ホワイトデーのお返しには…

 今日は男性が女性に、バレンタインのお返しをする日であります。バレンタインデーには、麻衣沙と共に作りましたバレンタインチョコを、私の婚約者である樹さんに、手渡しましたのよ。体育系のノリの私も、お嬢様となったこの世界では、調理の経験はございませんでしたが、前世でも得意だったようでして、すんなりと作れましたのよ。


逆に麻衣沙は、前世もお嬢様でしたので、全くの素人でしたわね。私が思うに…それだけでは、ないでしょうけれども…。あまりにも不器用で、私も驚きの連続…でしたのよ…。まさかの…漫画やアニメで起こるようなハプニングを、この身で体験しようとは…。案の定…岬さんから、料理禁止令が出されましたのよ。麻衣沙の…あの傷だらけの手を拝見されたら、そうなりますわよね…。……ふっ。


樹さんは私へのお返しにと、ホワイトチョコと共にアクセサリーのピアスを、私にくださいましたわ。去年の春に大学生となった私は、夏休み中にヒロインが去って行かれ、乙女ゲームに決着がついましたのを機に、私はそれまでの苦い思いが…と、耳にピアスホールを開けたのです。


勿論、専門医で開けていただきましたので、何も問題はございません。今後ピアスホールを開けられるお人は、是非とも専門医で開けられることを、お勧め致しますわ、なんちゃって。思わず、独り言を口走ってしまいましたわね。


夏の終わりに開けましたので、「今日から3ヶ月はそのまま、ピアスを交換しないでください。」と、医師にご忠告されましたので、今までは開けた時に付けたピアスを、今日までつけておりましたわ。漸く、お洒落が出来るかと思えば、もう嬉しくて…仕方がなくて。


然も、樹さんから頂いたピアスは、本物の宝石で作られた可愛いウサギのデザインで、お高そうだなあ~とは思うものの、あまりにも可愛いデザインなので、即交換致しましたのよ。ウサちゃんの目の部分が、ルビーの宝石を使用し、ウサギ全体はプラチナで出来ておりました。重さも…それなりには、ありますかしら。本当に着けるのが、勿体ないぐらいですけれども、折角私好みのアクセをいただいたのに、使用しない方が…勿体ないと思いましたのよ。


 「…うん。そのピアス、子供っぽいかな~と悩んだんだけど、ルルが気に入ってくれて…嬉しいよ。それに、ルルに…良く似合っている…。」

 「…うふふふっ。本当に、ありがとうございます、樹さんっ!…私、ウサギも大好きなんですのよ。こんなに可愛いピアス、欲しかったんですよね~。流石は、樹さんっ!…私の好み、ねえ。」

 「……いや、それは………」


頂いたピアスを早速両耳に装着を致しますと、鏡の中の私の耳には…ピカピカと輝く存在がありましたわ。その私の姿を、一部始終ご覧になられていた樹さんは…。両目を細めて、はしゃぐ私を…眩しそうに見つめておられましたのよ。…ううっ、少々恥ずかしいですわ…。そんなに見つめないでくださいな。私、アイスみたいに溶けちゃいそうですよ…。


樹さんがご心配された通り、私はまだ子供っぽいピアスの方が、似合っておりますのよ。以前でしたら、こういう彼のセリフも嫌みに聞こえたものでしたが、今は…違う意味で使用されたことは、鈍いと言われる私にも…理解出来ておりますわよ。ですからね、樹さんを褒め捲って置きましたわ。それですのに、肝心の樹さんのご様子が…おかしい?…顔をほんのりと赤くされて、もごもごと口籠られますのよ。


…はて?…どうされましたの、樹さん…。ちょこんと首を斜めに傾げて、問うような顔を致しましたら、彼はご自分の顔を隠すように、左手で押さえられながらも、右手を私の方に突き出されます。まるで、「ストップして!」という感じで。


 「……いや、ルルが…何も分かっていないのは、知っているつもりだが、そういう事を面と向かって言われてしまうと、その…恥ずかしいよ……。」

 「私……何を言いましたかしら?」

 「………。はあ~~~。」


そういう事とは…何でしょう…。自分が言った言葉も、右から左に抜けておりまして、今は…何も覚えておりませんが。あら、嫌だわ…。樹さんにも、そういう意味だと気が付かれてしまいましたわ。暫く無言を貫かれた後、思いっきり…溜息を零されましたもの。


 「怒って…おられます?」

 「…いいや。ルルに…怒っている訳では、ないからね?…ルルらしいなあ…と、呆れただけだよ。だけれど、それが…からね。」


そう仰られた樹さんに引き寄せられ、頬にチュッとキスをされましたわ。真っ赤になって固まる私に、樹さんはクスクスと機嫌よく笑っておられます。私も、先程彼が仰られた『俺のルル』という言葉が恥ずかしかったので、笑って誤魔化すことに致しましたのよ。……ふふふふふっ、と。






    ****************************






 「これは、もしかしなくても…ホワイトチョコですの?」

 「バレンタインデーの日に、君からの手作りのチョコを貰ったから、今回のホワイトデーのお返しには、麻衣沙にも手作りを食べてもらいたいと思ったんだ。」

 「……えっ?!…手作りとは、まさか……岬さんが!?」

 「…ああ。我が家のメイド達に教わったのだが、どうだろうか…?」

 「………。これが……手作り…レベル………。」


……ああ。何という事でしょう…。岬さんのお返しが…手作りチョコなどとは…。然も、これは…素人レベルでは、ないのでは……。岬さん、わたくしよりも…お上手過ぎますわ…。わたくしのが、ガラガラと…崩れて行きそうです。…ううっ。落ち込みますわ……。


