ふむ」

 わしも詳しいことは知らない。ただ若者の間で流行っていたのは知っている。恐らく恋バナや身近に起こったことを話し合うのだろう。

「恋バナや近況を話し合うかのう」

「そうなの。わたし恋したことないから」

「あのアルフレッドやユーフリッドはどうかのう」

「えー。年上すぎるよぅ。でもいいかも……!」

 ソフィアが頬を赤らめ呆けた顔を浮かべている。

 アルフレッドも、ユーフリッドも顔はイケメンだからのう。年齢的にも年上が魅力に感じる頃合いじゃろうて。

「あのむさ苦しいの、どこがいいの」

 ミアは呆れたように呟く。

「そんなことよりも、わたしはルナが気になるの!」

 え。なんでこの流れでわしがあがるのかのう。

「このすべすべな柔らかな肌、鼻孔をくすぐる甘い匂い。どれをとっても素敵なの~」

 目。目が怖い。この子は本当に大丈夫なのじゃろうか。

「およ。ミア様はルナが気になるのかな?」

「そうなの。初めて会った時から不思議な魅力を感じるの」

「ふーん。それはあたしも気になっているところかな」

「へ……?」

 わしに興味津々なのはミアだけじゃないらしい。

「な、なにがそんなに気になるのじゃ?」

「まずはそのしゃべり方!」

「そうなの。それが気になってしまうの」

「え、いや、これは……」

 しどろもどろになっていると、二人がゆっくりと近づいてくる。

「わたしに秘密をしているんじゃないの?」

「あたしも気になるかな?」

 この言葉使いになったのは十一の誕生日。その前まではもっと普通じゃった。でも、この言葉使いの方が楽なのじゃ。

「秘密というほどでもないが、わしは前世の記憶があるのじゃ。それでこんなしゃべり方をしているのじゃ」

「へぇ~。前世の記憶なの~」

「それはあたしも初耳かな」

「ありゃ。言ってなかったかのう……」

 ふたりには話したつもりでいたのだが。

「それにしても、不思議なことを思いつくみたいだけど、それも前世の記憶なの?」

「そうじゃ。わしのほとんどは前世の記憶じゃ。それも92歳の」

「「92歳!?」」

 驚きの声をあげ、顔を見合わせるミアとソフィア。

「それはもりすぎなの」

「そうそう。おかしいかな!」

 ゲラゲラと笑いだすふたり。

「ホントなのじゃ~!」

 ぷんぷんと怒りを露わにするわし。

 これがパジャマパーティなのだろうか。

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