永遠の親友でいたいのに…

 樹さんとご一緒にお月見をした日から、随分と経ちました。今年度も、残すはあと少しでしょうか…。あれからお互い忙しくなりまして、樹さんとは…殆ど真面にお会いしておりません。


しかし、私の気持ち的には其れで、丁度良かったように思います。きっと私は樹さんに対して、ぎこちなく接したことでしょうね。別に…彼と2人で過ごすことが、嫌なのではありませんのよ。変な方向に意識してしまうと言う、そういう意味で…なのですわ。だってあれは、そういう意味を含んでいるのですよね…。何をどう考えましても、一流ホテルで2人だけのクリスマス会を開く意味とは、そのままお泊りして次の日も一緒に過ごす、という意味ですよね…。


恋愛には疎い私と言えども、今は樹さんと正式にお付き合いしておりますし、一応はそういう知識だけは、私も…。それに、麻衣沙と岬さんは既に、そういう大人のご関係なのだとお聞きしています。


「岬に、先を越された…」と、樹さんがブツブツと呟いておられた当初は、どういう意味かしら…と、疑問に思っておりましたのに。大人の階段を上る…とはよく申しますけれども、美和ちゃんやエリちゃんにまで置いて行かれたと知った日には、前世でも恋愛経験のない私は、逆に色々と焦ります…。美和ちゃんは兎も角、麻衣沙も意外でしたけれども、まさか2歳年下のエリちゃんにも先を越されるとは…。


出会った当時はまだ高校生のエリちゃんも、今年の春には秀南大学の大学受験に合格され、晴れて大学生となられておられます。ですが、まさか大人の階段まで駆け上がられるとは、夢にも思っておりませんでしてよ、お姉さんは……。


今年になってからは、樹さんは大学院に上がられた所為で、研究もお忙しいらしい彼には、真面にお会いすることが適いません。最近の私は、妄想に夢想する機会もめっきりと減りまして、現実を見られるようになりましたの。ですから余計に彼と会えないことは寂しく、とても辛く感じておりますの…。これが、恋をするという状況なのですね…。


樹さんのことは前々から、好意を持っておりましたけれども、抑々恋愛とはそれだけではありませんでした。彼とお付き合いし始めた当初は、彼の甘々な言動に振り回される以外、今までと殆ど変わりのない日々に感じましたのに、今ではハッキリと違うものを感じておりますわ。


何がどう変わった…とは申し上げられないのですが、私の中では全く違うと言い切れますのよ。、嬉しい気持ちも苦しい気持ちも悲しい気持ちも、また怒る気持ちもあったりして、本当にせわしないのですよね…。恋とは何とも…おかしなもの、ですわね……。


あのお月見の夜、樹さんが例のお話をされた時も、私自身は酔っぱらっていたにも拘らず、一気に酔いが冷めて覚醒しましたわ。きっと私ももう、そういう覚悟が出来始めておりますのね…。唯、自分では気づかずにいただけ…。女子友に置いて行かれた気がしますのは、そういう気持ちからなのかもしれません。何方どちらにしましても、私ももう逃げたいとは思いませんもの。


大人の階段を上るのは、全く恐怖がない訳でもありません。いずれはそれらを乗り越えなければならなくて、それが遅いか早いかの違いだけで。お相手があの優しい樹さんですし、私が本気で怖がることや嫌がることを、される筈などあり得ません。後は…私の覚悟が、必要だというだけで…。


そうして私も覚悟を持って、樹さんときちんと向き合いますわ。これからは彼の恋人らしく、未来の妻として振舞う必要も、出て参りますでしょうね。これで私はごく普通の一般人には、が、樹さんがお隣に居てくださるならば、私も私らしくこれからも、そういう生き方をするのでしょうね。


大学生活はあと1年で終了ですが、私達の此処での人生は、まだまだこれからも続くことでしょう。今までのように藤野花家のお嬢様として、のほほんと責任も取らずに生きていくのは、後1年だけですわ。


大学卒業後は斎野宮家で花嫁修業を熟しつつ、其れらを経た後に…彼との豪華な結婚式が、待ち受けることでしょう。斎野宮家跡取りの結婚式ですので、政界で活躍される方々も呼ばれるのかしら?…大企業トップの方々も、漏れなく来られることになりますわね。…私、大丈夫なのかしら……。


私も普段は藤野花家の娘として、外面そとづらは立派なお嬢様を演じておりますが、こういう格式高い場所では…不安になりますわ。最近は、ボ~とする癖も減りましたし、斎野宮家に嫁ぐという意識が高まりましたお陰で、私自身も色々と心境の変化を、感じておりましてよ。


反対に…麻衣沙や他の者達の立場から見れば、私の以前の言動も当然のこととして思われており、逆に…妄想が減った事実に驚かれますのよ。……もうっ!…皆さんは、私を何だと思っておられますのよっ!






    ****************************






 大学卒業後に正式に、私は樹さんと結婚すると決定致しました。そして、麻衣沙と岬さんも同じ頃に、正式にご結婚されることになりましたの。但し、樹さんと岬さんとは、何方が先に結婚するかという意見で、お互いに譲られないご様子です。特に樹さんは、岬さんよりも先に結婚したいと、熱望されておられて。…う~ん。そういう自分の方が先とかは、女性が求める内容ですが…。男性である彼らが何故に、結婚を急がれますの?


