大学2年目の春が巡って来て

 早いもので、私達が入学してから1年経ち、4月となりました。私も麻衣沙も、今日から大学2年生なのですわ。そして、樹さんと岬さんは、最高学年の大学4年生となられましたのよ。私達が通う堀倉学園付属大にも、大学院がありますけれども、お2人は進学されずに、家業を継がれるそうですわ。ですから、お2人の大学生活は、この1年が最後と言ってもいいでしょう。


本来ならば、3月にヒロインと結ばれた樹さん、しくは…岬さんが2年目の4月の始業式以降、学園でもイチャイチャされており、婚約者であった私と麻衣沙は、婚約破棄された後に、この大学を追い出されておりましたことでしょう。


しかし現実では、ヒロインがバントエンドとされ、乙女ゲームでもを迎えたのでした。3月まであった筈の乙女ゲームは、去年の夏の終わりまでに短縮され、ヒロイン以外の全員が、ハッピーエンドを迎えたのです。要するに、乙女ゲームとは全く異なる結末と、なったのでしたわ。ヒロインももう少し現実的に行動されていれば、バットエンドを回避して違う幸せを、迎えられたのかもしれませんね…。今はもう、遅過ぎですけれど。


乙女ゲームでは、3月以降の物語はありません。これからはもう、乙女ゲームに縛られることもなく、私も麻衣沙も…自由にのびのびと、大学生活を過ごせるのですね?…そう思うと、ワクワクして来ましたわ。


 「ねえ、麻衣沙。これで乙女ゲームが、完全に終了しましたのね?…漸く安心できますわね?…これからは、私達…自由なんですよねえ?」

 「……乙女ゲームならば、うの昔に終わっておりますわよ。未だルルは、続いている…と思われていたのですの?…それに、わたくしが申し上げますに、ルルは昔から…自由気儘でしたわよ。」


…もう、麻衣沙ったら、意地悪しないでよ~。ヒロインが退場したからって、乙女ゲームが完璧に終了したという保証は、何処にもないのですもの…。強制力はないとしても、また何時いつ・何処で、しれません。だから3月までは、油断は禁物でしたのよ。


それよりも、気になる単語がございましたわ。私が昔から自由気儘だったとは、思いも寄りませんでしたわ…。常に冷静沈着な麻衣沙から見られれば、私の落ち着きがない突っ走る行動は、そう見えたのでしょう。あれは、悪役令嬢の素行を回避しようと、古今東西に奔走しておりましただけですのに…。まあ、お陰様で…勘違いも色々と起こりましたが。私的には、自由を満喫しておりました訳では、ありませんのよ。…ぷんぷんっ!


私の一番の勘違いでしたのは、樹さんのお好きな人が…そ、その…私だったとは。今でも…時々、本当に私で良いのか…と、考えてしまいますのよ。今は私自身も、樹さんに対しての自分の気持ちに気付いてしまいましたので、今更…なかったことにしてほしいとお願いされても、なかったことには…出来ませんのよね…。


 「…ふう~。今更、婚約解消になりましても、樹さんよりも素敵なお人なんて、何年掛かりましてもそう簡単に、見つかる筈が…ありませんわね…。」


私は如何どうやらまた、声に出してしまっていたようです。今回は、自分でも気が付いた次第でして、慌てて両手で口を塞いだのですが、口から滑り出た言葉は、もう…元には戻りませんのよね…。しまった…と思った時には、手遅れでしたわ。


 「…嬉しいよ、ルルっ!」

 「うぎゃあっ!!」


私の耳元に話し掛けて来たのは、樹さんでしたわ。後ろから羽交い絞めに近い状態で、思いっきり抱き締められた私…。思わず、カエルが潰れたような声が、出てしまいました…。は、恥ずかしい……。近くにいらした他の学生さん達にも、私のを…聞かれてしまって。い、樹さんから…突然ギュッとされて、私も心底驚きましたのよ。……ううっ。


 「…ああ。君が、そう思ってくれていたなんて、本当に嬉しいなあ…。簡潔に言えば、ルルの相手は俺しかいない…という意味だよね?…俺はとても幸せだよ。」


み…耳元で、その低くて心地よいお声で仰るのは、私の心臓が止まってしまいそうで。や、止めて…くださいませ~~。


 「ふふっ。ルルの驚く姿は、可愛いなあ~。病み付きになりそうだよ。」

 「………。」


い、いえ…。勘弁してくださいませ、樹さん…。病み付きは…止めてくださいな。私の心臓が…持ちません。それでなくても、そういうスキンシップは、元々…前世の頃から、苦手なのですわ。最近の彼の過激なスキンシップには、私はまだ…ついて行けないのでしてよ。きょ、距離が…近過ぎですのよ…。


しかし……。樹さんの好みは…変わっておられますわね?…私の事を好きなだけではなく、私の驚く姿が…可愛いとは…。あんなおかしな声を出す、私ですのに…。まあ今は、彼の好みが正常でなくて良かった…と、言うべきなのかしらね…。






    ****************************






 無事に1年が経ちましたわ。ルルではないですけれども、乙女ゲームの期間は、完全に終了したことになりますわね。本気でルルのように、心配しておりました訳ではありません。それでも、不安要素は0%の方が…良いに決まっておりますわ。


