過去と未来が交差した時・後編

 前後編の2部作の後編です。過去編(?)は、これが最後の話となります。


前回と同じ、とある人物の視点の続きでしょうか。


※ここから先は今までとは違い、もしかして…の世界のお話となりまして、本編と必ずしも繋がっている、と言う訳ではありません。要するに、最初から意識して書いたお話ではない、ということです。ですので、もしかしたら…と思いながら、ご覧になっていただきたいと思います。これを念頭として、ご承知願います。




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 「初めまして、『森村もりむら 華奈未かなみ』です。お邪魔しています。」

 「………」


たった今、僕の目の前には、あの少女が立っている。遠目で容姿がよく分からなかったにも拘らず、僕は一目でピンと来た。少女を見た途端、僕は前世の出来事をある程度思い出し、雷が落ちたような衝撃を受ける。


何故、こういう事態になったかと言えば、時間を遡ること僅か10分程前の出来事である。僕が小学校から帰宅すると、既に帰宅していた妹が、満面の笑顔で玄関まで迎えに出てくる。


 「お兄ちゃん、お帰り~。」

 「ただいま、知夏ちか。」


僕を出迎えたのは、妹の知夏だ。知夏は人見知りが激しく、家族にはちょっぴり甘えん坊のごく普通の女の子なのだが、妹の容姿は非常に見目麗しく、好きな女子を虐める馬鹿な男子に好かれ、同性の女子には目の敵にされていた。お陰で知夏は、余計に友達を作るのが苦手となっていく。


 「お兄ちゃんっ!…私ねっ、仲のいいお友達が出来たんだよ。」


にこにこ顔で報告する妹に、僕もつられて笑顔となる。今の僕のクラスメイト男子達は、弟なら兎も角も妹は、鬱陶しい存在だと見ているようだが、以前の僕には姉が居ても妹はおらず、兄に懐く妹は可愛くて仕方がない。


知夏から妹の友達の話を詳しく聞こうと、妹と共にリビングに入って行くと、そこには…。妹の同じ年齢ぐらいの見覚えのない女の子が、ソファーに座って祖父母と談笑していた。僕が入って来たのに気付くと、少女は立ち上がり挨拶をしてくる。


 「華奈未ちゃんと私は同じクラスで、転校して一番に仲良しになったお友達なんだよ。華奈未ちゃんのおうちも、お父さんとお母さんの帰りが遅いんだって。今日、夕食も一緒に食べたいなあと思って、誘ったの。」


僕が何も喋らず、黙ったままで立ち続ける所為か、知夏が補足するように話し掛けてくる。怪しい態度は取ってないよな…と、僕は自問自答してみる。いくら何でも僕がまだ小学生でも、年下の少女をジッと見続けていれば、頭のおかしい奴だと思われても、仕方がないからね。


実際には僕は、非常に戸惑っていただけだ。目の前の少女は見覚えもないが、どうしてか見覚えがあると思えた。少し前に梅の木の下に居た少女だと、何故か直ぐに気付いた僕は、彼女と目がピタリと合った途端、僕の身体には電流が走った気がして…。記憶が一気に、蘇ってくる。転生前の前世の記憶として…。僕の傍に居た女性だと、確信する程に。


但し、物的証拠は1つもないだろう。名前も容姿も全く違う。以前の彼女は、美人寄りの可愛さのある女性だけれど、僕は目の前の少女を可愛いと思えども、好みによると言える普通レベルに、近いだろうか…。


前世と異なり、一目惚れはしていないと思う。唯、だと思えば、僕には自分好みだとしか思えない。笑顔で挨拶してくれた彼女は、過去に初めて会った頃の彼女と、仕草が似ていると思う。…いや、この場合、同じ魂だからなのだろうが。少女をどうやって探そうと思っていた矢先で、本当に突然の出来事だったので、僕は暫く固まってしまった…。


…唐突過ぎて、逆にどう話し掛ければ良いのか、分からない…。…あれっ?…知夏は今、クラスメイトだと話したよな。だとすれば…少女は妹と同い年で、小学2年生だということだ。今の僕は4年生なので、決して…ロリコンではないよね?