これには麻衣沙も、閉口されておられましたわ。岬さんを下手に刺激したくないのだとか何とか、仰っておられます。私にはさっぱり意味が、分かりません。


 「理由は…分かっております。岬さんも樹さんも先に結婚なさることで、ご自分が幸せになるのを見せつけるという、有利な立場に立たれたいだけかしら。樹さんの場合は、しれませんね…。何方が先になりましても、岬さん達とは逆に…恨みっこなしですわ。」


呆れたような口調で仰る麻衣沙は、軽い口調で笑い飛ばされつつ、冗談でお話を締められます。これは、麻衣沙なりの冗談でしてよ。


 「ええ、勿論でしてよ。大学卒業して直ぐに結婚は、早過ぎますものね。」


私も、同様に思っておりました。適齢期過ぎた年齢で焦る事情でもないのに、元々早過ぎるのですわ。今の私達が結婚を焦ると致しましたら、別の理由になりましてよ。間違いなく…。


麻衣沙はご結婚されても、苗字は変わられません。今後、立木家の若奥さまと呼ばれることでしょう。立木家ならば斎野宮家とそう変わらない家柄ですし、これまで通り彼女とは友人として、お付き合いできますわ。将来的には光条家に嫁がれる悠里先輩は、今は光条家とお付き合いがなくとも、二之倉家は其れなりに有名なお家柄です。彼女とも今後もまた、お付き合いはできそうですわね。


問題は、美和ちゃんとエリちゃんですか…。彼女達はごく普通の一般人で、彼女達が嫁ぐ先の家柄も、同じく一般人の家庭なんですよ。裕福な家柄と言えども、私達の家柄とは月とスッポンほどの違いが、ありますわね。


今後、私達女子友の関係は自然消滅してしまう、そういう可能性が高くて…。結婚後はこれまでのように自由に1人では出歩けませんし、私や麻衣沙は社交のお付き合いも、今後は増えることでしょう。そういう理由で私は、彼女達との縁を失くしたくありません。今後も彼女達とは、家族ぐるみのお付き合いをしたい…。今の私達は単なる乙女ゲームキャラではなく、、戦友という間柄なのですわっ!


そう熱く語る私に、麻衣沙は苦笑されておられます。けれども麻衣沙も、同様に思っておられることでしょう。明らかに普段の苦笑とは、違いますものね。反対されてはおられませんよね?


 「無理をしてまでお会いするのは、彼女達の負担となりますわ。ですから、最低でも年に1度、『この日は、何が起ころうとも再会する』というように、予め決めて置けば宜しいのよ。後はお互いが暇になった折にでも、メールや電話で近況をご報告すれば、宜しいのですわ。その方がお互いの距離感も、保てますわね。」

 「年に1度……だけ?」

 「ええ。結婚直後はまだ、再会することも可能ですわ。但し、彼女達もご結婚された後は、毎日の生活に追われるようになりますと、手紙や電話でも中々…連絡が取りづらいとか、子供が生まれると毎日が戦争だとか、よく耳に致します。妻になることも母親になることも、わたくし達が想像しておりますことよりも、ずっと大変なものなのですわ。」

 「…うん。そうですわね…。生活環境も、全く違いますものね…。」


私が描くような未来ではなくとも、麻衣沙の仰る通りだとも感じております。言うまでもなく前世の私は、一般家庭に生まれた一般人でした。これでも一応は、一般家庭の苦労はしたのです。…そうですね。私は、肝心な事実を忘れておりました。現在の私や麻衣沙の家庭には、お手伝いさん達が当たり前に存在しておりますが、一般家庭でお手伝いさんを雇うのは、かなり裕福な家庭なんですよね…。前世の私の家は勿論のこと、ごく普通の家のようでしたよ…。


要するに…簡潔に申すならば、私・麻衣沙・悠里先輩の家では、育児はお手伝いさんがしてくれるのですよ。勿論、前世の記憶がある私は、なるべく自分も育児に参加する予定ですのよ。但し、育児に専念出来ない可能性も、ありますわね。こうも環境が異なるもの、なんですね。


麻衣沙の仰る通りです。そう気付いた私は今はこれ以上、深く考えないことにしましたのよ。彼女達と永久に親交を続けたい気持ちは、変わりません。その気持ちを持ち続ければ、よね?


私達の結婚式は、親友達には盛大に祝ってほしい…。そして、その逆も然り…なのですわ。それが最後などとは、言わせませんっ!…絶対に………






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 当初は、11月のお話の予定で構想中でした。終了に向けての話となります。


今回は、瑠々華視点です。


そろそろ終わりに近づき、こういう話となりました。結婚すると、今までの友達付き合いが出来なくなる場合も、ありますよね。特に、こういう家柄の格差が立ちはだかると、難しいかと…。


本文中に、『樹とホテルでクリスマス会』というキーワードが出てきますが、これは4回前に書いた『お月見の後は~』の続きの内容です。結婚式は何方が先なのかについては、『婚約破棄はもう』の本編終了後と繋がります。最終的には、其方の本編後の話に持っていこうと思います。番外編集も繋がりがなさそうで、閑話な話題というだけで全てと繋がるようにと、書きました。



※読んでいただきまして、ありがとうございました。

 次回は、また何時になるか…分かりませんが、またよろしくお願い致します。

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