第59話 論功行賞

「よくぞ、集まってくれた。帝国と和平を成し、ミレニア王国の安全が確保できた。諸君らの活躍あってのこと。心より感謝する」


 主だったメンバーを議場に集め、この度の戦いについて振り返ることにした。

 謝辞を述べた後、ペコリと頭を下げると集まった者達から拍手が起こる。

 語ることはいろいろあるけど、この場で細かいことは抜きにしよう。

 

「諸君らの此度の活躍を称えさせて欲しい。戦に赴いた兵全てはもちろんのこと、戦争中にミレニア王国を支えてくれた者達、全ての者が活躍した。全ての者へ一定額の報奨金を出すつもりだ。ささやかな額で申し訳ないが、これで食事でも楽しんでくれれば幸いだ」


 前置きはこれくらいにして、論功行賞をはじめようか。

 相当変わるぞ。この国は。

 

「一番手柄。ロレンツィオ・リグリア。帝国との戦争の誘因、リグリア領の無血開城、トイトブルク森への引き込み及び、森の地図作成……と功績をあげればきりがない。ロレンツィオはリグリア王家から独立して侯爵に叙勲する。また、文官と武官を司る王国宰相の地位を与える」

「……え」

「頼んだぞ。ロレンツィオ」


 にっこり微笑むと集まった面々の手前、曖昧に頷くことしかできないロレンツィオ。

 は、ははは。一蓮托生だよな。ロレンツィオ。

 宰相にするか、リグリアとヴィスコンティ領、トイトブルク森以北をまとめて統治してもらうか悩んだ。

 どうしても宰相が嫌だというなら、三地域を治める領主として君臨してもらうとしよう。

 どちらを選んでも激務である。

 

「続ける。二番手柄は優劣をつけることができなかった。よって複数人選出とする。守備隊長ヴィスコンティ。伯爵位に叙勲する。また職務名こそ変わらないが王国内全ての治安維持を任せる。騎士団長トリスタン。子爵に叙勲する。王国騎士団は今後大幅に強化予定だ。騎士団長の位は国内武官の長とする」


 二人が恭しく敬礼をした。

 他にも二番手柄について続ける。

 イツキには騎士爵を与え、オーク居住地域を領土とした。彼は特に名誉を求めている風ではなく、面倒な統治を嫌がったんだ。

 なので、監察官を置き、本国が手助けする形を取った。

 アルゴバレーノはイツキ以上に爵位を嫌がったので、爵位は無し、報奨金と家畜を与えることに。

 グリモアはミレニアの警備隊長に据える。ジョルジュはピケの隊長にした。

 傭兵たちについては、望めばピケかミレニアの警備兵に就けるより取り計らう。

 

「続いて、三番手柄――」


 三番手には二番手に選ばれなかった主だった面々の殆どを入れた。

 アレッサンドロは新設する王国親衛隊の隊長に。文官らには特別報奨金を出す。

 王国の守備を担ってくれたジャンは騎士爵を与え、王の商隊の安全保障を任せることになった。


 論功行賞が終わり、ゴクリと水を飲む。

 そこで表情を引き締め、一人一人の顔を順番に見やる。

 空気が変わったことを察した彼らは、息を飲んでいる様子。

 いや、一部そうじゃないのもいるけど。欠伸を隠そうともしないロレンツィオや、アルゴバレーノと俺を交互に見てニヤニヤしている豚とか。

 アルゴバレーノも特に変わった様子がないな。

 豚には女子を近づけるのはよしておいた方がいいか。佐枝子を除く。

 

「逃亡した旧貴族の領土は全て接収した。広い領土を持つと言えるのはリグリア・ヴィスコンティ領域を統治するリグリア辺境伯と南部地域にあるベリサリオ侯爵領のみとなった。廃止された旧貴族の封土は王国の直接統治となるわけだ。開拓していない土地の方が広いというのに更に土地が加わった。喜ばしいことだが、王国民全ての鋭意努力を願う」

「守備隊が魔物や猛獣を排除する仕組みを作っているし。これによって王国内の安寧が保たれるようになれば、自然と農地が増えていくさ」

「だな。守備隊を充実させるには資金が必要だ。資金は税金と王の商隊の収入によって立つ。こちらも順調に伸びて行くだろう。両輪がうまく回ることで王国はますます繁栄していく」


 相槌を打つロレンツィオに対し、更に言葉を重ねる。

 意見は無いかと周囲を確認したらヴィスコンティがすっと手をあげた。

 

「帝国とは平和が保たれることになりましたが、他国はどうなのでしょうか?」

「外敵か。さえ……ウラド領は問題ない。ベリサリオ侯爵領と接するロマーニャ王国とピケより西に位置するファビア連合がきな臭いな。ロマーニャ王国周辺国も安心はできない」