それにしましても、本来の乙女ゲームとは全く異なった結果と、なりましたわね。ヒロインが…乙女ゲームの通りのヒロインであるならば、結末はもう少し…異なっていたかもしれません。わたくしにとってもルルにとっても、最善の結末にはならなかったかも…しれません。ヒロインが最悪の結末となられた以上、これで良かったのだとは…申しませんけれども、同情は…致しませんわ。ええ、決して。


あの結末は、ヒロインが選ばれた結果でもありますもの。この世界は乙女ゲームではないと、わたくし達に関わる道を、途中からでも…回避されていれば、また違った結果となったことでしょうに。本当に…残念なことですわ。


前世では見知らぬわたくし達も、ヒロインとか悪役令嬢とかモブキャラとか考えずに、お互いに協力し合えば、それで回避できたのかもしれません。ゲームの強制力が怖くて、出来ませんでしたけれども。ルルがおられなければ、わたくしも…乙女ゲームの支配下に、置かれておりましたのかもしれません。


ルルは、わたくしの事を勘違いしておりますけれど、わたくしは…そんなに強くはありません。ゲームの麻衣沙は、心の強い人物かも知れませんが、今のわたくしは元々…前世の頃から、心の強い人間ではございません。それに対してルルは、いつも樹さんから逃げてはおられましたけれども、必ず遣り遂げるお人でした。肝心の事項には、立ち向かうお人なのですわ。心が強くなければ、出来ないことですもの。本当に心の強いお人は、ルルの方でしてよ。


私達が2年生になりましたと同時に、岬さんと樹さんも4年生になられましたわ。本来でしたならば、去年から今年に掛けては、就職活動をされる時期でしょうけれども、彼らに関しましては一切必要ないですわね。樹さんは着々と、斎野宮家を継ぐご準備をされていらっしゃるようですし、岬さんは我が父から、立木家の経営について既に学ばれておられます。来年、岬さんがご卒業されますと、本格的に我が家の経営に携わられることでしょう。


ですから、本当はとてもお忙しい筈なのですが…。ルルと無事に2年生に進級出来ましたことで、大学のカフェにてお祝いしておりましたところ、岬さんと樹さんが突如…来られたのです。ルルは全く気付かれず、樹さんが喜ばれる言葉を申されまして、今は樹さんに抱き着かれ……コホン、スキンシップの真っ最中でしてよ。


…ふむふむ。お2人の仲が、あまり進展しておられないような気が致しますのは、でしょうね…。ルルは恋愛には、かなり疎いですからね…。樹さんがこれ程されるぐらいで、丁度良いのではないでしょうか?


 「麻衣沙。瑠々華さんのことばかり、気にしているようだけれど、もっと俺のことも…気にかけてほしい。」

 「…え~と、岬さん…。わたくし、ルルとは違いまして、貴方のご厚意には十分ご配慮しておりましてよ。」

 「うん、まあ、そうなのだが…。いや…そうではなく、その…スキンシップをしたいというか…。」


…ん?……スキンシップ?…もしかして、今のルルと樹さんの状況を拝見されて、刺激…されましたとか?……いえいえ、人前でこのようなことは、わたくしのプライドが…許しませんのよ。本音は…恥ずかしいに限ります。


 「……岬さん。先日そのような件につきましては、人前では…ご遠慮くださいませ、と申し上げましたでしょう?…ですから、わたくしはノーとしか、お答え出来兼ねますわ。」

 「…そうだったな。そういう約束をした以上、たがえる訳にもいかないな。だが…そうすると、人前でなければ良い…ということに、なるのかな…。そうか…。麻衣沙と2人っきりの時ならば、スキンシップも良いのだな…。」


………えっ?……ええっ!?…それは、こじつけでは…ないのですの?…確かに、けれども、だからと申しまして、わたくしに触れても良い…と、申し上げた訳でもございませんのよ。


 「麻衣沙も、一度約束したことは、守ってくれるよな?」


…ううっ。岬さんの方が、一枚上手でございましたわ…。わたくしが異議を申し上げます前に、釘を打たれてしまいましたのよ。今迄は、わたくしに言葉では敵う者などおりませんでしたのに、岬さんにはわたくし…未だ勝てたことが、ございませんのよ。


キッと睨みつけようとするわたくしの手に、岬さんは自らの手を重ね、にっこりと微笑まれ。…うっ。ですから…そういう事は、お止めくださいませ~!






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 入学シーズンを迎え、4月らしいお話を書いてみました。今年も、コロナの影響で…それどころではないでしょうが、お話の中ぐらいは明るく…と思いまして。


今回、前半が瑠々華で、後半が麻衣沙の視点です。主人公達が、無事に2年生となりました。乙女ゲームヒロインは登場しませんが、ヒロイン情報は出て参ります。(名前は出ませんが…)


ルルも麻衣沙も、婚約者と漸く恋人同士となりまして、ラブラブでいちゃいちゃもしたい…という具合です。主に男性陣が…。ルルも麻衣沙も単に恥ずかしいだけですが、照れる方向が微妙に変な方向へと、向かっていますね…。(ルルは天然の方へ、麻衣沙は勝負の方へ。)


もしも、このカップルのその後の恋の行方が知りたい、というようなリクエストがありましたら、ご遠慮なく感想の欄にでも、ご一報くださいませ。



※読んでいただきまして、ありがとうございました。

 次回は、またいつか…分かりませんが、またよろしくお願い致します。

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