後書き

― 西暦2023年2月26日


― ロリミエのように厳しい冬の街




 今作「貴方の心に不法侵入」を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。特に応援、フォロー、レビュー、コメント下さった方々には感謝の気持ちでいっぱいです。ご意見ご感想、真摯に受け止めております。皆さまの評価、反応がとても励みになります。


 新シリーズと銘打っておりますが、次作以降連載が続けられるかは作者自身にも分かりません。というのも、この作品を書き上げるのにもかなりの労力を要したからです。力尽きた状態なのです。


 新シリーズですが、大体のあらすじの構想は数年前から私の頭の中で出来上がっていました。他の作品のネタも少しばかりですがあるのです。ところが文章に起こすとなるとこれが大変で、亀のような速度になってしまいます。


 この作品を執筆中に偶然見たある映画の主人公にマテオを重ねることができて、彼の像がより鮮明になりました。特に彼の容貌と性格も少し似ているかもしれません。実際映画の彼はマシモ、名前もよく似ています。そしてカサンドラの方は、同じく執筆中に見た別の映画の女主人公の見た目を重ねて私は頭の中で彼女をより鮮やかに描くことが出来ました。因みに映画の彼女の名前はアナスタシアです。


 この作品は現代ものですから、大人な場面が割に多く出てきます。はい、正直私も嫌いではありません。マテオさんの方はともかく、カサンドラのイメージを損なわないように、それでもやっぱり際どさは残してそんなシーンを書くのに骨を折りました。これだけ頑張った結果はこの程度でございます。


 この話は新しい物語で、場面も設定も大きく違うのですが、時々王国シリーズのキャラと比較してしまうのですね。マテオはジャン=クロードとジェレミーとティエリーの要素が混ざっている感じとか、リサの姉御肌なところはあのエレインさんそのものだとか、そんな風にです。


 それから物語の最後でマテオは公共の面前でカサンドラにプロポーズしましたね。いわゆる大勢の人々が見守る中での公開プロポーズです。ふと王国の方ではどうだっただろうか、などと前シリーズを振り返ってみました。


 『細腕領地復興記』のステファンさんはルーシーに公開求愛していました。卒業式に薔薇の花束を持って現れた彼でした。私もカサンドラの卒業式の場面を書きながら『細腕』のことを懐かしく思い出しておりました。


 『バ・ラシーヌに咲く花々』のクリスチャンはキャロリンへ野外で求婚しましたが、一応公開ではなく、通りすがりの人々が気付いて祝ってくれていました。


 と言うことで、今作の主人公たちこそが本格的な公開プロポーズだったというわけです。


 主人公カサンドラは栄養学科で学ぶ学生だということもあり、できる限り色々な料理の名前を作中に入れてみました。しかし、肝心のイタリア旅行中はプロポーズ大作戦に集中して書いたのでなんと料理名は一つも出てこなかったと今になって気付きました。


 地名や団体名はほとんど架空のもので、実在するものから音の響きと片仮名表記の見た目を鑑みて取ったものが多いです。


 ヴェルテュイユという国名は私の造語だとばかり思っていましたが、物語を書き終える頃になって実はフランス南西部に実在する地名だと判明しました。その上、糸車のある部品を示す名詞でもあることが分かりました。


 主人公たちが住んでいる街の名前、ロリミエは歴史上の人物名であり、地名にも使われている名前です。


 彼らが最初に向かうヴェルテュイユ国の首都、ボードゥローは仏語で水際、水辺を意味します。


 女主人公の名前としては、三音節以上の長い名前で、愛称があるものが良かったのです。マテオ他、親しい人々に彼女を愛称で呼ばせたかったからです。実はカサンドラ、書き始めた当初は違う名前でした。それでも話が進んで行くうちに最初につけた名前は彼女のイメージに合わないのではないか疑惑が浮かび上がってきました。


 そしてカサンドラはどうだろうかという案に行きつきました。Cassandraの愛称はCassで中々可愛い、これこそ今作ヒロインにぴったりだ、と大層気に入ったのです。


 しかし、そこで大変な問題が上がってきました。愛称をカタカナで書くとカス……駄目だ仮名にすると見た目が全然宜しくないじゃないですか!


 それでもカサンドラがどうしても捨てがたく、かなり悩みました。愛称をカシーにするのは私の中では何となく駄目だったのです。イー音で終わる愛称はこの物語で既に多く使っているからという理由もあります。サミー、ガビー、ダニー、皆子供です。


 仏語ではア音とャ音は特に区別しないというもっともらしい理由を自分に言い聞かせ、最終的には苦肉の策で愛称キャスで採用になりました。


 マテオのプロポーズ大作戦を書くにあたって、イタリア旅行中に決行ということは決めていました。作者の同僚が昨年夏、旅行中のパリで彼女に求婚すると言っていたことにも触発されました。無事同僚の彼女もカサンドラ同様求婚を受け入れたようです。


 長距離走大会を完走後の求婚は私自身がフルマラソンを走りながら思い付きました。そう言えば、以前自転車とトライアスロンのショーに行った時、ある講演で講演者が初アイアンマンの完走後に彼女にプロポーズした話を聞いたことも思い出しました。こんな体育会系な汗まみれな感動が実に良いではないかと自分では気に入っております。


 マテオに走らせる距離は悩んで結局十キロに決定しました。トライアスロンでも良かったのですが、怪我から復帰したばかりだといくらマテオでも練習期間がないかと思い、結局ただのトレイルランで距離も短く十キロになりました。七月のイタリアですからあまりそういう大会も開かれていないみたいです。結局ナポリから車で行ける山の中にある架空の小さな町での大会となりました。著者はイタリア語の造語地名を考えるのがまず無理で、町の名前はつけていません。ごめんなさい。


 一話毎に一言はイタリア語を入れてみました。少し前から別の理由でイタリア語を習いたいな、という気持ちだけはあったのです。それでも中々重い腰を上げることが出来ずにここまで来ています。本作を書き始めた時もそこまで伊語の表現を入れる気はなかったし、マテオと家族もそこまでイタリア色を出すつもりもなかったのです。それでも折角だからあちらこちらに散りばめてみました。それはそれで楽しかったです。


 いつもながら、長くなりました。毎作のことですが、作者の思いが色々と溢れているのです。語らずにはいられません。


 次回作も頑張って書いていくつもりですので、気長に見守っていただけたら幸いです。アラ プロッシマ!




           合間 妹子

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貴方の心に不法侵入 合間 妹子 @oyoyo45

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