彼女の奇行に慣れた日々

 「…ふはははっ。藤野花さんは、面白いよな。今頃思い出したからって、キャラに成り切ってコスプレなんて…。そういうボケは、美和だけかと思ってたよ。」

 「麻衣沙は、何でもよく似合うな…。偶には、そういうコスプレとかを…するのも、良いかもな…。」

 「それほど短い髪の英里は、初めてだ。今後は鬘じゃなく、英里の好きな髪型にすれば良いんじゃないのか。」


彼氏に褒められた(?)美和ちゃんは、「えへへへっ…。」と照れ笑いされ、同じく婚約者にべた褒めされた麻衣沙は、真っ赤っ赤になられてモジモジされておられます。…ふふっ。麻衣沙、可愛いっ!


彼氏から真面目に感想を返されたエリちゃんは、「相良君らしい誉め方よね。」と苦笑されていて、まるでエリちゃんの方がお姉さんみたいですね。


矢倉君は如何にも楽しげに笑い、「麻衣沙が似合うなら、何でも許そう」と、岬さんは言いたげな雰囲気でしたし、「英里がやりたいように、髪型を変えれば良い」と、右堂さんは真面目にアドバイスされていて…。なのに、その中で樹さんだけが「頭が痛い…」と、実際に仰っておられまして…。


私だけ、のね…。私のこの平凡顔の所為で、可愛くありませんでしたのね…。はっ……!?…それとも、この悪役令嬢顔の所為で似合い過ぎていて、樹さんに「やっぱり、Newヒロインを探そう!」と、思われてしまいましたの?……ううっ。「また締め切り解除して、今から婚約破棄致します!」と、私と樹さんの婚約は…破棄されますのかしら……。


 「……認めたくないけれど、その青い髪もショートヘア―も、ルルに良く似合っているよ。よく似合っているけれど、俺はやはり…何時いつものルルが良い。ルルは平凡顔ではなくて、断然可愛いのだからねっ!…それに況してや、悪役令嬢顔の筈がないんだよ。例え、君の顔が悪役令嬢風の顔だとしても、俺はそういうのは全く気にしていないからっ!…絶対に今更、婚約破棄はしないからっ!!」

 「…樹さん、どうされましたの?…急に大きな声を出されて…。」

 「……今、君が呟いていたからなんだけど…。」


あらっ、またまた私ったら、心の声を漏らしておりましたのね…。目をパチクリさせ首を傾げておりましたら、「しっかり口に出していたよ…。」と樹さんが、溜息をくように呟かれます。…それは、失礼致しましたわ。


それでは何故に樹さんは、私のコスプレを認めてくださらないのかしら…。私のコスプレ姿を褒めてくださらない理由は、何なのでしょうね…。あっ、それとも単純に、樹さんの好みの女性が青い髪とショートヘアーですのに、それを私がコスプレした所為で、理想が崩れてしまっただとか…。う~む…。


 「…………」


そういうことを考えておりましたら。…あらっ?…何故か樹さんが無言のままで、ガクっと肩を落とされましたわね…。樹さん、どうされましたの…?


 「あはははははっ……。…いやあ~。藤野花さんも、良いセンいってるよなあ。美和も物凄い天然人間だと思うけど、藤野花さんは別の方向で天然人間だよな…。藤野花さんのは恋愛音痴で恋愛下手で、その上自己評価も低くて、恋愛方面で全部悪い方に考える癖が、出来ているみたいだね。美和の根っからの天然とは、ちょっと違うかな…。」


…ん?…矢倉君がおかしなことを、言われますが。私が…恋愛音痴で恋愛下手?…う~ん、確かに恋愛上手では、ありませんけれども…。自己評価も低い?…誰が?


私の自己評価は適切ですよ。自己評価は高ければ良いものでも、ないですものね。恋愛方面で全部悪い方に考える癖?…何ですか、それは。自分の都合の良い方に考えすぎるよりも、マシではないかと…。


 「…ふむ。藤野花さんは、マイナス人間だな。もう少しプラスに考えられたら、彼女はもっと魅力のある女性になりそうだな。」


…はて?…私がマイナス人間?……はっ!?…私に欠けた部分があると、そうお思いなのですね、右堂さんは…。そうですよね…。私には沢山、欠けている部分がありますわよね…。……ふう~。私って、でしたのね…。もう少しどころかもっと、プラスしなければなりませんね…って、一体何を??


 「…え~と。こうなりましたら、ルルはもう…私達の意見など、聞いておられませんことよ…。我が道を行く…というタイプですから、マイナスに考えられておられるというよりも、プラスに考えられない思考…なのですわ。これ以上は分かりませんので、放っておかれるのが一番でしてよ。」






    ****************************






 麻衣沙嬢に危険人物認定された、ルル。彼女は暫くの間は、ブツブツと呟いていて意識もあったようだけれど、今はもう何も話さないし、何も見えていないようである。…ふう~。こうなると何時になったら目覚めるか、誰にも判断がつかない。幸い此処は、彼女の家の中である為、藤野花家の使用人達が面倒をみてくれるだろうが、俺はまだ…彼女に伝え切れていないというのに…。


彼女にきちんと伝えようとする前に、矢倉君や右堂君が横やりを入れて来たので、ルルの意識が思考の渦に深く沈んでしまった…。ルルは昔から周りにやいやい言われ過ぎると、自分の考えに集中してしまう癖がある。そう、これは…彼女の癖みたいなものだった。


