私達だけの特別なイベントです

 10月と言えばハロウィンを思い出しますが、此方の世界にはハロウィンという行事は、存在していません。「うん、うん。知ってるよ、勿論。」と、こういう時に前世の記憶を持つ親友に、嬉しくて。


何しろ前世の記憶と現世の記憶が、丁度良い具合に交じり合い、時々これは夢ではないのか…と、疑ってしまうのですよ。要するに、記憶が曖昧になって行くほど、自分の記憶が何処かおかしいのでは…と、前世の記憶を否定したくなると…。それほど、前世の世界とよく似たこの世界では、自分に自信が持てなくなりそうです。


前世でもお嬢様だった麻衣沙は、節分などの行事はされたことがなく、ハロウィンもそうだろうと思っておりましたら、ちょっと事情が違うようですね…。


 「ハロウィンならば、わたくしも参加した経験がございますわ。前世では1度だけですが、ハロウィンの発祥の地とされるアイルランドに、旅行に参りましたわ。現地ではカボチャではなく、かぶの中身をくりぬいて使用致しますのが、本来のハロウィンなのですわ。アメリカでは、子供がお菓子をもらうというイベントへ、日本では大人が仮装するのが主流へと変化しておりますが、本来の目的は魔除けを行う宗教的な行事ですのよ。日本の厄払いと、似たようなものかしらね。」


前世の麻衣沙は、とは…。随分と、よくご存じのご様子です。ハロウィンの意味も教えてくださるぐらいに、前世では馴染み深い行事でしたのね、彼女にとっては…。


前世の私にとっては、ハロウィンはあまり関係がなかった気がします。確かに麻衣沙の仰られる通り、私も日本のハロウィンのことは覚えていますわ。殆ど、仮装行列みたいでしたよね…。私は1人(?)で、ハロウィングッズを飾って祝っていただけ、という気が致します…。実は…その辺りの記憶は、よく思い出せなくて…。


 「私もハロウィンなら、覚えてるよ~。よく友達と仮装して、参加してた記憶があるんだよね~。そう言えばこの世界には、無いんだね…。懐かしいなあ…。」

 「私も、ハロウィンの仮装パーティに、行ったことがありますよ。誰と言ったとかは覚えていませんけど、確か…誰かに誘われて行ったような……。」

 「わたくしも…知っておりますよ。仮装はしたことがありません。ハロウィンだけでなく、他の行事にもあまり興味がなくて……。」


麻衣沙のウンチクに反応したのは、美和ちゃんでしたわ。美和ちゃんは、あの仮装行列に参加していたのですね…。その次に反応されたのはエリちゃんでして、誰かに誘われ仮装パーティにご参加されたとか…。もしかして、前世の彼氏…だったりとか、しませんよね?


最後に反応されたのは、悠里先輩でしたわ。あれから悠里先輩とも、仲良くしていただいておりますわ。彼女は、去年の夏休み中に光条さまと恋人になられ、今は正式な婚約をされましたのよ。お2人は今はラブラブで、お似合いのカップルなのですわ。勿論、地味で目立たない容姿は、


麻衣沙を筆頭に私達女性4人で、悠里先輩の容姿改革計画を実施致しました。あの目立つご容姿の光城さまのお隣には、やはりそれなりに目立つようなお人でなければ、悠里先輩も光条さまも悪意に晒されてしまう…と。そういう思いから私達は、悠里先輩の容姿改革に乗り出しましたのよ。


総監督は勿論の如く、この場合は麻衣沙が適任でしてよ。そして私は、麻衣沙の補助役なのです。美和ちゃんはさり気無く自然なお化粧方法を、エリちゃんはデートする場所やデートに関する情報を、悠里先輩に教えてくださいましたわね。


美和ちゃんとエリちゃんのお2人は、別の大学と高校に通われており、悠里先輩とは毎日のようにお会い出来ません。ですから、インターネット上でのやり取りなどで、連絡を取られておりました。私と麻衣沙は出来るだけ時間を作りまして、悠里先輩とのご予定を合わせていましたのよ。


今の悠里先輩はご自分でお化粧されたり、自ら洋服や髪型を選択されたりと、順調に美人への段階を上げられておりますわ。これからはもう…光条さまとは似合わないという発言は、誰も仰られないことでしょう。


今の彼女は自信にも溢れておられ、私達が伝授致しましたあの頃よりも、更に輝かれておられますものね。自信が成功の元…となられたのかしら?






    ****************************






 今年のハロウィンは、女子友5人だけでの仮装パーティの類を、開くことになりましたのよ。会場は珍しく、麻衣沙のご自宅なのですわ。流石は発祥地まで出向かれたことのあると仰る、麻衣沙さんですわ。ハロウィングッズが何故か沢山、既に用意されてありました。この世界にはない筈ですのに、自ら特注されたのかしら?


