貴方と過ごすバレンタインデー

 今年のバレンタインデーは、期待出来るかな…。俺の、ルルと両想いとなって…初めてのバレンタイン、だからである。俺がルルに一目惚れしてから、早10年以上経っていた。


去年までのバレンタインは、2人っきりで過ごしたことは一切なく、どちらかと言えば4人で一緒に出掛けていた。ルルも麻衣沙嬢も、去年までは…乙女ゲームの成り行きを気にしていたようで、俺達を敬遠していたようなのだ。俺も岬も、2人が何かを隠していることには気付いていたが、まさか…俺達が攻略対象で、彼女達が悪役令嬢なんて、知る由もなく…。乙女ゲームの世界だと思われていたなんて、全く考えもしなかったのだ。


矢倉君のように、もっと早く俺達も知っていたら、ルル達の心配は…うの昔に、取り除いていたに違いない。俺も岬も、これ以上婚約者から嫌われたくなくて、遠慮して聞かなかったのが、間違いだったかもしれない…。けれども今更、そう思ったところで遅すぎる。確かにルル達が言うように、もあったのだから、俺達に打ち明けたところで、安心は出来なかったであろうな…。


それよりも、今からの事を考えなくては。漸く想いが通じたのだから、今までの分を取り返すように、恋人らしく思い切り…イチャイチャ、したいなあ。…ああ、そう考えるだけで、顔のニヤつきが止められない。真面目な顔をしょうとしても、気が付くと…いつの間にか、顔が緩んでしまっている。…う~む。自分でも気付けない程、浮かれ過ぎている自分が…恥ずかしい。


 「お待たせ致しましたわ、樹さん。」

 「………。」


今日は初めて、バレンタインデーをルルと2人っきりで、過ごす約束をしていた。恐らく、岬達も。だから、今日は…誰にも邪魔はされない。今日は、ルルと…バレンタイン・デートなのだから。午前中は遊園地でデートをして、夕食はクリスマスらしく夜景の綺麗なレストランで、過ごす予定なのである。


レストランと言っても、遊園地デートの後で行くので、気軽に入れるお店を予約している。遊園地デートで盛装していては、おかしいからな…。だから俺も、なるべく気軽な服装で、それでいてお洒落な服装を身に着けていた。要するに…ルルの普段着に、合わせたつもりだったのだが。俺の前に現れたルルは…。


 「…似合っていませんか?…樹さんはいつもお洒落なので、それに合わせたつもりでしたのに……。」

 「…い、いや。そういうつもりでは、ないんだよ!…ルルがいつもと違って、とても素敵だったから…つい、見とれてしまって…。」

 「…えっ?!…もう…樹さんったら、大袈裟です…。褒め過ぎ…ですわよ…。」

 「いやいや、全然!…誉め足りないよ!…今日のルルは、天使みたいだ…。…ああ、勿論、ルルは普段から天使のようだけど、今日は特に…だよっ!」

 「………ありがとうございます、樹さん。」


……ううっ。今すぐにでも、抱き締めたい衝動に、俺は駆られていた。真っ赤な顔で照れている、ルルが…可愛い。可愛過ぎる…。俺の今日の服装に、合わせてくれているなんて…。一緒に家のパーティに出席する時も、今迄は義務でしか…合わせてくれなかったのに。


ルルに伝えた通り、俺はつい見とれてしまっていて、彼女の服装を褒めなかったのだ。俺が何も言わないので、ルルは…似合っていないかもしれないと、シュンと肩を落とし…。俺は、そんなルルも可愛いと、抱き締めてしまいたかったけれど、流石に使用人達がぞろぞろといる、藤野花家の玄関前では非常識だと、何とか…我慢したんだよ。…ああ、早く…2人っきりになりたい…。


そんな俺の疚しい想いを知らないルルは、俺の言葉に少しはにかんだ後、満面の笑顔を見せてくれた。こういう彼女の笑顔を見せられる度に、漸く俺にも春が来たんだなあ…と、実感しているこの頃である。


俺の家の車で移動し、遊園地でデートしていると、バッタリと…麻衣沙嬢とデートしている岬と、出会ったのだった。選りに選って…何で同じ場所で、デートしているんだよ…。これでは、では、ないかっ!


一瞬…そう思ったのだが、如何どうやらルルと麻衣沙嬢が、同じ遊園地でデートしたいと打ち合わせたらしく。ええ~~。ショックだヨ…。俺と2人っきりのデートだったのに…。と思っていたら……。


「では、またあとでね、麻衣沙。」

「ええ。また後で、ルル。」


遊園地の乗り物に並んでいる時に、偶然出会ったとしても、彼女達は少し話すだけで、以前のように4人では乗らず、2人で乗ってくれたのだ。一瞬驚いた顔をする俺にルルは、「どうされましたの?」と、首をちょこんと傾げて来る彼女は、もう可愛らし過ぎて…。ああっ!…他に誰も居なければ、抱き締めるのに。……つらい。






    ****************************






 俺と麻衣沙はバレンタイン当日、遊園地に来ていた。2人っきりでデートをするのは、今回が初めてではない。乙女ゲームの設定とやらが、完全に終了してからはこうして、何回かデートを重ねている。


しかし、今日はバレンタインという…女性が男性に告白する、特別な日でもある為に、今日のデートは特別だと思っている。それに、あれからは忙し過ぎて、真面なデートが出来ていないのだ。乙女ゲームとやらのヒロインが、色々と遣らかしてくれていたので、その後始末に…結構な労力が掛かっていたので、仕方がない。