「戦端が開かれる、と」

「すぐにはないさ。ロマーニャは過去何度もちょっかいを出してきている国だし、人間第一主義を掲げている。うちとは相容れないだろうよ」

「……ようやく理解いたしました。かの国もわが国と同じく多くの獣人が居住しております」

「扱いも前王時代と同じだからな。大挙してロマーニャから獣人たちが新天地を求めやってくる可能性もある。そうなったら、ロマーニャと揉めるかもな」


 ロマーニャ王国とは主義主張の面でぶつかり合う可能性がある。

 一方でファビア連合だが、こちらの方が深刻かもしれない。

 かの国とは商圏の激突が予想されるからだ。ファビア連合は商業活動が盛んな国だから、ピケが更に繁栄するとファビア連合の港街に行っていた船がピケに来るようになるかもしれない。ミレニア王国は商業活動を奨励する政策を執るから、いずれかの国と商業戦争が勃発するだろう。

 

「来るなら来い。捻りつぶしてやる。ミレニア王国にはそうするだけの力も人材も揃っているからな」

「然りでございます」


 ヴィスコンティだけでなくトリスタンも挑戦的な笑みを浮かべ、深く頷きを返す。

 

 ◇◇◇

 

「ふう。終わった終わった。明るいうちから入る風呂は最高だ!」


 ロレンツィオじゃないけど、暖かい湯船に浸かるとふいいいっと言う声が出てしまう。

 執務室で少し休憩しようかと思ったのだけど、ひっきりなしに誰かやって来るからな。一人になりたい時は風呂に限る。

 

 ガラガラ――。

 せっかく一人で入っていたってのに、誰か来た。

 この時間に風呂にやってくるのなんてロレンツィオくらいしかいないけどさ。

 

「ロレンツィオ。俺がいてもいいのか?」

「……」


 入口扉を開けたから湯気が立ってしまってロレンツィオの姿が確認できない。

 しかし、シルエットがロレンツィオにしては……。

 

「ロレンツィオ様がよろしかったですか……」

「その声、桔梗か。一緒に入るって約束していたのに、入れなくてすまなかったな」

「許可なく入り、申し訳ありません」

「いや。丁度いい」


 薄い布を巻いただけの桔梗がかけ湯してから、俺の隣にちょこんと座る。

 

「……何かあったのか?」

「さすがイル様。帝国の豪奢な馬車が街道にいると九曜から報告がありました」

「ん。乗っている人物は見えたのか?」

「はい。美しいお方が乗っていたと」

「帝国の姫か。こっちからは何も言ってないってのに、言葉より先にってやつか。強引だが悪くない手だ」

「お会いいたしますか?」

「そうだな。女装して会うか。追い返してやる」

「そのままでも問題ないかと愚考いたしますが……」

「え」

「いえ。申し訳ありません」


 プイっと顔を逸らす桔梗が言わんとしていることはすぐに察した。

 薄々どころか、分かっているよ。そんなことは!

 俺の性別を知らない者が俺を見た時の反応なんて、これまで何度も経験している。

 姫を追い返したとして、次に王子が来たら男だと宣言して追い返そう。

 しばらくの間は粘ることができる。

 

 政略結婚は王だから、しなきゃならない時がくるかもしれない。

 だけど、帝国とそこまで深いお付き合いをするつもりなんて無いんだよな。

 いっそ、佐枝子と偽装結婚して遠ざけるのも手か。

 

「うーん」


 悩んでいたら、完全にのぼせてしまって桔梗にベッドまで運ばれるという失態をおかしてしまった。

 まだ、ノヴァーラを仕留め、ミレニア王国の王という地位を確保したに過ぎない。

 本当の戦いはこれからだ。

 ミレニア王国が沈まぬ太陽と称えられるようになるその日まで、俺は駆け続けようと思う。

 そうだな。まずは――。


 おしまい


これにていったんの幕引きとなります!最後までお読みいただきありがとうございました。

新作投稿しております。

こちらはほのぼのスローライフものがたりとなってます。

無骨なドラゴンとちょっと頭の弱いヒロインの物語、、タイトルが女性向けな感じですが中身はいつもな感じとなっております。

こちらもお読み頂けましたら幸いです!


タイトル

大草原の小さな家でスローライフ系ゲームを満喫していたら、何故か聖女と呼ばれるようになっていました~異世界で最強のドラゴンに溺愛されてます~


https://kakuyomu.jp/works/16816452218400777077

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目が覚めたら誰もいねええ!?残された第四王子の俺は処刑エンドをひっくり返し、内政無双で成り上がる。戻って来てももう遅いよ? うみ @Umi12345

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