成人式の服装は、婚約者色に?

 今日は、俺達の成人式である。俺達は現在、大学2年生となっていた。俺も岬ももう既に、20歳の誕生日は迎えていて、成人後直ぐからお酒も呑むようになっている為、成人式は今更感が強かった。


俺達のような家柄の子息は、一般的な公共施設で行われる成人式には、出席したりしない。俺達には、俺達が出席するに相応しい、そういう家柄の子息を集めた成人式に、出席することになる。成人式への出席自体は、出席するも欠席するのも自由であるのだが、俺達の成人式では…出席しないというのは、悪手あくしゅであるのだ。


何故ならば、顔繋ぎの場でもあるからだ。社長令息や御曹司とは言えども、全員が同じ学校に通える筈もなく、当然の如く、この成人式で初めて出会うこともあり、それが切っ掛けで仲良くなれば、交友関係としてだけではなく、会社の取り引き相手としても、顔繋ぎが出来ることになる。


俺のように、いずれは…親の後を継ぐ者である以上、、顔繋ぎは必要不可欠なのである。それが例え、マイナスとなる人物達とも、再会することになったとしても。


そういう場合は、マイナスとなる人物を、切り捨てれば良いだけである。それならば、何時いつでも可能であることだ。えにしを繋ぐことは、そう簡単なことではないけれども、要らないものを切り捨てるのは、簡単なのだから。少なくとも…俺はずっと、そう思って生きて来た。これからも、不必要なものにはそう判断して、生きて行くだろう。


そんな俺にも、絶対に切り捨てられない人間が、何人かいる。先ずは、自分の家族である。幼い時は、斎野宮家の人間として、孤独を感じていた。今は、当主である父の気持ちも、よく理解しているつもりだ。父が厳しく接していたのは、俺に期待してくれていたからだ。俺が次期当主として、相応しい人間になってほしかったからだと、今では…分かっている。だからもう、今は…家族に対して、何の憂いもないのである。


次に、岬である。彼は、俺には雑用を押し付けられている、と思っていることだろうが、俺にとって彼のことは、無二の親友だと思っている。同性として同年代の友人として、これ以上信頼できる人間は、他にはいない。また…それと同時に、彼は俺の唯一のライバル、でもあったりするのだ。学校の勉強などの学業でも、また家の仕事の面でも、俺が負けられないと思っている人物なのである。


岬とは恋のライバルではないが、つくづく彼とは…好きな相手が被らなくて、本当に良かったよ。流石に恋のライバルには、加減は出来そうにないからな…。彼が既に婚約していて良かった、と思うよ。麻衣沙嬢も、俺にとっては…岬の婚約者であり、彼が惚れた相手でもある為、恋愛感情はないけれど、大事な友人の範囲だ。


そして、その麻衣沙嬢の大親友であり、俺の婚約者であるルル。藤宮家のご令嬢である彼女は、かなりの天然系の美少女だ。初めて出逢った時、彼女の笑顔が眩しくて、俺は一目惚れしてしまったのだ。だけど彼女は…俺を避けている。


藤野花家の完璧なご令嬢であるにも拘らず、令嬢らしくない彼女に、俺はドンドン惹かれて行く。麻衣沙嬢は確かに、美人で完璧なお嬢様だけど、俺には…完璧すぎていて、堅苦しく感じてしまうのだが、ルルと居る時は…俺も、笑みが止まらなくて。あまりにも避けられ過ぎて、本気で落ち込むこともあるけれど、それでも…彼女の真っ直ぐな言動が眩しくて、今では俺にとっては、何よりも大切な存在になってしまっている。


今年の春から、ルルと麻衣沙嬢は、俺達の大学に進学して来ることになっている。また一緒の学校で過ごせる時間が出来て、俺達も嬉しいけれども、今日成人式を迎える俺達は、ルル達より一足先に大人の仲間入りしたのだから、これからは堂々と2人で過ごす時間を持とうと、策略しているのだ。


いつまでも子供のままでは、居られない。彼女も2年後には成人式を迎えるのだから、そろそろ…俺達の関係を、ならない。婚約者のままで居たいのであれば、俺は…ルルを本気で口説かなければ。


 「ルル。俺の成人式の服装を、君が選んでくれないかな?」

 「……へっ?……樹さんの成人式の…服装?……それって、スーツですよね?…私、そういうのは…分かりませんけれど…?」

 「うん。良いんだよ。スーツの色とか、似合っているかとか、見てくれたら…それで良いんだよ。お願い出来るかな?」

 「ああっ!…そういうことですのね?…そういう事でしたら、私…協力致しますわ。…うふふふふ。(ヒロインと会うのが)もうじきですものね?」


珍しく、そう…上機嫌な様子で、二つ返事で引き受けてくれたルル。この時の俺は知らなかったけれど、ルルが笑顔で引き受けてくれて、俺も上機嫌であったのだ。


兎に角、ルルとの仲を進展させようと、そう決意した俺には、まさか…これから半年間、が登場するとは、思っても…みなかったのである。






    ****************************






 「このスーツ、ルルが選んでくれたんだよ!」


俺に自慢するように、そう言ってくるのは、幼馴染でもあり親友でもある、樹である。樹が自慢しているのは、成人式に出席する為のスーツである。今日は、俺達の成人式当日であり、俺は樹と共に、会場に行く約束をしていた。俺達は所謂、美形という扱いをされる人間であり、また家柄も上位の家系である為、一緒に出掛けた方が何かと対処しやすいのである。