 「…初めまして。妹が家に友達を連れて来るのは、、少し驚いたよ…。僕は『佐々木 柚弦』、4年生だよ。…よろしくね。」


僕は意を決し、冷静なフリをして自己紹介をする。何とか誤魔化せたようで、その後は妹も交え、学校の話や彼女の家族の話を、聞き出すことができた。夕飯を一緒に食べた後、僕達の家から少し離れていたので、年長である僕と祖父と共に、少女を送って行った。少女とも友人の兄として知り合えたし、「妹よ、ありがとう。」と僕は妹に、心底感謝したぐらいだ。勿論、心の中だけで…だけれど。


…よしっ!…何とか、一歩前進したな。まさか、少女が2歳年下の妹のクラスメイトで、然も…妹と大の仲良しになるなどとは、よ。ラッキー以外の何物でもない、と思うよ…。


僕は、まだ知らない。幼い少女が、様々な問題を抱えているなどとは、ちっとも気付いていなくて……。






    ****************************






 「華奈未ちゃん、目立ちたがり~。どう見たって主役は、咲歩子さほこちゃんがお似合いなのに。」

 「咲歩子ちゃんの所為にして、嘘つきだよね。」

 「可愛くて性格も良い南部のべなら、分かる。主役が森村なのは、おかしいよな。」


妹を迎えに来た僕は、華奈未ちゃんの悪口を言うクラスメイトの会話を、偶然に聞いてしまう。今日は彼女のご両親が、仕事で帰宅が遅くなる日だ。普段は叔父さん夫婦に預けられる華奈未ちゃんを、今日は僕の両親が預かることになっている。


叔父夫婦は自分達の機嫌次第で、彼女に体罰を加えていた。偶然にも僕ら兄妹が気付き、両親や祖父母に相談して、彼女のご両親が帰宅が遅くなる日は、僕の家で預かることになった。前世の彼女が暴力や暴言を恐れていたのは、この人達の所為だったのだろうと…。


これ以上、彼女を酷い目に遭わせたくない。彼女に、悲しい顔は似合わない。それなのに…。彼女はクラスメイト達から、悪口を言われていた。その原因は、隣のクラスの『南部 咲歩子』という女子生徒に問題があると、妹から聞かされた。


 「劇の主役は、華奈未ちゃんがいいと思います。」


2年生全員で参加する劇の主役に、そう推薦したのは南部さんだ。それなのに他の生徒達は、『南部さんを押し退けた』と華奈未ちゃんを悪く言う。正直僕も妹も、他の生徒の言い分が理解出来なくて。


南部さんと華奈未ちゃんは昔からの幼馴染で、南部さんが彼女を毎回主役に推薦しては、その度にこういう悪口に発展するようだ。華奈未ちゃんが南部さんにそう言わせたとか、南部さんは可愛い上に優しいからだとか、他の生徒達が本気で信じる南部さん信者に…。最終的には、南部さんが主役になるらしい。


…なるほど、ね。何となく、意図が判明したよ。


南部さんは、中々強かな子だ。少し前から知夏に詳しく聞いていたので、ここ暫く観察していた。南部さんは確かに将来、美人になるタイプかもしれないが、性格は最悪だ。中々の腹黒い少女である。まあ、僕も其れなりに…腹黒いタイプだが。


 「知夏、華奈未ちゃん、迎えに来たよ。華奈未ちゃんは、ご両親がお仕事で遅くても、我が儘を言わなくて偉いよ。人見知りの妹と仲良くしてくれて、本当にありがとう。華奈未ちゃんは主役じゃなくても、何処かの誰かさん達とは違って、裏表のない良い子だからね。華奈未ちゃんにはずっと、知夏と仲良くしてほしい。」

