座談会 女三人寄れば(二)




「マテオさん、それでも旅先等で女性に誘われたらどうなさる? お持ち帰りしたってあと腐れもなく、バレもしないでしょ。出来心で思わず浮気しちゃったなんてことは?」


「リサ、何てこと聞くのよ!」


「私が聞かずに誰が聞くっていうの、アンソ」


「キャスが居るのにそんなことするわけないだろ。いくら欲求不満が溜まっていても、彼女のことを想いながら一人でヌく方が気持ち良い」


「キャー!」


「確かにこの場ではマテオさんも否定する答えしか言えないでしょう。それに、いきなりハッピーエンド直後に懺悔大会になっても、とは思いましたけれども……ここまで言い切られるとはキャスも幸せ者ですわね」


 リサだけでなくアン=ソレイユまでかなりの辛口である。


「こんな十八禁発言がちょくちょく飛び出すなんて、聞き手がおばさまコンビではなくて私たちだからこそできる会話よね」


「聞かれたから正直に答えたまでだ」


 カサンドラは真っ赤になってうつむいてしまっている。




「再び気を取り直して新婚のお二人に質問です。この人が一生を共にする相手かもしれないと認識したのはいつですか?」


「私はそうね、襲われそうになったあの別荘から救い出された時かしら。マテオ以外の男性に触れられるのは絶対嫌だということに気付いたのよ」


「俺はキャスが俺にも性病検査を受けさせようとした時だな」


 カサンドラは今は椅子を寄せたマテオに肩を抱かれている。


「早っ!」


「それって出会ってたった二日目ではないですか?」


「それでもキャスは既にナンシー伯母さまのお墨付きだったものね。それからマテオさんはキャスのスザンヌ叔母さまをあっという間に懐柔よ。ナンシー&スザンヌのおばさまコンビに応援されていたらもう無敵よね」


「鋭いリサも割に早い時点で二人がゴールインすると確信していました」


「そうそう。マテオさんと電話番号を交換して、ふと二人の番号は下四桁が同じだと気付いた時よ」


「キャスに携帯電話を持たせた時はまだ付き合っていなかった。それでも携帯ショップで店員に番号はどうするか聞かれて、当然のように下四桁を揃えてもらった」


「まあ素敵、ロマンティック!」


 そう言ってため息をついているアン=ソレイユは目がハート型になっている。


「さてキャス、イタリア人男性と交際、結婚してどう? 義理の家族とは上手くやっていけている?」


「そうね、マテオのご家族に会う度にイタリア語の洗礼を受けているという感じよ。私も少しは上達したのよ。もうリサよりは上手になったかもしれないわ」


「もちろんよ、私は元彼の影響で片言が出来るだけだもの」


「リサ、君は一体何か国語話せるんだ?」


「仏語、英語、広東語はペラペラで、北京語、伊語は日常会話程度です。スペイン語もかなりいけるのではないかしら」


「どうしてそこで貴女が答えているのよ、アンソ!」


「それで今の彼は何処の国の人なの、リサ?」


「へぇ、大したもんだな」


「移民だもの、皆こんなものよね。マテオさんだって三か国語がビジネスレベルでできるでしょ? その方がスゴイわよ。さあ本題の質問に戻るわよ。キャス、イタリア人の夫がウザったいと思ったことはないの?」


「そうね、イタリア料理全般には名称の発音に関してまでもうるさいです。ここで一々言い出すときりがありません」


「きりがなくても良いので聞きたいです」


「スパゲッティを茹でる時に私が半分にバキッと折るのをいつも怒られます。それにこれはスパゲッティじゃない、スパゲッティーニだとか、パスタを全て一緒くたにするなとか、そんな感じです。パイナップルの乗ったピザも許せないみたいです。ピザと言えば、ピザでないものをピザと呼ぶことも虫唾が走るそうです。例えばチョコレートピザやスシピザね」


「分かるわー。外国じゃ中華料理も進化というか変化して本当の中華じゃなくなっているもの」


「それから、マテオの嫉妬深さや独占欲が原因で喧嘩になると私は彼のことをストーカーとかパパラッチと呼ぶのですね。そうしたら怖い顔でパパラッチは複数形だ、君にストーカーは俺一人で十分だ、男性単数形のパパラッツォと言い直せと怒られます」


「まあ、面白いわね」


「良く分かるわ。異文化の人と付き合うとねぇ、最初は楽しいのよね。長く交際を続けるにはお互い歩み寄りが必要なのよ」


「百戦錬磨のリサお姉さまの言葉には重みがあります」


「アンソは一言多いのよ」


 リサとアン=ソレイユの掛け合い中、新婚夫婦は口付けを交わし始めている。


「はい、またまた気を取り直しましょう。本題に戻らないとこの二人はイチャラブを開始してしまいますしね。今夜最後のトピックです。作者によるとこの作品は新しいシリーズだそうです。余力が続いて次作も書ければ、なのでしょうけれど。気になる次話の主人公は誰だと思われますか?」


「リサじゃないかしら、私たちの結婚式には素敵な同伴者がいましたもの。何でも新しい恋人だそうです。あのリサが結婚式に連れてきて友人たちに紹介しても良いと思うくらいの人なのです」


「まだ何も言いたくないわ。ノーコメントでいいかしら」


「アンソも実は私たちの結婚式で人生を左右するくらいの重要イベントが発生したのよね!」


「いえ、それは……そんな大それたことではなくて」


「何言っているの! 今までの虚しいシンママ生活を根本からひっくり返すような出来事よね」


「虚しいって失礼ね!」


「そう言えば今夜ダニーを連れて来なかったということは誰が面倒を見てくれているの? この時間になると泊まりよね。うちの母は何も言ってなかったわよ」


「連れて来ないのが当り前じゃないかしら。私のダニーの前で教育的によろしくない話になることが分かっていたもの」


「悪かったな」


「今のダニーはイヤイヤ期を終えて、ナニナニ期からナゼナゼ期に移行中です。『マテオおじさん、せくはらってなあに?』『どうしてキャスをなわでしばるの?』『うわきってなあに?』今日ここにダニーが居たら質問攻めに遭っていたはずです」


 一同大笑いである。


「私、久しぶりにダニーにも会いたかったのに……それで、今夜は貴女のところに子守りの人が泊りがけで来てくれているの?」


「私もノーコメントでお願いします」


「二人とも詳しいことは全然教えてくれません」


「次の物語は俺達の友人カップルの話かもしれないぞ」


「そうだったわ、クレールとステファンさんのお話も興味深いわよね」


「私たちがイタリア旅行に発つ少し前、お二人のところには可愛い天使がやってきました」


「大穴としてキャス兄・シンシア組、ラモナ・レナト組、スザンヌ・マルタン組なども考えられます」


「ないわー」


「この三組の中ではキャスのお兄さんが一番可能性が高いのではなくて?」


「妹の私もそれはないと思うわ。今頃はくしゃみを連発しているかも」


 こうして話題は尽きないまま、ロリミエの夜は更けていくのであった。




***今話の一言***

スパゲッティーニ

スパゲッティよりも細い


パパラッチ

パパラッツォ、パパラッツァの複数形。実はブロッコリやズッキーニも複数形だったりします。


これでおまけの座談会も幕を閉じます。マテオはダニエルくんが欠席で良かったというか……

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