 「ええ、そうですわ。ルルが、雛祭りのグッズや子供の日のグッズを作られましたので、わたくしはハロウィングッズを毎年、作り続けておりましたのに…。ルルからは全くハロウィンのイベントに関して、何も仰られないのですものね。忘れられていたというよりも、あまり興味をお持ちではなかったのね…。」

 「……ええっ?!…そんなにも昔から、作らせておられましたの?…それでしたら一言、私に仰ってくだされば良いのに…。どうして黙っておいででしたの?」


私の疑問に対して、麻衣沙はもうずっと昔から、ハロウィングッズを作り続けておられたと、仰って…。私がハロウィンに好意的でないことで、明らかにがっくりと落胆されたご様子です。…な、なんで、教えてくださらないの?…麻衣沙はハッキリと仰るタイプなのに、どうして……。


私が更なる疑問を投げかけますと、麻衣沙はションボリしたご様子のまま、上目遣いにわたくしを見つめてこられて。うっ…。何、それ…。そのお顔は…反則でしてよ。小動物が怒られた後、主人の顔を伺う素振りのようで、激可愛げきかわですもの…。


 「それは……。ルルが『ハロウィンの行事はしない』と、仰られるかもしれないと不安になり、中々…申し出せませんでしたわ。ハロウィンはわたくしには大切な思い出がありますし、其れなりに思い入れもありましたので…。ですから、ルルを巻き込むつもりでは、ございませんでしたのよ。」

 「……もうっ!…麻衣沙ったら、冷たいですわよ。私は何でも麻衣沙にお話していたのですから、麻衣沙からも私にお話していただきたかったですわ。あまり興味がなかったのは、前世の私ですわ。今の私は、前世の行事やイベントは何でも懐かしいですし、ちゃんと興味もありましてよ。ハロウィンのことは本当に、最近まで思い出せなかっただけですのよ。」


私は昔から、麻衣沙を頼ってばかりおりましたのに、麻衣沙はこうして私を頼ってはくださらないのよね…。きっと麻衣沙のことですから、前世の自慢をするようで嫌だったのでしょうね。その上、私が全く言い出さないものですから、興味がないことに無理矢理付き合わせたくないと、諦められておられたのでしょう。麻衣沙は昔から、優し過ぎるのですわ…。優しくて思いやりのある人物だと、私がよく言われておりますけれど、それは…全く違いましてよ。本当に心から優しくて思いやりのある人物なのは、麻衣沙なのですからね。


 「…そういうことでしたら今後も、ハロウィンはわたくし達女性のみで、お祝いしませんか?…前世の本物のハロウィンを知る、わたくし達だけで……。」

 「…あっ、それ…いいアイデアよねっ!…だったら今後も、ハロウィンを知らない聖ちゃんには、内緒にしちゃおうかな…。」

 「それいう理由でしたら、私も…相良君にはずっと、内緒にしますね。」


麻衣沙が遠慮されていると気付かれた悠里先輩が、良いアイデアを提案してくださったので、美和ちゃんとエリちゃんも恋人に内緒にしてまで、参加されるようですね。女性だけでのハロウィンも、楽しそうですわ。……ふふふふっ。私も樹さんに気付かれないよう、行動しなくては…。最近の樹さん、ので…。


 「それでは、わたくしの自宅で毎年行いましょうか?…現地集合&現地解散ということに、致しましょう。わたくしの自宅では、斎野宮家や藤野花家とは異なりますので、五月蠅いメイドもおりません。わたくしの両親は、わたくしのことには殆ど干渉なさらないので、ルルのご自宅よりお気楽でしてよ。将来、立木家の主人は岬さんになられるご予定ですが、彼もそういうことは干渉なさりません。樹さんとご結婚なさるルルよりは、都合が付けられますわ。」


麻衣沙のご自宅でハロウィンを開くことに、異議を申す気はありませんけれど、途中から…内容がおかしいですわ。我が家に五月蠅いメイドがいて、私の両親が私のすることに干渉され、斎野宮家に嫁いだ後は樹さんが干渉されると、けれども……。


 「…まあ。麻衣沙さんは、篠里さんとは順調そうですのね。それで…いつご結婚されますの?」

 「…えっ?!……い、いえ…まだ、結婚する日までは…決まっておりません。岬さんと樹さんは、何方どちらが先に結婚されるかという点で、争っておられますし……」

 「…えっ?…何、それ…面白そうな話よね~。」

 「…あららっ?…あの腹黒王子と眼鏡くんが?!…、厄介ですね?…でも、そこをもっと詳しく……」


悠里先輩から結婚の話題を振られ、麻衣沙は馬鹿正直に話題を提供し、美和ちゃんとエリちゃんもノリノリで…と盛り上がりましたが、1つ気になることがありまして。腹黒王子とは…誰のことかしら?


 「腹黒王子とは、一体何方どなたなの?…腹黒設定は確か、ゲーム上での岬さんの設定では…?」

 「「「「…………」」」」


「ルルお姉様は、まだ…知らなかったんですね…」という雰囲気の、エリちゃん達のお顔は、何なのでしょうね……。







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 10月のお話で、ハロウィンの話となります。今回は、ルル視点です。


日本のハロウィンは10月31日ですが、本来は10月31日~11月2日のようですね。去年はコロナで自粛ムードでしたが、今年のハロウィンイベントは、どうなるのでしょうね…。


ハロウィンのイベントをバレないようにと、女性陣だけで集まっていますが、本当に男性陣にバレていないのかは、ご想像にお任せします……。



※読んでいただきまして、ありがとうございました。これが最後の季節ネタとなります。今年中に番外編集も、終了予定です。次回からは季節ネタとは関係なく、終了に向けての話に突入予定ですが、後もう少しお付き合い願えたら嬉しいです。

※次回は、また何時になるか分かりませんが、またよろしくお願い致します。

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