 「…うん。ゆっくんとちぃちゃんとは、これからもずっと仲良しだよ。」


僕は華奈未ちゃんに話し掛けつつも、他の生徒にこれ見よがしの嫌みを言う。彼女を思いっきり褒めて、南部さんを裏表がある人だと、チクリと皮肉る。まだお子ちゃまな彼らには、今はまだ理解できないだろうけど、そのうちに本性が見えて来るだろうと、僕はそう思う。


僕の嫌みが理解出来ないようで、南部さん本人も含め、ポカンとしている。何方が嘘を吐いているのか、一目で分かるのに…。見た目だけで判断するうちは、本質が決して見えないことだろう。例え、今後彼女が彼らを許したとしても、僕は今後も絶対に許さないだろう。


華奈未ちゃんも僕の言いたいことは、分かっていないようだ。今後彼女に何か危害を加えるならば、僕が…。前世の知識を使えば、簡単だよね。今の僕はある程度、全て思い出しているというのに、どうゆう訳か…自分と彼女の前世の名前だけは、思い出せなくて…。


僕は『柚弦』なので『ゆっくん』、妹は『知夏』なので『ちぃちゃん』、彼女は僕達兄妹をそう呼び、反対に僕達兄妹は、『華奈未ちゃん』と呼んでいる。もっと彼女と親しくなったら、『華奈』と呼ぼうと密かに決意して。今はまだ、そう呼ぶ勇気はない。いつか僕が、そう呼べる日が来れば良いなあ…と。


あれから数年経ち、俺達が高校生の頃に、前世を思い出す切っ掛けができた。例の乙女ゲームである。俺達が乙女ゲームの登場人物だとは、前世で彼女から聞かされたけれど、……。


乙女ゲームは、前世の俺の世界そのもので、登場人物は自分が知る人達だ。華奈未かのじょと知夏が乙女ゲームに嵌ったことで、俺もこの目で確かめることとなる。ゲームのイラストと設定を見た俺は…。


…なるほど。前世の彼女の語った設定を、実際にゲームすることで体験することになった、俺は…。此処でも、華奈未かのじょに振り回されることとなる。


 「…華奈の推しは、『王子』なんだよね?」

 「…う~ん。『王子』はかっこいいけど、私の一番の推しは、悪役令嬢の彼女なのよ。悪役令嬢にしておくのが勿体無いぐらい、正々堂々としている人だから。」

 「…悪役令嬢は他にも居るけど、この人物はどうなの?」

 「…う~ん。この人は、好きになれないな…。性格も自己中で我が儘で、同じ悪役令嬢でも、彼女とは真逆で…。絶対になりたくないタイプだよ…。」

 「………」

 「後は、『眼鏡くん』もいいな~。腹黒だけど、一途で…。」

 「……っ!?………」


華奈は覚えていないので致し方がないが、俺はマジで凹んだ。悪役令嬢に負けるのは仕方がないとしても、選りに選って何故に『眼鏡くん』なんだよ…。腹黒いタイプが好みならば、…。


…まあ、いいか…。俺と華奈との関係も、随分と近づいた。後もう少し、俺が頑張ればいい。これから、挽回すれば良い。これからも此処では、まだ続いて行くことになるのだから…。


婚約破棄どころか婚約も、まだ…締め切られていないのだから、と……





            ~~ 終わり ~~






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 今まで読んでいただき、誠にありがとうございます。当初は、ここで終了にしようかと思いましたが、やはり本来の世界で終わりたいと、あと1話を追加することにしました。愈々次回で、完結予定です。


本編を読まれると、大体誰の視点かご想像が出来るかと思いますが、敢えて…前回同様今回も、誰なのか…とはしておりません。


今回で終わりなのに便宜上必要として、今更ながらも今回登場する人物達に、名前をつけました。名前の由来は、特に本編とは関係ありません。一応は前世(?)でも、恋愛関係になりそうなのかな?


※『重要ポジ』の物語とは一部、キャラの名前が異なります。これは別の物語にしようとして、『重要ポジ』の設定時に見直した次第です。


※『婚約破棄はまだ~』は、次回で終了予定となりましたので、あと少しだけお付き合いくださいませ。

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