乙女ゲームの話を初めて聞いた時には、彼女の前世の人生も含めて知り、彼女の自己評価が異常に低いのは、前世の世界の環境に依るものだと知った。マイナス思考に陥るのも、麻衣沙嬢が先程語った通り、彼女自体にプラス思考が全くないからだろう。優しくて明るい彼女だからこそ、無意識に傷ついてしまう。前世と現世の記憶が混ざり合う幼い頃に、思い出してしまったのだろうな。俺や麻衣沙嬢と出会う前だったのが、悔しいよ…。


それでもルルは後ろ向きにはならず、常に前を向き顔を上げて立ち向かって行く。マイナス思考だろうがプラス思考だろうが、もう今更どうでも良いことだ。要は俺が、良いだけの話である。


そんな風に考えて込んでいる最中に、ふと誰かの視線を感じて振り返れば、ルルが俺の背中をジッと見つめていた。何時の間に…彼女は、復活したんだろう。俺の方が暫く、思考の海に流されていたようだな…。


 「…え~と、樹さん。麻衣沙とエリちゃんと美和ちゃんは、もう…帰られてしまいましたの?」

 「いや、今は買い物に出掛けているだけだよ。雨川あまかわさんが、受験勉強で使用する文具を買いに行くと言い出したから、他の皆はついて行ったんだ。序でに、他にも買い物して来るらしいよ。」

 「ええ~~!狡いっ!…私も一緒に、買物に行きたかったですぅ…。」


ルルは女子友の姿が見えないことに、寂しさを感じているようだ。自分が妄想の世界に入っているうちに、帰ってしまったのでは…と、心配しているのかもしれないな。俺は彼女を元気づけようと、単に買い物に出掛けただけだと教えたのだが…。何しろ、ルルを暫く放置する必要があるからね。まだ30分くらいしか経っていないな…。ルルがこんなに早く復帰するとは、誰も予測が付かなかったに違いない。


 「どうして今更、乙女ゲームのキャラの髪型が、気になったのかな?」


俺は今回のルルの奇行が、気になっていた。今頃思い出したからと言っても、普通は「自分と違ったんだな…」というほどにしか、気にしない筈である。


 「今は雨季ですよね。髪を染めていたのかな〜と思ったので、絵の具ならば雨でも簡単に落ちるので……。」

 「……え~と、何で…絵の具なのかな?」


何となく…嫌な予感がする。まさか、絵の具で染めたとは…言わないだろうが、そう思いつつもルルがのも、良く理解していた。絵の具が出て来る理由は、意味不明だが……。


 「勿論、絵の具で染めようと思ったので。ゲームキャラは、絵の具で描かれている筈ですもの。あの微妙な髪の色は、絵の具を何種類か混ぜて作った色みたいで、前世の私は美術部だったので、そういうのに詳しくて~。えへへへっ…。」

 「………」


実に…ルルらしいな…。確かにゲームのキャラはイラストなので、絵の具が使われているだろうが、現実では有り得ない話だ。普通は髪染めで染めていると、気付く筈なのに…。まさかルルの前世の世界には、髪染めが存在しないとか…。


 「この世界では髪染めで染めているから、そう簡単には落ちないよ。」

 「…えっ?…髪染めは前世でもあったので、知っておりますわ。そうか、髪染めかあ…。う~ん、確かに、水に濡れたら落ちるスプレー式の髪染めならば、納得出来ますわ…。」

 「えっ?……何それ…。そんな便利な髪染めが、君の前世には存在するの?」

 「…えっ?……この世界には、ないんですの?」

 「…う~ん。俺は一度も聞いたことがないから、ないのかもしれないね…。」

 「では、直ぐに髪の色を戻したい時は、どうしますの?…やはり、絵の具で染めますの?」

 「……いや、絵の具は匂いもきついし、有り得ないから。自然に落ちるまでは我慢するとか、だろうなあ。」

 「……そうなんですね。良かった、やっぱり鬘にして…。本当は染めようと思って使用人に頼んだのですが、何故か大反対されましたのよ…。絵の具で染めるようとしたのが、バレたのかしら?」

 「………。」


いや、それは普通に大反対されるよね…。染めたら当分落ちないし、青髪とか金髪とかにするなんて…。絵の具で染めようとしたとは、流石に彼らも想像だにしていなかっただろうし…。


どうあってもゲームのイラストと現実とを、まぜこぜにしているルルだけど、俺は今日もを知り、そしてもっと好きになる。ルルと過ごす日々は、毎日が新しい出来事で新鮮なんだよね…。






=====================================

 今回は、前回の延長線上での話になります。雨季に因んだ話です。


前半と後半では、視点の主が異なりますので、ご注意を。前回の続きですが、前半は瑠々華視点、後半から樹視点に変わります。


前半で暴走したルルは、暫く放置されることとなり、後半では復活したルルと樹の2人でのやり取りに…。後半でも、ルルがやや暴走思考気味なので、樹が語ることとなりました。


スプレー式の簡単に落ちる髪染めは、この異世界では存在しないことにしました。その方が、ルルが暴走しやすいので…。


今回も、まだ恋人の居ない光条さんは登場しません。こめんね、徳樹君…。



※読んでいただきまして、ありがとうございました。

 次回は、またいつか…分かりませんが、またよろしくお願い致します。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る