 「……へえ~。樹、お前も…瑠々華さんと一緒に、スーツを仕立てに出掛けたのかあ…。」

 「そういう岬も、そうなのか?…麻衣沙嬢に、選んでもらったのか?」


俺もまた成人式に出席する為、スーツを着用していた。俺はスーツは自分で決めたのだが、ネクタイだけは…麻衣沙が選んでくれた。俺のスーツに合うネクタイを、一緒に選んでくれたのだ。多分、樹も似たようなものだと思うのだが、負けず嫌いな彼のことだ。瑠々華さんには似合うかどうか、一々確認を取っていたことだろうなあ。本当に、変な部分で…のだから、俺もいい加減…樹には、逆らわないようにしているんだよ…。彼が負けると、ウザいからな…。


それでも、彼は…トンでもないことで、勝ち負けの勝負を勝手に持ち込んでくるものだから、俺には予想がつかなくて。偶に、俺が勝ったことになってしまうのだ。負けた樹は、「今度こそは、負けないからな!」と勝手に宣言してくれるし、ウザいこと…のだが。


 「俺も、麻衣沙に選んでもらったんだ、このネクタイ。」

 「ああ…。そのエンジ色のネクタイ…かあ。道理で、岬が選ばないような、お洒落なネクタイだと思ったんだよ。案外と似合っているよ。岬はどちらかと言うと、ネイビーのネクタイを選ぶだろ?」

 「……ああ。そうだな。麻衣沙が選んでくれなければ、無難なネイビーを選んだだろうな。」


…はあ~。取り敢えず、スーツの色が被らなくて、良かったよ…。俺のスーツは、グレー色にした。本当は、紺色か黒色のスーツにしようと思っていたのだが、店の主人がこっそりと、樹のスーツの種類を教えてくれたので、俺は敢えてグレーにした、という訳である。


樹がグレーを選ぶ可能性が、一番低かったからである。麻衣沙も似合うと言ってくれたので、そうしたのだが。やはり…黒にはしなくて、正解だったな。樹のスーツは俺が思った通り、黒色であったのだ。樹は普段から黒色の服装が多いので、多分そうだろうと思ったけれども、スーツの色合いは大体が決まっているし、樹と同じ色になるのは…避けたかったんだよな。どうしても…。


エンジ色のネクタイは、麻衣沙が選んでくれた。遠目では分からない程の、細かい柄が入っている。とてもお洒落なネクタイだった。一応はブランド物なので、ネクタイだけでそれなりに、良い値段であったりする。本当は、麻衣沙が自分の小遣いで、プレゼントしてくれた物であるのだが…。絶対に…樹には、死んでも言えないよなあ…。樹は、選んでもらっただけだろうし…。


 「実は…ルルが、これを買ってくれたんだよ!…俺が試着している間に、俺に内緒で…ルルが買ってくれたんた…。」

 「………。そうか…。それは…良かったな。」


樹が貰ったと言いながら、指を刺したのは、ネクタイピンである。ああ、なるほどね…。樹も、プレゼントを貰ったのか。何だ…。気にする必要は、なかったな…。よく見れば、確かに…樹が選びそうもない、タイピンだった。可愛い動物の絵柄が入っている。…なるほど、瑠々華さんが好きそうな…絵柄だな。まあ、樹が気にならないのならば、良いんじゃないのかな…。俺としては本音では、ご遠慮したいところだが…。…う~む。ちと、浮いている気がするし…なあ。


瑠々華さんの趣味が悪い訳ではないが、こういうタイピンは…人を選ぶんだよな。だからなのか…樹は、全く浮いてはいないけれど、趣味は…疑われそうだけどな。まあ、それでも…彼ならば、上手に笑って誤魔化すだろうし、イケメンの割には可愛い系も似合っているし、決しておかしくは…ないんだよな……。


俺の外見だと、絶対にこういう可愛い系は、全く似合わないだろうな。性格上からも、可愛い系は似合わないと、麻衣沙に言われたこともあったっけ…。その時は少しショックを受けたけれど、今は…それで良かったと思っている。


何にしろ、そういう可愛い系は、麻衣沙にも似合わないのだから、俺と並んだ時に違和感を感じるだろうしな…。そういう点では、樹と並ぶ瑠々華さんは、可愛い系が似合う人だから、丁度のかも…な。


 「さあて…。将来的に繋がる…顔繫ぎが、見つかるかなあ?」

 「…そうだな。…俺にも、紹介しろよ。俺もするから。」

 「了解。じゃあ、行こうか。」

 「…ああ、行こう。」






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 成人の日の為、成人式に因んだお話を書いてみました。今年はコロナの影響で、成人式が延期されていると聞き、せめてお話の中だけでも、と思った次第です。


今回は、前半が樹で、後半が岬の視点となりました。残念ながら、ルル達の成人式は、まだなので…。男性陣の成人式で…ご勘弁を。


副タイトルについては、それぞれの婚約者に選んでもらった、ということで。


※読んでいただきまして、ありがとうございました。

 次回は、またいつか…分かりませんが、またよろしくお願い致します。

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