 「……気に入らなかったのか?」

 「……!……いえ、そうではございませんわ。そうではなく…ただ……あまりにも素晴らしい出来栄えでして、食べるのが…勿体ないくらいですのよ。」


わたくしが暫く呆然としておりましたら、岬さんが勘違いされたらしくて、シュンと子犬のように悄気ておられました。いえ…違いますのよ。出来栄えがあまりにも本格的過ぎまして、わたくしの方が凹んでおりましたのよ。ですが、この状況ではそういう雰囲気では、ございませんわね。慌てて彼に返答致しましたわ。これも、わたくしの本心ですのよ。


 「…いや、食べてくれ。その為に、作ったのだからな。」


岬さんに強く勧められまして、チョコを摘まんで口に入れました途端…。口一杯に甘酸っぱい味が広がりまして。…まあ、上品なお味ですこと。何処どこのシェフが作られたのかしら…って、目の前の岬さんですわ。うっ…完敗でしてよ…。


 「美味しいですわ、とても…。わたくし好みの…味ですわ。」

 「そうか。それは…良かった。俺は樹と違って、甘いものが苦手だから、味見しても…よく分からなかったんだ。麻衣沙の好みに合って、本当に良かったよ…。」


わたくしは、岬さんに正直な感想にお伝えしながらも、心の中では涙を流しておりましたわ。わたくし、お料理の才能が、全くありませんのかしら…。何が…いけませんでしたの…。


わたくしの心の中での葛藤を、ご存じのない岬さんは、ホッとしたような溜息をかれ、わたくしに微笑みかけてくださいます。ルルではございませんけれど、彼の笑みが…眩しいですわ。ですが…何故に、手作りですの?…バレンタインデーの時には、わたくしの傷ばかりの手をご覧になられて、「麻衣沙は今後、手作りは…禁止だな。」と仰られておりましたのに。…ああ、つまりは…わたくしだけが、禁止ということですの?


確かに、わたくしは良家のお嬢様で、今後も立木家の妻として、お料理など家事をする必要はございませんわ。その為に、何人もの大勢のメイド達がおりますのに。岬さんも、期待など…されておられませんことでしょう。それでも…こういう記念日には、わたくしもルルと共に、手作りしてみたいのです。愛するお人の為に…。


そうですわ。こういう時には、ルルでしたら、諦めずに挑戦されることでしょう。わたくしも、決心致しましたわ。例え…下手でも、怪我をするからと禁止されましても、わたくしの意思を通そうと。この時、密かにそう決めましたのよ。


バレンタインデーの日にも、形の崩れたチョコを「麻衣沙の作ったチョコは、心が籠っていて、美味しい。俺好みの甘さにしてくれたのだな。」と、仰ってくださった岬さん。気付いてくださったのね…。甘さを調節するのは、お菓子作りが初めてのわたくしには、大変な作業でしたわ。それでも、彼の好みに合わせたいと、懸命に作りましたのよ。そして、わたくしの為に…酸味のある甘さにしてくださった、彼には。わたくしもまた…作りたいと、思ってしまいましたのよ。


 「麻衣沙。ちょっと、後ろを向いてくれないか?」

 「…はい?」


チョコを食べながら、密かに決意を固めておりましたわたくしに。不意に声を掛けられた岬さんは、わたくしの向きをクルッと反対に向けますと、後ろから彼の手が伸びて来て…ビクッと身体が震えましたわ。まだ…抱き締められるのに、慣れておりませんのよ、わたくしは。


けれども、今回は…違いましたわ。気が付くと、彼の手でネックレスを掛けられておりましたのよ。…えっ?……これは、彼からの…プレゼント?


 「君には、を纏っていてほしい。その宝石『ラピスラズリ』は、俺の誕生石なんだ。麻衣沙に…持っていてほしい。」

 「……綺麗。これが、ラピスラズリなのですのね。…岬さん、ありがとうございます。大切に…致しますね?」

 「本当は、サファイアにしようかと思ったんだが、まだ当分君は学生だし、これからも…渡す機会もあるしね。」

 「………。」


相変わらず…あれ以降ずっと、直線的な言い回しの岬さん。わたくしは振り回されておりますわ。…ああ、今日もわたくしの顔は真っ赤に熟し。は、来るのかしら?…と。





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 ホワイトデーに因んだお話を書いてみました。今年はコロナの影響で、せめてお話の中だけでも、と思った次第です。


今回は、前半が瑠々華で、後半が麻衣沙の視点です。ヒロイン退場後、両想いとなった後のお話となります。


バレンタインデーを書いたので、ホワイトデーも書きたくて…。ルルは相変わらず…恋愛に疎いですし、麻衣沙は…岬に敗北を感じておりまして、恋愛モードとなっても、甘々…という雰囲気から少し外れているようです。


この4人の恋愛の結末など、本編の方では語られない部分を、その前後の空白の時間のお話など、此方では書く予定です。最終的には、本編の番外編も完結した暁には、その後の行方も書くかもしれませんが。


他にも「誰誰のこんな話が読みたい。」とかがありましたら、お気軽にリクエストなどしていただいても構いません。(ツイッターの方でも可。)出来るだけご期待に添えたら…と思っています。



※読んでいただきまして、ありがとうございました。次回は、春休みネタ書く予定ですので、またその時によろしくお願い致します。

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