春休みは2人っきりで、外出を!

 今日は久しぶりに、ルルお姉様とマイお姉様にお会いする日です。あれから…まだ半年ほどしか、時間が経過していませんのね…。何だか、随分と時間が経ってしまったような気さえ、しているのですが。


乙女ゲームのヒロインだった筈の彼女は、残念な結果となりましたが、彼女の行動は行き過ぎていたのだから、仕方がありませんよね…。もう少し利口なお人でしたら、済みましたのに…。それでも、私達の事情を考えますと、彼女が残念なお花畑さんで、良かったのかもしれません。そうでなければ、乙女ゲームの設定通りに、相良すぐり君も…惹かれたかもしれませんし…。


…ふうっ~。あの時は、自分の悪役令嬢としての立場に、立ち向かうのが精一杯であり、これが最善の策…みたいに、思っていましたけれど。今更ながらに、本当にこれで良かったのかと…思う時がありまして。ちょっぴり…後悔もしています。


お姉様達が嘘を吐く人達ではないと、鵜呑みにしてしまい、自分からは…ヒロインと向き合おうとは、一切しませんでした。確かに、あの最後の瞬間に立ち会い、彼女の本性に触れたのですけれど、自分では何も…対処していない、と。今更、悔いが残っているのです。もう少し、、後悔しなかったのでないか…と。


まあ、あのお人好しなルルお姉様に、ゲームでの仕返しをしようとした、と言い切られたヒロインには、同情する気は…これっぽっちも起こりませんが。それでも、私が何もしなくて良い、という理由にはならなかったと、そう思ってしまいます。


ヒロインに同情したい訳ではないのに、他に出来ることがあったのではないか、と思う訳でして。これはきっと、他の誰かを不幸にしたことに依って、自分自身が幸せになったことに対する、偽善的な考えから来るものなのでしょう。私は…何も悪くなかった、そう思いたくて…。


 「英里えり、どうかしたのか?…最近、お前の様子がおかしいが…。」

 「うん…。実は…ね………」


幼馴染でもある相良君には、直ぐにバレてしまいました。私にとっては、恋人という前にお兄ちゃん的な存在でもある彼には、正直に悩みを打ち明けることにしました。黙って聞いてくれている彼は、生真面目な性格ですので、私に適切なアドバイスをしてくれることでしょう。


 「英里、お前は…昔から、優し過ぎる…。だから、そういう気持ちになるんだろう。俺はあの時、斎野宮さんの気持ちが、痛いほど…理解出来たよ。俺も自分の立場だったら、同じようにヒロインを排除したと思う。然も…攻撃した理由が、意味を成すべきものではない。設定から離れた環境だと、理解出来ない…いや、理解しようと思わないヒロインには、何を言っても無駄だっただろう。英里が悔やむ必要など、全くないんだ。」


そう言って、私の頭をポンポンと軽く叩いた後は、ゆっくりと撫でてくれる彼は。ヒロインの今の状況は、自業自得に映っているようで。彼にしては、珍しいことだなあ…。生真面目な人だからこそ、権力を使うことは…嫌う人なのに。王子の判断には、心から納得している様子なのよね…。それだけ、私のことを…心配してくれているのかな?


現在高校2年生の私は、相良君が通う大学に進学しようと、受験勉強を頑張っています。彼は、私が行きたい学部とは、異なる学部に在籍しているけれど、私が受験するつもりでいることを知ってから、受験する大学を変更したみたいで。私が合格出来るようにと、サポートしてくれているのです。秀南大学は難関校の1つですので、成績の良い彼がサポートしてくれるのは、有難いのよね。…うふふふっ。


 「来年は本格的な受験生なんだから、この春休みは思い切り楽しんだ方が良い。春休みは、俺と…その……ドライブにでも、行くか?」

 「そう言えば、去年はずっと忙しそうにしていたけど、何時いつの間に…運転免許を取ったの?」

 「…去年の夏休み中に、だよ。英里には、内緒にしていたんだ。お前の行きたい所に、連れて行ってやろうと思って…。本当は、冬休みにでも誘おうと思っていたんだが、藤野花さん達に誘われていたから、俺は…誘いそびれたんだよ。」

 「……言ってくれれば、良かったのに。そうすれば、冬休み中にでも時間を作ったのに…。」

 「…いや、冬休みの宿題とか課題とか、他にも忙しそうにしてたじゃないか…。だから、ドライブならば何時でも出来るだろうし…。」

 「………。もうっ!…本当に不器用な人だよね、相良君はっ!」


本当に…仕方のない人だなあ。何時ドライブに誘おうか…とか、悩んでいたんだよね、きっと。生真面目で融通が中々利かなくて、自分のことにはトコトン不器用な人…。、私は…好きになったんだよ、相良君…。


 「それで、何処どこに連れて行ってくれるの、相良君?」






    ****************************






 「偶には、春休みには別の所へ、遊びに行かないか?」

 「別の所へ遊びに?…例えば、何処へ遊びに行くの?」


しょうちゃんが行き成り、春休みに遊びに行こう…と、宣言した。私が目をパチパチと瞬きしたくらいに、唐突なお誘いだったのだ。いつもは、大きな街に出て行く以外は、その辺をウロウロするぐらいなものなのに。一体、どうしたんだろう?


