節分で、家族のストレス解放を!

 私がまだ幼い頃、ふと唐突に…節分の事を思い出しましたの。…ああ、もうすぐ2月になるなあ~と思った時に、突然のように思い出したのですわ。前世の節分の出来事を…。懐かしいなあ…。そう思っておりましたら、現世では…今までにやったことがないと、気が付きましたのよ。…あれっ?…もしかして、この世界には…節分がありませんの?


 「…お兄様。節分って…知っておられます?」

 「節分?…ああ、聞いたことは…あるかなあ。節分とは、確か…厄払いのような意味があったような…。それが、どうかしたのかい?」

 「はいっ!…私、節分の豆まき、やってみたいのですっ!」

 「…えっ、豆まき…?…豆を…撒くの?…節分で?」

 「はいっ!…節分と言いましたら、豆まきなのですわっ!」


節分を思い出した私は、居間におられたお兄様に、節分という行事がこの世界にあるのかどうかを、確かめることにしたのです。お兄様のご返答から、節分はあるようなのですが、豆まきをご存じないようで。え~と、もしかして…こういう家柄では、豆まきってしないものなの?


確かに考えてみますと、お父様が鬼になって家族が豆まきするなど、考えにくいですわね…。そうか…。だとしますと、麻衣沙のお家でも、きっとしませんわよね。豆まきって、一般家庭でやるものなのかなあ~。でも…やりたいなあ。


豆まきをご存じないお兄様に、ご説明をしておりますと、何とお兄様が興味を持ってくださったご様子ですわ。よ~し!…こうなったならば、お兄様も巻き込んで、家族で豆まき致しましょう!…うふふふっ。


興味を持ってくださったお兄様が、節分用の豆を買ってくるように、我が家の使用人達に頼んでおられましたわ。使用人も一瞬、驚いたような顔をするものの、子供と言えどもお仕えする主人として、私達の頼みを優先してくれました。後は…鬼になってくださるように、お願いしなければなりませんわね…。ふふふっ…。


あれから日が経ち、節分の日の夜となりました。節分用の豆は用意しましたし、鬼の面も豆を買う際にもらいましたので、後は…鬼をお願いするばかりですわね。…あっ、でも…その前に、豆まきしたいとアピールしなければっ!


 「お父様、お母様。今日は節分の日です。節分には豆まきをするそうなので、ご一緒にやりませんか?」

 「…ほう、豆まきか。瑠々華は、豆まきがしたいのかい?」

 「はいっ!…ぜひ、家族でしたくて、豆も用意してもらいました!」


私の両親は、子供達…特に私には、甘いのですわ。ご一緒にやりましょう…と誘えば、お父様はにっこりと微笑んで、私に応えてくださいます。私は、使用人が用意してくれた豆を、期待の笑みを浮かべてお父様に手渡します。すると、今度はお母様が目敏く、鬼の面に気付かれたご様子でして。


 「この鬼のお面は、何か意味があるの?」

 「はい、それは…鬼の役をする人が着けて、他の人がその鬼役に豆を投げて、厄払いするんですのよ。こうやって『鬼は~外~、福は~内~』と言いながら、豆を投げていると、鬼は外に逃げて行くんですよ。そして、その鬼役は…大抵が、決まっておりますのよ。」

 「なるほど…。それは…面白そうね?」


お母様は、鬼のお面に興味津々というお顔で、訊いて来られます。ですから、唯一(前世で)節分の経験者である私が、伝授して差し上げましょう。正しい豆まきのやり方をお教えしましたところ、お母様が含み笑いをされながら、お父様をキラ~ンとした目で見られます。お父様は、鬼役が父親という言葉に反応され、笑顔のまま固まっておられましたが、お母様の期待の視線に…引き攣った笑顔に、なられましたわね…。そして、お兄様も期待を込めた目を、お父様にされておられます。


…ふふふっ。もう、逃げられませんわね、お父様。観念して、くださいませね。家族全員に期待(?)をされたお父様は、ガックリと肩を落とし、鬼の仮面を着けられたのでした。


 「「「鬼は~そと、福は~うち」」」

 「…痛い、痛い、痛いっ!……もう少し加減して、投げてくれっ!」


いざ、開始!…という訳で、豆まきをしております。鬼役のお父様が「何で、この家の主である俺が、鬼になるんだ…。」と、ブツブツ呟かれておられましたが…。いざ始まると、豆が当たると痛いらしくて、鬼(=お父様)は家中を逃げ惑っておられます。痛いのは、それもその筈…ですわ。私達家族だけではなく、使用人達も参加しておりますのよ、豆まきに。


あの後、お母様が使用人に「貴方達も参加しなさい。」と、許可を出されたと言いますか、命令されたと言いますか…。日頃の鬱憤を…この機会にと、丁度良い機会だと、鬼(=お父様)に豆を投げることで晴らすおつもりですよね?…絶対に、そうですよね、お母様?…仕方なく始めていた使用人達も、段々と楽しくなって来たのか、きゃあきゃあ言いながら、鬼(=お父様)に容赦なく…投げております。


 「これ、楽しいわ。来年も、是非ともやりましょう。」

 「本当ですね。こんなに豆まきが楽しいとは、思いませんでしたよ。」


まあ、一番容赦ないのは、お母様とお兄様なのですが…。何となく…厄払いというよりも、鬼を追い払うというよりも、鬼(=お父様)に八つ当たりするのが目的のような気も致します…。う~む…。お父様、お可哀そうに…。自分が豆まきをしたいと、他人事のように思っていた私です…。


鬼としてご活躍されたお父様は、一度邸内から外に飛び出された後、更に庭からも追い出されるようにして逃げられ、暫くしてから戻って来られましたわ。もうその時には…お疲れのご様子でして、現在は…居間のソファにて、ぐったりと凭れ掛かるようにして休んでおられます。お疲れさまでした、お父様…。ですが、また来年も…お願い致しますね?