勿論、麻衣沙にはきちんと事情を話してあったので、彼女は理解して待ってくれていたのだが、樹の方は…例の如く、瑠々華さんが暴走してしまい…。要するに、彼女の被害妄想が此処ここに来て、また出てしまったのである。


 「…樹さん。他に…好きなお人が出来たのでしたら、早めに申してくださいませね…。」

 「…えっ!?……ルル、何を言っているの?…この前、漸く…だよね?…どうして、そういう展開になっているのかな?」

 「どうしてって…樹さんは、他のヒロインと…出会われたのでは。もしかして…また新しい乙女ゲームが……。」

 「いやいや、それはないからねっ!…新しい乙女ゲームが、例え始まったとしても、俺の気持ちはもう変わらないからねっ!…それとも…そんなに、俺の気持ちが信じられないのかな…。」

 「……そういうつもりでは…ありませんのよ。ただ…急に私がヒロインみたいな展開になって、その後直ぐに樹さんと…お顔を合わせられなくなって、混乱してしまいましたのよ…。」

 「…ルル、ごめんっ!…あのヒロインとかの後処理に、いくら忙しかったとはいえ、ルルに内緒にしていたのが、良くなかったみたいだ…。本当に、ごめん!」

 「…いえ、私こそ…疑うようなことを言って、申し訳ありませんわ。」


…というを、彼らは俺達の前で…演じて(?)いたのだ。麻衣沙も苦笑気味だし、うん…もう、何も言うまい…。逆に、俺達の方は順調だ。麻衣沙は素直に、俺の気持ちを受け入れてくれ、今回の遊園地デートの件も、俺には何でも話してくれる。樹は知らされなかったようだが、俺は麻衣沙から同じ場所でデートすることは、聞かされていた。


偶然会うことを計算して、同じ場所でのデートにしたらしい。ダブルデートはしないけど、近くでデートをしたい…と言うことらしい。好きな異性とデートもしたいけど、仲の良い友達にも会いたい、らしい。偶然出会えたら、お昼を一緒に食べよう…と約束していると、麻衣沙から聞いていた。


何も知らされていない樹は、肩を落としどんよりとしていたが、俺達と別れた途端に…嬉しそうな顔をしていた。…現金な奴だな。いや、それよりも…瑠々華さんの樹に対する扱いは、雑だよな…。もう少しでいいから、樹を気遣って遣ってくれ。あれでも、瑠々華さんに嫌われたくなくて、必死なんだよな…。彼女にヒロインの処遇を伝えなかったのも、樹の腹黒さを知られそうだと、黙っていたんだと思う。だけど、瑠々華さんには…そういうのは、通じない。彼女にはいけないと、俺も何度か…樹には忠告したんだけどな。


 「麻衣沙、今度はどれに乗りたい?」

 「そうですわね…。偶には…あれに、乗ってみたいですわ。」


そう恥ずかしそうに、彼女が指を指した先には、メリーゴーランドがある。馬の方ではなく、ティカップに乗りたい様である。これならば、彼女と一緒に乗れるな。目を回さないように、軽くゆっくりと回した。…ん?…あれは…樹と瑠々華さんだな…。瑠々華さんがグルングルンと大きく回している所為で、彼らの所だけ…異常なスピードで回っている。…お~い、大丈夫か…そんなに回して。


案の定、降りて来た時には、樹の足元は…ふらついていた。瑠々華さんは…元気そうだったけど…。流石の麻衣沙も、樹の心配をしているようで、珍しく彼女の方から樹に声を掛けていた。


 「…樹さん、大丈夫ですの?…目が回りましたのね。彼方あちらのベンチで休まれた方が、宜しくてよ。ルル…貴方は、はしゃぎ過ぎですわよ。」

 「……ありがとう、麻衣沙嬢。ルルは…悪くないんだよ。俺が………」


青くなっていた樹が、麻衣沙に倒れ掛かって来たので、俺は慌てて…彼女を自分に引き寄せた。その所為で…樹は転んだけれど。


 「…おい、岬…。俺を助けてくれても、良いんじゃないかな?」

 「嫌だよ。今はこっちも、デート中なんだ。自分のことは、自分で対処しろ。」


コテンと素っ転んだ樹が、青筋を立てて…俺に文句を言ってくるが、俺が知ったことではない。元々別々にデートしてるのに、そのデート中まで…樹の面倒を見る必要が、何処どこにあるんだよ。


 「…あ。樹さんは、私が介抱致しますわ。彼方のベンチに行きましょう?」

 「…あっ、うん……。ルルが介抱してくれるのなら…。」


瑠々華さんの言葉で、途端に機嫌が直った樹に。心底呆れた俺である。…はあ~。






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 バレンタインに因んだお話を書いてみました。今年はコロナの影響で、バレンタインどころではないだろうと、せめてお話の中だけでも、と思った次第です。


今回は、前半が樹、後半が岬の男性側視点となります。


背景的には、ヒロインが夏の終わり頃に断罪され、新年を迎えた後…となっております。漸く…最新版のお話を、此方でも書くことが出来るようになりました。


ヒロインが去った後なので、ルルと樹、麻衣沙と岬が、正式に恋人となってからのお話です。相変わらず、樹を振り回す…甘さのないルル。カップをグルグルしたにも拘らず、ルルは……平気でした。報われない…樹くん(?)


本編の方は完結しましたが、まだ本編に必要な番外編を出す予定です。その為、本編には影響のない範囲で、此方での番外編の投稿をして行くつもりです。



※読んでいただきまして、ありがとうございました。

 次回は、ホワイトデーの頃でしょうか?…またよろしくお願い致します。

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