 「最近は…藤野花さん達と一緒に、出掛けてばかりだから、偶には…俺と美和の2人で、出掛けたいかな~って…。」

 「…ふうん。それで、何処に行きたいの、聖ちゃんは?」

 「いや、特別行きたい場所があるとかじゃなくて、そ…その…偶には、別の所も良いかな~って、思ったんだけど……駄目かな?」


…う~ん。今日の聖ちゃんは、何となく…変だなあ。偶には偶には…って、さっきから、連発して言って来るし、何処に行きたいのか聞いても、別に行きたい場所がある訳でもなさそうで。まるで…聖ちゃんが、子犬みたいに哀れに…見えて来たんだよねえ…。仕方ないなあ~。偶には、聖ちゃんの我が儘にも、付き合ってあげなくっちゃ…だよね?


 「良いよ。春休みは、聖ちゃんの行きたい所に、行こうよ?…大学の春休みは長いし、偶には2人でお出掛けしたいもんね?」

 「……うん。まあ、正しい意味が…だけど、美和が相手なんだし、想定内…だよなあ。……はあ~。」


早速、私が聖ちゃんの意見に賛成すれば、聖ちゃんは何故か複雑そうな顔をして、後半はボソボソと呟くように喋って、何を言ったのかは…私には聞こえなかったのだ。然も…溜息まで吐いてるし、何が問題なの?


 「…はい?…聖ちゃん、何か言った?」

 「い、いや…。出来れば、美和が行きたがっていた所にでも、行こうか?」

 「…えっ?…もしかして、パンダを見に連れて行ってくれるの?」

 「うん。パンダのいる動物園でも良いし、…OKだよ。美和乃さえ良ければ…の話、だけど……。」


私が気になって訊き返しても、聖ちゃんは誤魔化すように、違う話題を振って来たのである。私が前から行きたがっていた所に誘われた所為で、私は…聞きそびれてしまった。これが、後で…後悔することになるとも、ちっとも気付かずに…。


前々から行きたかった、パンダのいる動物園に行けるかもっ!…私は物凄く、浮かれていた。然も、お泊りの旅行だったら、他にも…連れて行ってくれるかも、なんて喜んでいたんだよねえ。うちの両親は共働きで、仕事が忙し過ぎていたから、幼い頃から殆ど、他県には行ったことがないんだよ。両親が連れて行ってくれる日帰り旅行が、精一杯の旅行だったんだよねえ。宿泊なんて、ルルちゃん達の家にお泊りしたぐらいで。それまでは全くないんだよ…。


聖ちゃんは、去年の夏休みに地元の自動車学校で、免許を取っていた。その後何度か、私も彼のマイカー(新車じゃなくて、中古だよっ!)に、乗せてもらったことがある。聖ちゃんは、滅多に本気で怒ることがないので、運転中も常に安全運転だから、とっても安心できるんだよねえ。安心し過ぎて、助手席に座っている私は、何時の間にか…ぐっすりと眠っているんだけど。別に…退屈とかじゃないからね。


ありがと、聖ちゃん。聖ちゃんが、運転してくれて…。私も運転免許を取りたいな~と言った時は、何故か聖ちゃんに反対されたけど…。結局、私も去年の夏休みに取ったよ。「美和は何時でもボ~としてるから、危いよ。」と言われて、未だ免許取得後には運転していない。これじゃあ、ペーパードライバーになりそうだよ…。


私はまだ、自分専用マイカーを持ってないので、運転に慣れる訳がない。私も将来は、中古で良いから車を買おうかな。聖ちゃんみたいなカッコいい車でなくても良いし、小型車なら軽自動車でも良いし、私も運転したいんだよね。


 「分かった、分かった。俺がもう一度、一から見てやるから。美和の運転が上手になったら、美和にも運転代わってもらうよ。」


そう言って今回の旅行も、聖ちゃんが1人で運転していた。私も代わってあげたいけれど、他の人の車で運転して、事故ったら怖いからね…。聖ちゃんは巫山戯ふざけた人の印象が強いみたいだけど、彼はこういう嘘はかないんだよ。だから、聖ちゃんの言う通りに、従うことにしたんだよ。


私もドライブ好きだから、聖ちゃんとお出掛けするのは、嬉しいな。私は料理は得意だから、お弁当を一杯作って来たんだよ。聖ちゃん、後で一緒に食べようね?


その時の私は、聖ちゃんが私を食べる気でいたなんて、全然…知らなかったのよ。宿泊するホテルの部屋が、1部屋で同室だと知った時には、のよ。結局、私は…まんまと、聖ちゃんに食べられました……とさ。


道理で…2人っきりに、拘っていたんですね。聖ちゃんのス・ケ・ベっ!







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 3月と言えば、春休みですよね。主人公達がまだ卒業ではない為、春休みに因んだお話を書いてみました。今年はコロナの影響で、春休みも通常ではないでしょうが…。このお話で癒されてもらえれば、良いのですが。


今回は前半が英里菜、後半が美和乃の脇役キャラ側の視点となりました。


背景的には、ヒロインが去った後、次の学年なる直前となりますね。


ルルと樹、麻衣沙と岬が、正式にカップルとなってからは、何かというと…ルル達と全員でつるんでいた訳でして。相良と聖武の2人からすれば、2人っきりでいちゃつきたい、というのがありました…。


エリちゃん・相良カップルは、健全なお付き合いです。美和乃・聖武カップルは、今回で大人の階段を…という風に、なりました……。


当初は、別のお話を考えていましたが、書いているうちに脱線し、今のようなお話に変更となりました。結果的には、良かったかな?



※読んでいただきまして、ありがとうございました。次回は、またいつか…分かりませんが、よろしくお願い致します。

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