    ****************************






 「節分の豆まきですか?…前世から知っておりますけれども、一度もしたことがありませんわね。」

 「俺達も…やったことがないな…。」


節分の豆まきは…あれから毎年、我が家では恒例の行事となりましたわ。もう特にお母様が、お気に召したご様子ですのよ。そして豆まきだけではなく、自分の年齢の分だけ豆を食べる…ということにも、我が家では人気がありますのよ。


今の世界では、節分の行事は殆どやらないようなのです。豆まきをしているのは、一般市民だけのようでして。それも、子供が幼い時分だけなのです。何となく…悲しくなりますわね、前世でやりまくっていた私としては。


…という訳で、節分のと、致しましたわっ!…先ず、布教は友人達からですわね。麻衣沙・樹さん・岬さんに布教させていただきます。我が家の節分を例えとしてお伝えしたところ、お3人共興味を示されたまでは、良かったのですが。よく考えれば、3人のお父様たちは…私の父とは違って、威厳のあるお人なのでしたよね…。流石に、鬼役は…無理でしょう。でもまあ、使用人の誰かに…鬼をやってもらえば、良いでしょう。そう考えておりましたけれど。


 「いやあ、豆まきっていうのは、結構楽しいものなんだなあ。あの父が鬼を遣っているのかと思うと、豆を投げ甲斐があったなあ。お陰ですっかり…姉が遣る気になって、毎年遣ろうということになったよ。」


…えっ?…樹さんのお父様、鬼役を…されましたの?…てっきり…使用人がされたとばかり、思っておりましたのに。樹さんのお父様って、何時いつお見掛けしても、笑わない怖いお人のような、気がしていたのに…。人は見かけによらない?


 「そうだね。俺も君達3人が遣っていると言ったら、俺の父親もその気になって遣ってくれたよ。いや、本当にあの父に豆を投げるなんて、普段ならば有り得ないからね、意外と…楽しかったよ。」


…ええっ?!…岬さんの…お父様も?……いや、岬さん。何となく…腹黒くなられて、ないですか?…まだ私の父しか…やっておりませんよね?…何気に…麻衣沙のお父様と、樹さんのお父様をも、共犯に仕立てておられますね?…然も、ひょっとして…日頃のお父様への鬱憤返し、なのですか?……そうなのですね。


 「わたくしも…父に、姉と一緒にお願いしてみましたわ。滅多に我が儘を言わない、わたくしが頼んだと仰って、喜んで鬼役を引き受けてくださいましたわ。意外でしたわね…。ですが…豆まきは、良いストレス発散になりますわね?」


…えええ~~!!…麻衣沙のお父様が!?…本当に…意外です。この中では、一番されそうにないと思っておりましたのが、麻衣沙のお父様でしたのに。目が飛び出しそうなくらい、ビックリ致しましたわ。


…ですが、お3人の意見を正確に噛み砕きますと、何となく…使用された、そういう気が致しますのよ。え~と、節分の豆まきは本来、厄払いの意味でして、悪い鬼を追い出すことで、悪霊などの憑き物を取り払い、福の神を家の中に招き入れる、という意味がございますのに。如何どうやら、我が家のお母様といい、麻衣沙達お3人も、ストレス発散が…本来の目的に、なられておりませんかしら?……うん、まあ、お父様方には…同情致しましてよ…。


私は、皆さんとは違いますわよ。私は純粋に、前世でも父親が鬼をしておりましたから、当然だと思って、お願いしたのでしてよ。寧ろ、私は今の父が、大好きですわよ。ですから、鬱憤返しとかストレス発散とか八つ当たりでは、ございませんことよ。ほほほほっ…。


御三家と呼ばれておられる、斎野宮家・立木家・篠里家が、節分の豆まきをしたことにより、今の世界でも…節分という行事は、有名になりました。そして、家柄に関係なく、父親が鬼役をすることも…当たり前となり、今では…令息令嬢もされるようになりましたとさ…。


めでたし、めでたし。……ん?……何が?






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 節分に因んだお話を書いてみました。今年はコロナの影響で、節分どころではないだろうと、せめてお話の中だけでも、と思った次第です。


今回は前半後半共に、瑠々華視点です。過去のお話となります。


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 今回は、幼い頃の瑠々華視点となります。


瑠々華と麻衣沙には、年の離れた兄弟がおりまして、瑠々華は兄、麻衣沙は姉がおります。然も、兄と姉はこの頃から、婚約者同士です。本篇では登場しない予定ですので、此方でも名前は付けない予定です。


後半で御三家が出て来ますが、正しくは…斎野宮家・藤野花家・立木家となりまして、瑠々華の思い込みで…藤野花家はランク外となってます。


瑠々華が豆まきの布教をしましたが、現在の年齢の瑠々華は…自分が切っ掛けだという事を、すっかり忘れております。しかし、豆まきは…毎年欠かさず、続けられていますけど。


※読んでいただきまして、ありがとうございました。

 次回は、またいつか…分かりませんが、またよろしくお願い致します。

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