第3話 中庭迷路!

「わたしと友だちになりなさい! ルナ=キルナー!」

「なぜわしの名前を……!?」

 驚きのあまりうなるような声をあげるわし。

「だって。門番さんに確かめたもの!」

 えへんっとどや顔をしてくるミア。

「だからわたしと遊びなさい!」

 わしの手をとり、庭へ向かう。ちらりと父の顔をうかがう。

「気にしないでいっておいき」

「分かった。でも、わしの交渉なしで進むかえ?」

「ははは。これでも父さんは小説家、貴族のたしなみを知っているものさ」

 父さんが腕まくりをし、そう強気な発言をする。

「およ? その樽の中身がツケモノか! わたしも食べたいの!」

「遊びはいいのかえ?」

「むぅ。食べたいけど、我慢する。どのみち、両親が食べさせてはくれないだろうから……あそぶの!」

 ミアがわしを引きずるように中庭につれていく。

 中庭には様々な植物が植えられており、とげとげしい植物や食虫植物、苺のような植物も見える。

「これはすごいのう……」

「あ。その樹には触れないでね。身体中がかゆくなるの!」

「そうなのじゃ。危険なんよ」

「そう。危険なの」

 樹木に触れてみると、樹木が裂ける。

「え! なにをしたの!?」

「嫌われているのじゃ。さけたのじゃ」

「いや、嫌われているって……」

「植物にも魂はない、と?」

「え。違うの?」

「さあ。わしには分からんね」

 実際、わしには分からん。分かっているのは、異世界ではわしの身体はちーと持ちということくらいだ。孫がよく見ていた、らいとのべる? とやらに乗っていた。長生きの秘訣はなんでも知ろうとすることじゃ。知識欲を求めること。なんでも欲すると、生きる気力も湧くというもの。

「ほら。木イチゴがなっているの。おいしいの~」

「どれどれ」

 わしが口に運ぶと、酸っぱさが口の中を支配する。

「なるほど……」

 こっちの世界では品種改良なんてされていないから、自然の甘みや酸味がそのままなのだ。前世のような甘さを期待したわしが間違いじゃった。

「どう? おいしいの」

「そうなのじゃ。この種を持ち帰ってもいいかえ?」

「へっ? いいけど、どうするの?」

「いひひひ。それは秘密なのじゃ」

 背嚢に種をいれていくと、わしはにやりと顔を歪める。金髪をはためかせ、中庭を闊歩する。

「じゃーん! ここからは迷路になっているの! 一緒にはいろ?」

「分かったかのう」

 わしとミアは植物の迷路に入っていく。

 入ってみて分かったが、子どもには迷路でも、大人にとっては迷路になっていない。ちょっとジャンプすると遠くまで見渡せる。

「ちょっと! ずるはダメ!」

「ずるかえ?」

「そう! ジャンプは禁止!」

 なら、さんでーは大丈夫ということか。わしとしたことが孫の影響を受けておる。

「コロコロといくかのう」

「ころころ?」

「じゃあ、ボンボンといくかのう」

「……なにか、よく分からないけど、楽しいの」

 クスクスと笑うミア。

 笑ってくれたのなら何より。わしも人の心を失っていないようで安心じゃ。

 迷路の中をすすすっと進んでいくと、二手に分かれている。

「どっちいくかえ?」

「右!」

「ふむ。わしは左だと思うのじゃ」

「右!!」

「はい。分かったのじゃ」

 どうやら否定の言葉は聞いていないらしい。さすが子ども。聞き分けがない。

 わしとミアは右に進むと、行き止まりについてしまう。

「あれ。あれれれ?」

 困惑するミア。

「前はこれで通れたの……!」

「あら。それは不思議なこともあるのじゃ」

 わしは踵を返すとゆっくりと歩いていく。迷路の構造はだいたい覚えた。先ほどの道を左に。次を右、右、左でゴールじゃ。

 ジャンプしたときに覚えた。

 覚えた順番通りに進むと、ゴールが見えてくる。

「なんで分かるの? わたしの意味は?」

「それより、他のことをして遊ばないかのう」

「うん! そうするの~」

 のんびりとした口調で迷路から出るのはミア、とわし。

「おや、こんなところにいたのか、ミア様」

「の? あ、ロイル。今、ルナと遊んでいたの? そうだ。ロイルも一緒に遊ぼ」

 ロイルとやらは顔がいい。整った顔立ちに、茶色の髪。腰に剣を携えている。剣士といったところか。恐らくはミアの護衛なのだろう。さっきからこちらを伺うような視線を向けてくる。

「この子はわたしの友だちなの~♪」

「それは良かったですね。ミア様」

「そうなの~!」

「では。王室へ来ていただけますかな? ミア様」

「え」

 言葉を失うミア。

「わしとならいつでも会える。気にせずにいきなされ」

「う、うん。分かったの」

 きっと引き留めてほしかったのだろうけど、わしと遊ぶより王室の方が大切なのじゃろう。

 しかし、皇族の王妃と友だちになるとは、思いもしなかった。

「ルナ。ここにいたか」

 後ろから父の声がかかる。

「なんじゃ、もう終わったかえ?」

「ああ。とんでもない額だぞ。聞いて驚け!」

 テンションが爆上がりしている父に連れられて外に向かうわし。

「それは後で良かろう。まずは外でるのじゃ」

「そ、そうだな。すまん。落ち着こう……」

 相手の懐で、儲かったと言うのは失礼じゃろう。たぶん。

 そのくらいの思慮はあるじゃろうて。

 城の外に出ると、わしを抱えたままの父が目を輝かせる。

「さっそく、明日のツケモノを買いに行こう!」

「そうじゃな。わしも一人で作るのは大変じゃ。母あたりに頼み込もう」

「そうだな! 妹のレイにも、手伝ってもらおう」

「レイは自由にさせてほしいのじゃ」

 わずか9歳の子にわしと同じ仕事をさせるのは酷と言うもの。

「しかし、今後の営業次第では、一生遊んで暮らせるぞ。ルナの未来は明るいな!」

「それは良かったのう」

 魔王によって滅ぼされかけている世界とは思えぬほどの絶好調じゃ。

「それにしてもこんなに儲かるとはな」

 ジャリッと金貨の入った背嚢を覗かせる。

「待て、それは家に帰ってからじゃ。でないとどんな相手がよりつくか分かったmのではない」

「そ、そうだな。防犯意識は高めないとな」

 苦い顔を浮かべる父。ホントに意識が低い。

 わしと一緒にいないと、きっとここで奪われていたじゃろうて。

 勇み足で帰るわしら。

 家に帰ると、母が訊ねてくる。

「どうだった? ルナのひらめきもいいよね~」

 ふあぁあぁと欠伸をかく母。

「それが聞いて驚け。なんとこの金貨に化けた!」

 どんっとテーブルにおく金貨の山。

「え! これどうしたの?」

 驚きで目を丸くする母。

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